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あるやさいの無人販売所で腰を抜かしそうになったできごと


はじめに

 1年半前までやさいを作っていた。昨今の事情により考えもしない場所での3密をふせぐため、いまはすべてを取りやめ、畑を放置している。

そこで、やさいをそこへさかんに持ち込んでいた頃の販売所でのおはなし。

無人販売所の必要なこと

 地元のやさいの無人販売所。管理なさっている方(Aさんとしよう)は魚の移動販売などほかにも手広くされている活動的な方。

JR駅の前で郵便局、公民館、小学校、医院などのならぶ車の行き合いがやっとのせまいメインストリートから入りすぐのところ。ほぼ2kmの円にすべてがおさまる中山間地。住む人の数はしれている。

住宅よりも畑がひろがりやさいをつくる人はいる。この地区にやさいをふくめ生鮮品をあつかう店はここ数年でなくなった。生鮮品を手に入れるならばこの無人販売所が手っ取り早い。

ネットスーパーでは手に取りつつ選べないし、7km離れた最寄りのスーパーに乗り合いタクシーもしくはJRなどの公共交通機関で行くならば、午前か午後の時間のいずれかを確保せねばならなくなる。

海岸線の国道は歩道はなく歩けないので、山道の峠を超えつつ歩けば片道2時間半かかり、帰りは重い荷物を抱えて帰らねばならない。

したがって、手持ちの車もしくは乗り合わせることができない方々を中心に、わりとひき合いがある。やさいを出していた頃は、2,3回に1回はお客さんと居合わせるぐらい。

やさいにとっては過酷な場所

 店のつくりは3方を鉄骨パイプで組んで、天井には波板、周囲は厚手のベニヤでしっかり覆っているだけ。前方を厚手の透明ビニルシートを両開きのカーテンとしている。なかは15平方メートルほど。生産者は番号で表示されている。無人なのでカメラで監視。

出品したい人が最初にAさんに一声かけて許しをもらう。園芸ポット用のトレイ(30×45cmほど)に各自で持ち込んだやさいを盛る。番号札と料金回収容器をつけてやさいとひきかえに代金を入れてもらう。月末にAさんにその月に売れたやさいの金額に応じ、手数料を払うシステム。

温暖な地域でJRの線路と国道を超えるとすぐ海。昼間の風とおしはいいが気温が高い。したがって盛夏に青果物を出品するととたんにしなびれてしまうのでその時期はなるべく避けた。

それ以外の時期でもここではやさいが傷みやすかった。スーパー内の販売所よりも格段に気温が高い。葉物などは収穫して数時間以内で出して、翌日の日中には残りを回収していた。

ただしいずれの生産者の方もやさいの鮮度がとてもいい。ひんぱんに顔を出して管理されている。それだけに傷みがはやいのは惜しい。品出ししてすぐに買いに来ていただけると、よくわかっていただけるはずだが。


やさいを守る

 山がすぐにせまっているので、さまざまな動物たちが店に訪れる。もちろん夜間には店を閉じているのだが、それでもアナグマなどが入るらしい。

Aさんはいかに動物たちが立ち寄らないようにできないかと考えた。

そしてある日、やさいを抱えたわたしは店に近づいてふと店の入口付近を見て「わあっ」と声をあげ、腰を抜かさんばかり驚いた。

すでに置いてあるやさいのあいだから生首がこちらを見ていた。ぎくりとしないはずはない。もう一度おそるおそる見るとそれはたしかに首。理美容師の卵たちが調髪実習で使うマネキンの首だった。

そこへAさんが訪れた。あいさつとともに「Aさん、おそろしすぎる。」と例のものを指さすと「入り口に置いておくと目立っていいかと思って・・・。」とわりと真顔で話す。姪っ子さんの実習道具だったらしい。ほかにも驚かれた方がいただろう。動物たち以上に人間のお客さんたちにインパクトがありすぎた。


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