親友もとっちょとの再会

小学生の頃僕には親友がいた。1年生のときから同じクラスで出席番号が1個前の元木くん、通称もとっちょだ。もとっちょと僕は2人とも絵を描くのが好きで、休み時間になるとお互いにそれぞれ想像で描いたオリジナルのエッチな絵をこっそり見せ合い、僕たちはすぐに仲良くなった。自分が描いた絵でもとっちょが「やばー!」と言って興奮してくれるのが嬉しかったしもとっちょもそうだったと思う。僕の描くおっぱいは大きくて大胆、線が太く濃い、火のようなおっぱいだった。そしてもとっちょの描くおっぱいは細くしなやかな線で、絵でありながらどこか柔らかく浮かび上がってくるかのような、水のようなおっぱいだった。火のおっぱいと水のおっぱい、剛のおっぱいの使い手と柔のおっぱいの使い手、僕たちは太陽と月だ。そんな2人が惹かれ合い結びついたのは必定だったのかもしれない。お互いの足りないところを補い合い助け合い、ずっと2人一緒でこの先どんな困難も乗り越えていくと、そう思っていた。あの時までは。2人の道が分かたれたのは出会いから2年後の冬、寒い寒い冬の日だった。

3年生になった僕ともとっちょにはお互い以外にもたくさんの友達ができ、近所の公園で大人数で遊ぶことが多くなった。その日もいつもの公園で、僕ともとっちょを含む友達300人程でかくれんぼをして遊んでいた。ジャンケンで負けて僕が鬼。僕は心の中で「ラッキー」と叫んでいた。珍しがられると思うが、僕はかくれんぼでは鬼をやるのが好きなのだ。1人ずつ着実に探し出していき最後の1人を見つけて自分のひとり勝ちが決まった時の快感がたまらない。マジだ。ロックマンエグゼ6ではファルザー派、叶姉妹では恭子さん派、僕はそういう子供であったのだ。
「もーいーかーい」「もーいーよー」僕はゲームが始まる合図と同時に次々に隠れている友人を見つけていった。1人、2人、3人、と見つけていき、あっという間に隠れているのは残り1人、もとっちょだけになった。この分だとすぐに勝負はつく。また僕のひとり勝ちだと胸が高鳴った。しかしそこで鬼の快進撃は止まった。どれだけ探しても、公園の隅々まで探しても、もとっちょが見つからないのだ。1時間、2時間と経っても見つからず、さすがに心配になった鬼以外の友達も一緒になってもとっちょを探し始めた。「もとっちょーもう出てこいよー」「暗くなるしお前の勝ちでいいよー」そう言ってももとっちょは出てこなかった。やがて本当に真っ暗になり、もとっちょは何かの都合で家に帰ったんじゃないかということになって僕たちは家に帰ることにした。もとっちょが、公園の地面に穴を掘ってそこに隠れ、深く掘り過ぎた穴から抜け出せなくなっていたとも知らずに。

翌日学校に行くともとっちょが来ておらず、先生からもとっちょが行方不明になったことを知らされた僕らは大きなショックを受け、2度とあの公園で遊ぶこともなくなった。特に無二の親友であった僕は落ち込み塞ぎこんで、すっかり暗い子供になってしまった。それでも時間が持つ力というのは偉大で、歳を重ねるにつれてだんだんとショックは和らいでいき、中学生になる頃にはまた友達もでき楽しく過ごせるようになって、もとっちょのことは年に数回思い出す程度になっていった。

それからさらに数年経ち、僕は19歳になっていた。大阪の大学に進学した僕は地元である東京を離れ一人暮らしをしていた。大阪でも出会いに恵まれ楽しく過ごしていたので年末年始も大阪で過ごしてもよかったが、両親にしつこく言われ結局年越しは東京に戻って実家で過ごすことにした。1週間程地元で過ごしたのだが正月というのは本当にやることがなく、のんびりと過ごしていた。そこでふと、小さい頃によく遊んでいた公園に行ってみようと思い立って僕はあのもとっちょ達とよく遊んだ公園に歩いて行った。着いてみるとやはりもとっちょとの悲しい過去を思い出してしまったが、懐かしい思い出もたくさんあったためあまり辛くはなかった。月日の流れが僕の心の傷を完全に塞いでしまったことが寂しくもあった。そんなことを考えながら歩いていると、公園の土に一部柔らかい部分があったようで、つまずいて転びそうになってしまった。周りには何人か人がいたので恥ずかしさで顔を上げられずに下を向いていると、今自分がつまずいた部分の土だけ、わずかに色が違っていることに気がついた。不思議に思って靴のつま先でその土を蹴るようにして掘っていくとどんどんとその色の違う部分が崩れていき、やがて直径1メートル程の穴が現れた。呆気にとられているとその穴の中から蟻のような小さな虫が何匹も出てきた。「蟻の巣…?」そう思ったがこんな大きな蟻の巣は見たことがない。目の前に突如現れた穴の正体がわからずに観察しているとあることに気がついた。その穴から出てくる蟻のような虫達の顔(頭部と呼ぶべきか)に、見覚えがあったのだ。「もとっちょ…?いやそんなわけないだろ」思わず呟いた自分の言葉を自分で訂正する。そんなはずがない。もとっちょの顔をした虫なんて。きっと疲れているんだ。しかし今だに次々と穴から出てきている虫達の顔はやはり紛れもなくもとっちょの顔だった。
気付いた時には穴の中へと滑り込んでいた。考えるより先に体が動いていた。自分はこの穴の中に行かなければいけない、そう直感で感じていた。穴の中はかなり広く、道や建物があり、人間の街とそっくりだった。そこには先程のもとっちょの顔をした虫達が無数にいて、穴の入り口から奥へと食べ物を運ぶ虫、なにやら建物らしきものを建設している虫、お店で物を売っている虫などがいた。僕は奥へ奥へと進んでいく。進んで行った先、最も奥の突き当たりの部屋に、もとっちょはいた。あの頃とは体つきも変わり目つきは鋭く別人のようになっていたが、"それ"は間違いなくもとっちょだった。「もとっちょ!こんなところで一体何をしてるんだ!」僕がそう言うと、「我ラガ王ニ何カ用カ?」ともとっちょの側にいる兵隊もとっちょが口を開く。もとっちょは僕がかくれんぼで見つけることが出来ずに置いていったこの公園の地下で、独自の国家を築いていたのだ。気づけば辺りを数百匹、いや数千匹の兵隊もとっちょに囲まれていた。「もとっちょ、この兵隊もとっちょ達はなんだ?君は一体何をして、いや、何をしようとしているんだ?」するとようやくもとっちょが、否、嬢王もとっちょが口を開く。「世界が僕を見つけてくれなかったから、今度は僕が鬼になって全部終わらせるんだよ」言い終わると同時に兵隊もとっちょ達が一斉に武器を持って僕に襲いかかってきた。

僕はめっちゃ頑張って穴の中の全ての兵隊もとっちょと嬢王もとっちょを倒した。「もとっちょ…さよなら…ごめん…」もとっちょの亡骸に向かってそう呟き、ふと周りを見るとそれまで気づかなかったものに気づき僕は驚愕した。もとっちょが築いたこの地下帝国の壁、その壁一面にエジプトの壁画のように描かれている、おっぱいの絵、絵、絵。絵でありながら目の前に浮かび上がってくるかのような柔らかいタッチで描かれたそのおっぱいの絵は、間違いなくもとっちょの描いたものだった。「ずっと…待っていたんだね…ここで…もとっちょ…」僕はその絵の上から重ねるように昔描いたおっぱいの絵を描いた。大雑把で太く濃い僕の線は土の壁の上では何度も引っかかり歪んで上手く描けなかった。その上に僕の大粒の涙が落ちる。「僕のは…火のおっぱいだから…水に濡れると…ダメなんだ…もとっちょみたいに上手く…描けないや…」やっとの思いで不恰好なおっぱいの絵を描き終えた時、背後で朽ちたはずのもとっちょの亡骸から声が聞こえた気がした。「や…や……ばー…!」

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