見出し画像

丑年だから、というわけではありませんが…

さて威勢良くリフトオフ!とは言ったものの、どんな船出にしようかと考えながらゆらゆらと宇宙遊泳をし続けているうちに大分ご無沙汰になってしまった。

危なく面倒な気持ちが湧いてきたため、当初考えていた牛乳についての投稿を書いてみることにした。

牛乳。そもそも大人になっても飲んでいる人はあまり多くはないかもしれない。事実、私もそうだ。とはいえ、飲めばやはり美味しいなと思う。しかし、買うところまではいかない。そんな程度だ。

そんな程度の牛乳についてなぜ書くのか。話は昨年の9月に遡る。

9月、私は北海道のトマムへ行った。噂に名高い星野リゾートで雲海を見るためだ。雲海については見ることができなかったが、一階の休憩スペースで私はとある本との運命的な出会いをした。

それは、「本物の牛乳は日本人に合う」という題名の実直極まりない本で、副題には「ノンホモ・パスチュアライズド牛乳の話」とついている。表紙は誰がどうみても牛乳を連想するデザインでど直球。「本物の牛乳は日本人に合う」というゴロも長さも悪い不器用な題名がむしろなんだか気なった。

私はもともと本そのものが好きなので、読みたい内容というよりもなんだか気になるなという勘の方を大切にしている。いわゆるジャケ買いのようなものだ。見た目にはその不器用で実直な本が何かを伝えたくてウズウズしているように感じられた。

冒頭に書いた通り、牛乳についてなどさして興味もなかった私だったが、その本の不思議な魅力からさっそく手に取りチラリと読んでみたところ、瞬く間に未知なる牛乳の世界へと引き込まれ、部屋へ持ち帰り本格的に読み始めた。

著者は 小寺とき という方で、1982年に、群馬県の東毛酪農と共同で「みんなの牛乳」を開発した一人だそうだ。世間にはいつの間にか牛乳反対論というものが生まれていたらしく、それに一石を投じるような内容だ。本は2008年に上梓されている。

私は小さい頃から牛乳は体に良いものと思って育ってきたし、事実、学校でもそのように教わってきた。しかし私が生まれる2年前にノンホモ・パス乳(後で詳述する)を作り始めた小野寺さん達は、昨今の動物性タンパク質不要論など散見されなかった、当時の牛乳自体を取り囲む好意的な情勢にもかかわらず本物の牛乳をストイックに追い求めた。

それから26年後。世界はグローバル化により情報が一瞬で世界中にシェアされるような世の中になった。その間、主にヨーロッパからエコやロハスやビーガンという主義、コンセプト、規範、ライフスタイルのようなものが生まれ、一部の人たちは動物性タンパク質を悪魔崇拝のように忌み嫌っている。

ちなみに私も一時期、屠殺を他人の手に委ね命の実感を持たないままにただ素材として肉を食べることに抵抗を感じたこともあったが、結局は何でもありがたく食べることにした。なぜなら、人は人故にいちいち全てのことに理由をつけ自己肯定したりそのために疑問を持ったりするものであるが、そもそも我々は一種の生き物として食物を食べ排泄し子孫を残すのが生命としての当たり前の生き方であり、美味しく食べられるということは、それがまぎれもなく私たちにとっては食べ物であるということだ。ゴミ箱を漁るカラスにその行動についての哲学などあるはずもない。

無論のこと、地球上で最も蔓延っている一つの生命種として、地球のバランスを壊さないよう生産と消費に留意するのは大人として当然のことであるが、素材そのものを観念的に忌避したりするのは時間の無駄だと考えた次第である。

私はあれこれ否定の対象を見つけるのに奔走するよりも、世界に対して常に感謝と愛情を持って生きていたい。

さて、本の中身に話を戻そう。まず、これを読んでいる方は”ノンホモ・パス乳” と聞いて何のことだか分かるだろうか?分かる方は既に調べているか乳業関係者の方かもしれない。ノンホモとはノンホモジナイズド、パス乳とはパスチュアライズド乳の略である。

簡単に言えば、ノンホモジナイズドというのは脂肪球を砕いていないということで、パスチュアライズドというのは低温殺菌ということ。つまり”ノンホモ・パス乳”とは「脂肪球を砕いていない低温殺菌乳」ということになる。

日本国内において市販されている牛乳のほとんどはUHT乳といって超高温殺菌乳である。(とはいえ最近は低温殺菌乳と銘打ってあるのをよく見かけるようになった)UHT乳は欧米では保存乳と呼ばれアルミで滅菌パックされ、常温1ヶ月保存も可能なもの。また、日本の場合、ホモジナイズドしないと高温殺菌する機械が動かなくなるため、UHT乳についてはほぼ100%ホモジナイズされている。

先にも述べたが、ホモジナイズというのは要するに牛乳の液体を均一化するために脂肪球を一旦破壊する処理のこと。液体を均一化しないとそもそもの高温殺菌ができないのだ。ここまでをまとめると、日本の牛乳のほとんどは「脂肪球を砕いた高温殺菌乳」だということになる。

低温殺菌乳については読んでそのまま、63℃〜65℃で30分間殺菌する方法で、これは国際乳業連盟で定められたものだが、日本では既得権益が絡んでストレートな内容では表に出ていない。そこには色々な事情が絡まり歪んだ情報開示がなされているが興味がある方は本書を読んでもらいたい。

まぁ、言ってしまえば高温殺菌のための設備投資をしているので何が何でも高温殺菌で押し通したい連中が徒党を組んで組合化し「本物の牛乳を!」とか言い始める人らを潰しにかかるということだ。牛乳生産のため高額の設備投資をしもう舵切りはできない、無駄にしたくない、先祖を否定したくない、など気持ちは理解できる。「どうせ消費者は良い仕事も悪い仕事も気が付かずただ安くて見た目がキレイなものを求めるだけだ」という諦めもあるだろう。

所詮今ではどこにでもある類の話だ。とはいえ看過できる話ではないが良し悪しで簡単にくくれる話でもない。F1種子、農薬、化学肥料、遺伝子組換え、全て同じ構造だと言える。現代において食は既に自治の範囲に入っていて、健康に留意したいと望むのであればくれぐれも大きな枠組みに任せきりにしないことだ。社会参加のコストを「身体と未来」で払うか「時間と思考」で払うのか、決めるのはそれぞれ個人である。

話を戻そう。牛乳中のタンパク質は、80%が「カゼインタンパク質群」で20%が「ホエールタンパク質群」であるが、高温殺菌することでこれらのタンパク質は損なわれてしまう。
そのため、カゼインタンパク質群は本来、胃の中で胃酸で固まりカゼインによってコンスタントに腸内へ栄養物(乳糖やカルシウムなど)を提供するはずのところ、UHT(高温殺菌)乳だと胃の中で固まらず、一気に腸に流れ出すため無理な吸収のされ方になってしまう。

また、ホエールタンパク質は、ウイルスや細菌の感染防御、ガン細胞の増殖抑制、コレステロール吸収抑制などの働きがあるが、熱に弱く残念ながら高温殺菌乳ではその効果は完全に損なわれている。

前述した、牛乳の液体を均一化するために脂肪球を一旦破壊する処理、ホモジナイズについては実は一旦脂肪球が小さく砕かれて新たな表面が露出することにより、再び凝集してさらに大きな脂肪球を形成する。この際に、カゼインタンパク質やホエールタンパク質を引き込んで巨大なタンパク質になリ、全体的な表面積が増えることでアレルギーを引き起こす抗体決定基が表面に多く出ることにつながる。

つまり、高温殺菌のために脂肪球を壊す必要があり、脂肪球を壊すことでアレルギーを引き起こしやすくし、高温殺菌することで栄養素を損ない消化不良を起こしやすい牛乳を作っているのが日本の乳業の実態であるということになる。

しかし、だ。ここまで書いてなのだが、久々に飲んでみると高温殺菌乳でも牛乳は牛乳だ。十分にうまい。四つ葉など最高に美味しい。コーヒー牛乳にすれば砂糖いらずだ。もちろんコーヒーは安くても豆から挽いたものをお勧めする。

確かに、東毛酪農の「みんなの牛乳」は抜群にうまい。高温殺菌乳とは全く別物だ。選ぶとすれば間違いなく「みんなの牛乳」だが、「みんなの牛乳」は残念ながらそこらのスーパーには売っていない。そのため、手に入れるにはネットで買うか運よく取扱店が近くにあるかということになるが、今欲しいというニーズには答えられないし、値段はそこらの牛乳の3倍程度だ。ちなみに、低温殺菌乳は19℃が飲むには適温だそうだ。

前述の通り、私は牛乳を常飲する生活を送ってはいないため、あれば買う程度だ。そして選べるのなら「みんなの牛乳」を選びたい。ちなみに木次というノンホモ・パス乳を生産しているところもあるが、ここのはノンホモとパス乳は別々だ。私がみたところ、ノンホモ兼パス乳は「みんなの牛乳」だけだ。

もちろん、他にも探せばあるに違いないが、残念ながらそこまでの熱意はない。しかし最後に言っておきたいのは、結局は政治家にしろ牛乳にしろ、未来を選ぶのはあなた次第。ということだ。

実は、今年は丑年だからということで書き始めたわけではないにしろ、結果的には年始に干支を意識するような内容になって良かったと思いここで筆を置くことにする。

画像2

本年もよろしくお願い致します。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

最新の動向はsnsで、作品や展示のアーカイブは順次HPにて更新して参りますので、もしご興味を持っていただけた方は下記リンクよりアクセスお待ちしております。またメルマガも配信し始めましたのでご希望の方はHPより「メルマガ希望」と題しご連絡くださいましたら幸いです。

Instagram: jin_777

HP: http://hashimoto-jin.com



記事を読んでいただきありがとうございます!ARTに命を捧げています。サポート大歓迎です!現在の地球に生きる同士としてよろしくお願い致します◎