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生クリームをのせたつぼみとかぐわしい白花にともなう中学生のころの甘酸っぱい記憶


はじめに


 ながめてめでるならば桜。では香る花といえば何だろう。かんばしい香りを放ち、いのちを謳歌するように咲く花々。さまざまな彩りとともに香りをふりまきながら小庭に咲き競う。

すがすがしくどこか人をいざなう魅力があり、かれんな花とともに記憶をよび覚ます。


家庭訪問と新しい出会い

 中学に進学して出会ってまもないころにおこなわれる家庭訪問。教師とともに同級生たち数名でまわった。

担任の教師は、短大を出て研修の1年を経たばかりのほぼ新米といってよかった。急激に身長が伸びていたわたしたちと背かっこうはさほど変わらず、生徒たちに紛れると存在がわからない。

学生と教師を行き来するような話しぶり。だからわたしたちと考えや話が合う。そののち部活で顧問としても顔を合わせ、以来3年間お世話になった。

教師についてはべつの機会として、話を家庭訪問にもどそう。その日にいっしょにまわる級友のうちの半分はまだクラスで話したことがなかった。クラスメイトたちの家を興味深々でおとずれる道すがら、いろいろな話をして急速にしたしくなれた。教師ともそうだ。


ある生徒のうちの庭のかおり

 この地域はおおきな企業の団地住まいの社宅の多い地域だ。それでもなかには一軒家に住む子がいた。そのひとつがある女子生徒の家だった。庭木の常緑の葉が明るかった。

花が咲き競いどこからともなくかぐわしいかんきつ類の花の香り。この花をかぐといまでも快活な彼女のようすを連想する。順番のさいごのわたしの家にもみんなといっしょに来てほがらかに笑っていた。

この生徒とは中学3年間おなじクラス。したがっておさななじみと言っていい。ふたりになるとふつうに話せる間柄だった。いつもにこにこしてだれでもはなしやすい。色白で小柄な風体とは合致しないガラガラ声で、文化祭の劇で白装束の白からすを演じたはず。


わが家のかんきつの花とつぼみ

 すこしまえの時期のわが家。庭に出るとはなの香り。どれだろうと家のまわりをひとめぐりすると、まさにバレンシアオレンジのさいしょの花が開いたばかり。この写真の花。

植えてはじめて咲いたバレンシアオレンジ

ここに苗木を植えて2回目の春。ついに開花した。しかもつぼみが多い。よい苗木に当たったようだ。そしてこの花のよいのはつぼみ。ふんわりと生クリームを丸くのせたよう(写真手前)。このかたちがなにより愛らしい。

庭には各季節で香る花がいくつかある。スイセン、クチナシ、ギンモクセイ、モッコウバラ、テッポウユリ、そしてバラ。隣家にはジンチョウゲ(午前中にたえずそよぐ海風で自宅に薫る)。わたしはなかでもかんきつの花をこのむ。身辺にもこの香りをまずおきたい。


おわりに

 この季節は香りとおもいでがむすびついている。わたしは柑橘系の香りに出会うと、ああ家庭訪問の時期だなと頭にうかんでくる。

こどもたちにこれからしばらくすると「白いぼうし」(あまんきみこ)を国語で教える時期になる。

実った夏みかんのもぎたてのかおりが物語の印象とあざやかにむすびつく。

香りの印象はつよくむすびつきやすいと思う。


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