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note七発目。 Jin HASHIMOTO

さて「生きる」という実感が持てないモラトリアム真っ只中の10代から徐々に現実の中で自分自身というものを構築していきながら、2007年4月、私は4年間の浪人生活を経てようやく東京藝術大学美術学部工芸科に入学しました。

4年もかかったのだからさぞ嬉しかろうと思うかもしれませんが、美術が食べていけたのはバブル時代の伝説です。バブルを経験した予備校の先生からは「あの頃は良かった」と聞かされつつ「この道は食えないぞ、やめるなら今だぞ」と散々凄まれ続けて参りましたので、「受かった!」という喜びよりも「いよいよ始まったぞ」という、決意と覚悟のようなものが身体を満たしていました。

バブル時代は藝大の学生ですらタクシー券を使っていたほどですから、その時の日本はよほど狂乱状態だったのでしょう。しかし今は時代が違います。入学した当時ですら、くらーい未来しか示してもらえなかったので、今は一体どのようにこの現実を伝えているのでしょうか。自分より若い世代に希望を伝えられないのはとても悲しく情けない思いです。

もっともっと精進し、いつか自分の背中に素敵な絵を描けるよう成長したいと思っています。

では藝大はなんのためにあるのでしょうか。藝大は入学したからとて何も保証はされません。これが東大ならばまだ学閥のようなものがあったり先輩後輩の繋がりで就職だ仕事だとあるのかもしれませんが、藝大では皆生き残るのに必死でございますし、また卒業・修了後も長く美術を続けていける人はそう多くはありません。

藝大のメリットは上野にあるということと、工房が充実していること、募集人数が少ないために一人一人のスペースがきちんと確保できること、高倍率を勝ち抜いてきた自信の獲得とそのレベルのコミュニティ、そして社会的信用が得られやすいことだと思います。

中でも立地は重要で、武蔵野美術大学も多摩美術大学もキャンパスが広大な代わりにだいぶ辺鄙なところにあります。工房の充実については他の大学も一長一短ではありますが美術大学のメリットとしてあげました。募集人数の少なさはレベルを上げるためにも、都心の少ない面積地で個々のスペースを確保するためにも重要です。社会的信用は大学のメディア露出や歴史ゆえのことでしょう。

しかし、美術をやっている人や藝大以外の出身者は前述のような「自信の獲得」や「レベルの底上げ」ということに意を唱える人も少なくありません。なぜなら、そんな自信はアーティストになるためには何の役にも立ちませんし、レベルの底上げと言っていても藝大を出た後に他を圧倒するアーティストになっているかというと、そうでもないからです。

大学を出た後はまた舞台を変え完全にフラットな状態で個々の磨いてきたセンスと哲学がまさに火花を散らしてせめぎ合うのです。

とはいえ、やはり作品制作をスタートする上である程度基礎を積んできた人たちと切磋琢磨し合うことは意義のあることですし、受かりたいところに受かれなかったという事実を引きずり続ける人も中にはいるでしょう。そうした意味で私の藝大受験はデッサンや着彩、造形を通し「世界を一から生き直す」ことと過去を振り返らないために必要なプロセスでした。

無論のこと、どこの大学も設備投資はきちんとしていますし、むしろ藝大は講師、教授陣は大して良くなかったので、自分自身が既に出来上がっていて作品制作がすぐにでも始められる人には藝大受験など無駄なプロセスでしかありませんし、美大すら行く必要はないと思います。また制作において大がかりな機械や個人では手に入りづらい特殊なものなどが必要とされないのであれば、アートにおいて基礎的ないろはなど何も無いのですから学歴など完全に無用です。むしろ早く海外へ行って活動を開始した方が絶対的な有効性を発揮すると思います。


…なぜか自分自身の生い立ちから始まり最後は大学受験について語るという流れになりました。しかし、藝大を出て受験を語るかっこ悪さを敢えて語ってくれているようなものを見たことがないので、案外貴重なものなのかもしれません。

世の中には「どうしたら受かるか」といったものばかりが転がっておりますが、本当に大事なのは出た人が何をしているのか、どういった大学生活を送ったのかということだと思います。社会生活における合理性から見れば、美術大学などあくまで国に軽視されている無駄な機関と言ってもいいのかもしれません。

しかし、伝統文化ばかり重宝し現在から生まれてくる文化の軽視は人々から「我々」という縁(よすが)を奪い、国という機構の実感を消し去ります。国民が国を意識できないのに国体というものが成立するでしょうか。空虚な日本賛美に追いすがる昨今の情けないメディアの現状は巨大化する中国と弱体化する米国との間で到底立ち回れない日本の実情を良く表していると思います。


さて、今日はここまでにしておきます。「橋本仁 大学を語る」でした。


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