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『面白さ』を巡る冒険

「グループでシナリオを作るって、どんなことを話し合ってるんですか?」

もしそう思った人がいたとしたら、その感覚は正しいと思います。
だって、不思議に思いますよね。

「物語って作家が一人で作るものでしょ?」

そんなふうに考えている人が、世の中には多いわけですから。

なので、ストーリーノート社内では日々どんな話し合いがされているのか、そんな話を少ししてみたいと思います。
話し合っていることは当然一つではないんですが、無理矢理要約するとすれば……、

「そのシナリオ、本当に面白いの?」

ということです。

「やけにシンプルだな……」と思ったとしたら、いやいや、そう言わないでください。これ、めちゃくちゃ難しいことなんです……。

……なぜって?
それは、この『面白さ』というやつが、どうにも正体を捉えづらい、ようやく捕まえたと思ったら指の間からすり抜けていってしまうような面倒なやつだからです。

それでも、ストーリーノートは『面白い』物語を作るために存在している会社です。
たとえ目に見えなくても、どんなに捕まえづらくても、その正体を確実に捉え、白日のもとへと連れだして議論しなければなりません。

実はこの「面白さって何?」という問題、新入社員が毎年最初に引っかかる通過儀礼的なチェックポイントだったりもします。

なので、この記事に興味を持って読んでくれている皆さん。
あるいは、『面白さ』の正体について興味が湧いた皆さん。

もしもよければ、これから私と一緒に『面白さ』の正体を突き止める旅に出ませんか。

当たり前の話のような気もするし、初めて聞いた話のような気もする。
そんなちょっと不思議な感覚を体験できるかもしれませんよ。

「面白さって何かわからない」

この記事を読んでいる人の中で、そう思っている人はいるでしょうか。

「バカにすんな。知ってらぁ!」
恐らく、ほとんどの人がそう思うだろうと思います。

でも、ストーリーノートの新入社員は、『面白い』物語を書こうとしたとき必ずと言っていいほど壁にぶつかり、こう呟くのです。

「面白さって何かわからない……」と。

実際の話、「面白さってなんなのか、誰にでも理解できるように説明してください」と言われたら、スラスラ説明できる人はそう多くはないと思います。

そうなんです。
当たり前に使っていても説明が難しい言葉って、日本語にはめちゃくちゃ多いんです。
『面白さ』もその一つで、実はかなり抽象的な言葉ですよね。

▼問1【では『面白さ』ってなんなんでしょう】

「クオリティが高いってこと?」
まあそうですよね。じゃあ『クオリティ』ってなんなんでしょう。
と、こんな感じで、『面白さ』の正体の話を始めると、大体はフルスピードで禅問答へと突入してしまいます。

なので、これから『面白さ』を巡る冒険に出かけるに当たって、まずはこの『面白さ』という言葉に、明確な定義付けをしたいと思います。

『面白さ』とは──『感情の揺れ幅が大きい』ということです。

これは何も物語だけに限定した用法ではなく、バラエティー番組でも、駅前広告でも、スポーツでも、仕事でも、恋愛でも、人生でも、何に対しても等しく適用できる大切な法則です。

これから封切になる映画の宣伝で、見終わったばかりの人が「感動しました!」って言ってるやつ、見たことありますよね。
あれはつまり、『感動した』=『感情の揺れ幅が大きい』というアピールになるから使われているのです。

▼問2【では『感動』ってなんなんでしょう】

『感動』=『泣ける』という文法で使われることが多いですが、これはちょっと間違っています。
『感動』とは読んで字のごとく『感情が動く』ということで、実はもっと広い意味です。

「涙が止まらない」は当然として、「怒りで全身が震えた」、「恐怖でひざがガクガクした」、「興奮しすぎて呼吸も忘れた」みたいなやつも、『感情』が動けばすべて『感動』のうちということです。

さて、どんどん突き詰めていきましょう。

▼問3【では『感情』ってなんなんでしょう】

これも結構不明瞭な知識のまま話してる人が多い言葉です。

すぐ思いつくものと言えば『喜怒哀楽』──『喜び』・『怒り』・『悲しみ』・『楽しみ』ですよね。

でも当然ながら、『感情』ってそれだけのはずがありません。
ちょっとwikipediaに頼りましょう。

1980年にロバート・プルチック英語版)は「感情の輪」を提示した。これは8つの基本感情と16の強弱派生、及び8つの応用感情(ダイアド)から成り立つ。

https://ja.wikipedia.org/wiki/感情の一覧

8つの基本感情というのは、『喜び』・『期待』・『怒り』・『嫌悪』・『悲しみ』・『驚き』・『恐れ』・『信頼』だそうです。

種類が倍に増えましたね。
さらにwikiを読み込めば、感情には32の種類があるのだそうです。
じゃあ、それで全部なんでしょうか。

自分は研究者ではないので断言できないのですが、恐らくそうではないと思います。

虹の色数が七色というのは、国によって違うそうです。
虹の色の変化は純粋なグラデーションなので、厳密には何色とは分けられないためです。

人間の『感情』もこれと同じようにグラデーションで、ある感情とある感情の中間のような、名前の付けられていない感情が本当は無数に存在しているはずです。

だから、日本人はそういう名前のない感情を、昔からオノマトペで表現してきたのです。

  • ワクワクする

  • ドキドキする

  • ハラハラする

  • ゾクゾクする

  • ワナワナする

  • ムラムラする

  • ウルウルする

  • イライラする(これちょっと違うかもな……)

  • ビクビクする

などなどなど……。

あなたがいま書いている物語が『面白い』かどうか。
藤澤なりの言葉になりますが、こういった『オノマトペ感情の揺れ幅が大きい』のであれば『面白い』と言えると思います。

つまり、「めちゃくちゃワクワクする!」、「最高にゾクゾクする!」、そんな感想が飛び出てきたとしたら、面白い物語であることは疑いようがないということです。

ただ、もしも感情が4つ(ないし8つ)しかなかったら、どの物語も大体似たり寄ったりになってしまいます。
物語は今も日々進化を続けていて、これらの名前のある感情を狙うのではなく、まだ分類されていない、名前のない感情を揺り動かすことを目指して物語を作る人も増えています。

そして、これはちょっと余談ですが、それぞれの『感情』には反応速度というパラメータが別に存在します。

つまり、『驚き』や『恐れ』は反応速度が速いけど、『感心する』は反応速度がちょっと遅めだったりします。
そのため、それぞれの感情ごとに揺らし方が違う……みたいな話になるのですが、この話を始めると果てしなく長くなるので、その話はいずれまた別の機会にでも。

というわけで、大前提となる『面白さ』の定義付けは終わりました。

『面白さ』=『オノマトペ感情の揺れ幅が大きい』

これを理解しているかいないかで、物語を作るときの考え方がかなり変わると思います。

さて、面白さを巡る冒険は、ここからがいよいよ佳境です。
少し長旅になってきましたが、最後まで旅を続けられるよう、もうひと踏ん張りがんばりましょう。

『面白さ』についての議論としては、もう一つ大切な観点があります。
それは、『面白さ』は大別すると2種類ある、ということです。

その2種類とは、

  • 『個人的な面白さ』

  • 『一般的な面白さ』

です。

こんなふうに『個人的』と『一般的』に分けられるもの、これは何も『面白さ』だけではなく、世の中には割とよくあるものです。

例をあげれば、「あのお笑い番組、みんなは好きだけど自分はどうも笑えない……」みたいなこと、感じたことありませんか。
あるいは、「テレビで大人気の美形タレント、綺麗なのはわかるけど自分の好みは違う」って感じること、誰でもありますよね。

そんな感覚まったくないという人がいたら、それは相当レアなことだと思います。
このように、人間の好みというのは『一般的』と『個人的』で評価が全然異なるという性質にあるのです。

つまり、世間にウケている面白さ(=『一般的な面白さ』)と、自分が感じる面白さ(=『個人的な面白さ』)は明確に違う、ということをまずは知ってもらえるといいと思います。

じゃあ、シナリオを書くときは、『個人的』と『一般的』どっちのものさしで『面白さ』を測るのが正しいのでしょう。

答えは、『両方』です。
ただし、最終的な『面白さ』の大きさを測るために、合計3回測ることになります。

まず【1回目】
『一般的』のものさしで、『面白さ』が基準を満たしているのかを測ります。

基準を満たしている。ヨシ。
となれば、その物語に自分なりの感性や個性を加えます。

そして【2回目】
今度は『個人的』のものさしで、『面白さ』を測ります。

合格。ヨシ。

最後に【3回目】
自分なりの感性や個性を加えても『一般的』な面白さは失われていないか、もう一度『一般的』のものさしで測ります。

これでも基準を満たしていれば、その物語は品質検査を合格ということになります。

つまり、『一般的』な面白さは必ず満たしていなければいけないけど、それだけではありきたりという評価になってしまう。『個人的』感性でオリジナリティを加え、かつ『一般的』な面白さを満たした状態でなくては合格とは言えない、ということです。

世の中には様々なエンタメがあります。
敢えて『一般的』を捨てて『個人的』に極振りする手法が取られる場合もあるし、そういった作品が尊ばれる場面もよく見られます。
こういった作品は「アート寄り」と呼ばれ、刺さる人には深く刺さるけれど広く大勢の人に見てもらうことは難しい、という傾向にあります。(アート寄りでも大勢に見てもらえた作品もたくさんあります)

もしかしたら、この記事を読んでいる人の中には、「そんな大衆迎合主義的な作品ばかり作ってどうするんだ。アート寄りでいいじゃないか」と憤慨される人もいらっしゃるかもしれません。

そう思う気持ちもわかるし、そう言われてしまうと個人的には苦笑いするしかありません。
なぜかと言えば、我々は依頼されてゲームや漫画などの物語を作るプロのシナリオライターであり、依頼主は大勢に見られる(=商業的に成功する)ことを願っている、という状態が一般的なためです。

つまり、『個人的』と『一般的』。
これはどちらが正しいという話ではなく、ダガーナイフとペーパーナイフのように使いどころが違うだけ、ということです。

『一般的』と『個人的』、これらは様々な言葉で言い換えられることがあります。

  • 『一般的』……『万人向け』『大衆迎合的』『商業主義』『わかりやすい』

  • 『個人的』……『アート寄り』『先鋭的』『作家主義』『かっこいい』

個人で勝負する小説家であれば、『一般的』より『個人的』を活かして勝負するほうが勝ち筋に繋がるかもしれません。
ゲームでも、インディーゲームのような少人数チームなら、『個人的』を活かして『アート寄り』作品として評価を得る作品が多い傾向にあります。

ストーリーノートの中でさえ、依頼されている作品は『一般的』成分強め。
『一般的』:『個人的』の比率で言えば、「8:2」~「7:3」くらい。

反対に、自分たちが主体的に制作する作品は『個人的』成分強め。
「4:6」~「5:5」くらいの感覚で作っている、という感じです。

もちろん、これは目安的な話に過ぎません。
ですが、どうでしょうか。

面白さには『一般的』と『個人的』の2種類がある、という点については、かなり理解が深まったんじゃないでしょうか。

さてさて、長旅になりました。

『面白さ』を巡る冒険。回り道をすれば話したいことはまだまだあるのですが、今日はここらでおしまいにしたいと思います。

少しおさらいします。

我々が目指している面白さは、『一般的な面白さ』。
そして『面白さ』とは、『オノマトペ感情の揺れ幅が大きい』です。

合わせると、ストーリーノートでは、『大勢のオノマトペ感情を大きく揺さぶる物語』=『面白い物語』という結論付けをしています。

柔らかい言葉に翻訳すれば、

  • 家族みんなでワクワクできる

  • クライマックスは誰もがハラハラする

  • 真相を知った時、そこにいる全員がゾクゾクする

こんな物語なら、見てみたいって思いますよね?

物語づくりには、工程があります。

企画初期段階では、「今度はどうやってみんなをドキドキさせようか」
最終的なシナリオワークの段階では、「ここは敢えて黙ってるほうがハラハラしない?」

こんな感じに、物語づくりの全工程で、『大勢のオノマトペ感情を大きく揺さぶる』を実現できるよう、私たちは毎日毎日話し合いをしているのです。


最後になりますが、物語を作るうえで私が一番好きな、いつも表現したいと思っている『感情』について話そうと思います。

それは、「ワクワクする」感情。

彼の冒険は、これからどうなるんだろう。
ワクワクドキドキ。胸が躍る。
そんな感情を呼び起こす物語を描きたいと願いながら、いつも仕事に向かっています。

なので、自分の会社のサイトのファーストルック。一番目立つ所に、こう書いているのです。

https://storynote.jp/

「面白さって何か」

この記事に書いたことは、そのほんの入り口の話に過ぎませんが、理解を深めてもらえたでしょうか。そういう人が一人でもいたら、とても嬉しいです。

ここまで読んでくれたあなたは、きっと本当に物語が好きなんだろうと思います。
そんなあなたが、もしもこの記事をきっかけに、「面白い物語を自分の手で書いてみたい」と感じたのであれば、是非シナリオライターとして生きる人生を目指してみてください。

シナリオライターの世界は、毎日オノマトペ感情の連続の『面白い』世界です。
物語の主人公の前に、まずは自分自身の人生をワクワクさせてほしい。私はそんなことを願っています。

今年のエントリー受付は例年よりも短く、10月いっぱい。
今年は少し多めの採用を検討しています。
狭き門ではありますが、もしかしたらチャンスの扉が開きやすい年になるかもしれません。

『面白さ』を巡る冒険の続きへ、一緒に行ってみませんか。
皆さんのエントリーをお待ちしています。


2023.10.17
storynote代表 藤澤 仁


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