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「量子論的引き寄せ」についての一私見

先日こんな記事を見つけました。「量子論的アファメーション」についてという記事なのだけど、【量子】という物理学でとても大切な概念と、【アファメーション】という心理学的に使える技術と、【引き寄せ】という荒唐無稽な概念をごちゃごちゃにしているのがとても残念。

「量子論的アファメーション」
https://inthetic.com/archives/3949?fbclid=IwAR21Sh3_7pr7aunmThtJqXX_cs2H7N06kfXDYHBkAXLh5Hdy8P9GB-xliFE


前から量子論的引き寄せというものがあるのは知っていたのですけど、中でどういう説明しているのか聞いても分かっていない人が多く、あーこういうことねと把握できたのでちょっと解説してみようと思います。


■ 量子について

ここのHPでは

「量子はエネルギー(波)の状態だが、人間の意識が介入すると物質(粒)になる。」

と解説されています。意識の介入によって現実が変わると考えていて、そこに量子を説明に使うところが従来の「引き寄せ」に追加されている感じですね。

さて、少し難しい話をします。量子についてです。まず正確に言うと、量子は波と粒の性質を持っています。それを【観測する】ということがとても大切なポイントになります。

我々は世界を様々な方法で【観測】しています。耳は空気の波を音として知覚して【観測】します。目は光を知覚して【観測】します。色々な色は光が跳ね返されていることを知覚するので、例えば赤い物は赤以外の色を吸収するんですよね。それで赤だけ跳ね返してそれが目の神経にぶつかって知覚されます。肌は温度を知覚します。温度とは原子の動き(空気なら空気)の活発さで、それが肌の細胞とぶつかり合って、活発さが影響しあう。それを冷たさ・熱さとして脳が解釈しているわけです。

さて、物を【観測】する時の最小単位は、何でしょうか?それは、光です。光の粒は最も小さい物質で、そのため速度も宇宙の中で一番早いのです。通常我々が視覚で光で物を知覚する時に、対象の物に与える影響を考えることはほとんどありません。正確には光を浴びると対象物は温度が上がりますが、元々跳ね返って来ている光を目にしているので、熱が上がるのは知っていますが(黒は光を吸収して熱が上がりやすく、白は逆ですね)、通常【観測】とは結びつけて考えません。

しかし、観測する対象が極小になっていくと、光がそもそもぶつからなかったり(だからニュートリノの検知にあれだけ大きなカミオカンデが必要となる)、光がぶつかると対象が壊れたり、弾かれて動いていた軌道が変わってしまったりします。このレベルのサイズの物体を《量子》と呼ぶのです。

さて、このような《量子》は【観測】しようとすると、今の位置が特定される代わりに、動きが分からなくなるという特性を持っています。そして、小さいために波のような特性を持っていて、移動時に真っ直ぐ動くのではなく複数の軌道を取ることが分かっています。そして、その軌道を計算する時に、確率でどれかの軌道を通ると計算するのではなく、可能性のある全軌道に存在する可能性があると計算しなければならないことが分かっていて、それがこの《量子》のとても不思議な特性の一つです。

この不思議な《量子》の、移動時を計算する際にはその《量子》は、移動可能な全経路の可能性を含んでいる、という特性は直感的に理解するのが難しく、このことが上述の引き寄せの「量子は意識が介入すると粒になるが、それ以前は波」という論理とつながってきます。


■ 引き寄せと観測

引き寄せ量子論の問題の一つは、【観測】と【何かを意識すること】を一緒にしていることです。意識は脳の中で複合的に起こることですから、量子と比べればそれこそ風の空気の粒一粒一粒と、風でたなびくカーテンを手でバフっと無理やり押さえることくらいに、事象の種類も大きさも違うものです。

量子論と大きな世界をイコールで結ぶことの難点を、シュレディンガーという高名な科学者がとある猫に例えました。ある一点を通るか通らないかを観測している機器があります。その機器で量子が検知されたら、青酸カリのビンが割れるようにしておきます。その装置と一匹の猫を箱に入れて見えないようにしておくと、人が結果を開けてみるまでは猫は「生きている」のと「死んでいる」のの両方の状態であるということになります。量子論を現実世界にそのまま結びつけることの愚かさを思考実験したものでとても有名になりました。「シュレディンガーの猫」と呼ばれています。

また、【観測】ということで言えば、意識することで制御されるのは、意識にまつわる脳内の電気信号の状態まででしょう。通常の世界では観測は完全に受け身で、外の世界の状況を脳が把握する時には【観測】はすでに終わって、こちらが信号を受けとれていないだけの状態です。星の光を観測する時には、何年も過去の光を見ているのと同じで、意識が【観測】する時には事象はすでに確定しています。意識で事象が変化するなんて言ったら、誰かを見間違えたらそれが現実になる、みたいな訳の分からんことになります。指名手配犯人と見間違えられたら大変です(笑)。


■ アファメーション

アファメーションというのは、ルー・タイスという人が提唱して企業等のコーチングとして有名になりました。なりたい、という状況をすでになっていると言葉に出すという方法です。「あー、幸せになりたいなー」と口にすると、幸せな自分であるより「幸せになりたい」、イコール今幸せになっていない自分が強くインプットされるという考えです。面白いもので、普段口にする言葉は私たちを安心させています。「幸せになりたいな」というと若干の現状への不満と、裏腹に現状への諦めと安心を感じているのです。「私は幸せだ」と口にすると、「幸せになりたい」と口にすることになれている人からすると、現状への違和感、不安と共に高揚するような気持ちがやってくるかも知れません。その意識の変化が力を与えてくれるのは、今ここにある自分自身にであって、世界にではありません。

スポーツ選手はイメージトレーニングの力をとてもよく知っています。身体が理想通りに動く、相手を凌駕するイメージ、雑念を払うテクニック、ゾーンのように意識から無意識まで自然体に対象に集中する方法、これらが身体的テクニック以上に実力を発揮するのに大切です。それは自分の普段通りの力、実力を遺憾なく発揮するのであって、相手や世界が変化して何かを起こしてくれるということではないのです。

ルー・タイスが最強のアファメーションだと言っていた言葉があります。それは、「Yes I'm Good」というものです。この言葉を巡っては、僕にはさらに長い物語がありますが、今日は言葉の紹介だけにしておきます。僕も時々、頭の中でこの言葉を自分に呟いてみることがあります。「Yes I'm Good」。うん、そうだなとまた前に進んでいくのです。


■ まとめ

こういう事を気にしていると、「本人が信じて幸せだったらいいじゃない」とよく言われれます。「科学だって全ての事が証明できるわけじゃないでしょう」とも言われます。皆さんはどうですか?僕はただ、本当の事を突き詰めるのって美しくて楽しいよ、と思います。この文から少しでもそんな気持ちが伝わったらいいな。マーク・トゥエインの言葉を最後に贈ります。

「まず事実を掴め。それから思うまま曲解せよ」




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