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英文タイプライターの奏でる音のなかでしごとをしたほぼ最後にちかい世代かも


はじめに

 「ワープロ専用機を学生時代につかいました。」ならばほぼ年代をいいあてられてしまいそう。

でも「英文タイプライターで英語論文を打っていました。」ならばどうだろう。すでに研究費の枯渇がはじまっていた地方大学で、かろうじて大学で使えた道具のひとつ。これをつかったほぼ最後の世代かもしれない。

きょうはいまや貴重になりつつあるかもしれないみずからの経験にもとづいたはなしを。

文章を入力する作業

 とにかく、大学では教わるほうだけでなく教える側も文章を考える、書く、打つ、伝達する作業のオンパレード。論文などで読むばかりでなく、日々どのくらい文字に接してきたことか。いまもパート研究者として論文を執筆する作業にたずさわるが、ここで古き時代をふと思い出してみた。

教わる側の学生時代を思い起こすと、宿題のレポート提出は入学後から卒業までほぼ切れめなく毎週いくつも提出。ワープロが市販されるより前はもちろん万年筆の手書き。

大学院に進んでしばらくする頃にようやく学生のあいだで専用機に手が出るぐらい。つまり6年間のあいだにワープロ専用機の変遷を体験できた。

今回はワープロを入手できるまえの手書き、英文タイプライター時代についてふれる。

英文タイプライター

 4年生に進んで研究室(いわゆる講座)に配属された。研究室には英文タイプライターなるものがあった。これは電源のいるものといらないもののふたつ。

入学以来の3年間、ほぼ万年筆による手書きでレポート提出をしてきた身にとって、この文明の利器だけでも垂涎のまと。4年生の講座配属の意義として使える立場になり、ちょっぴり出世した気分になれた。

わたしはもっぱらIBM社製の電動のもの(電動タイプライター)を使えた。


手動のもの(機械式タイプライター)はけっこう文字を打つ際にコツが必要で、指でキーをうつ強さがある程度もとめられる。文字どおり手動。

電動とはいかに

 電動はそういったことは気にせずに、アルファベットのキーをかるく打てば連動する文字を凸に刻印した金属製のタイプボールとよばれるヘッドが、モーターと連動して急速な動きで文字を選択。タンと小気味よい音とともにインクリボンごしに紙にむかって打刻した。

つまり1文字ずつ指で入力して刻印されていく。この打刻とともにタイプボールの位置がつぎのひと文字ぶん送られる。これらのメカニカルな音が小気味いいし、わたしにはいっちょまえにしごとをしているなあという陶酔感というか(自己)満足感にひたれた。

タイプライターなるものをご存知ない方にはイメージしにくいかと思うが、指での入力とほぼ同時に紙への出力が済んでいる。慣れてくればねらいうちすらできる。

では入力のまちがいをどうするか。なるべくそれはさけたいミスだった。

メリットやデメリット

 このタイプライターはすぐれもので、エラーについては打刻直後にミスに気づいたならば、ある操作によりタイプボールの位置をもどして、消しゴムのようにまちがい文字を打刻して消し(多少あとが残る場合あり)て、正しい文字を打ちなおすとなんとかなった。

ただしミスが多いと仕上がった文書は目がなれると消しあとがわかってしまうものだった。

これが気に入らないとか、正式な契約文書などの場合にはノーミスのものを使った。やはりそれはしごとをする上での矜持というかマナー。したがって長い文書になると、そのまえに手を洗い身なりをととのえてからタイプライターの前に着座する儀式ののちにとりかかった。

わたしは4年生の卒論の本文を手書きで、図表のキャプションを英文タイプライターで。すでに英文タイプライターは必需品といえたし、4年生でそれをなんとかつかえたのは大きかった。修士になるとタイプライターを打つ私のようすをみて、教授から論文を打ってくれと手書き英文をわたしつつ依頼された。

おわりに

 すこしなれてきてリズムよくブラインドタッチできるようになると、打ち込んでいく際の音はわたしにはここちよく、単語の長さやつづりによって音にちがいがあると気づく。

国内留学先でのこと。となりの部屋ごしの教授の秘書さんの熟練したタイピングの音はリズミカル。この機器のつむぎ出す音は耳障りでなくむしろこころ落ち着くものだった。

現在のOA機器にはほぼかんじられない「人間味」のあるといえそうな音を奏でている感じ。

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