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現代の土壁を提案する「南禅寺の家」

建築家の豊田保之さんは江戸時代から続く左官職の家系に生まれ、父親と兄弟も左官職人。そんな中で、土壁をどんな方法で住宅建築に生かし続けることができるのかをテーマにさまざまなことに取り組んできました。南禅寺の家では、京町家のパッシブな知恵と現代の省エネルギー技術を融合させ、土壁の家でありながら「長期優良住宅」の認定を取得。建築環境・省エネルギー機構の「第5回サステナブル住宅賞」新築部門で、国土交通大臣賞を受賞しています。
(「和モダンvol.7」(2014年8月発行)に掲載したものを再編集)

土壁で建てる

この南禅寺の家は、京都・東山の山裾、昔からの面影を残す町並みの一角に建てられました。建て主のご家族がアレルギー体質であったことから、当初より自然素材による調湿効果や空気の浄化作用も含め、「土壁で建てたい」とのご希望でした。

しかし、ここで採用されたのは伝統的な土壁(竹小舞に土を両面に塗る)ではなく、現代の土壁「木小舞片面土塗」という手法でした。豊田さんは以前より、伝統的な土壁にはコストと工期について問題視していました。この木小舞片面土塗は、簡単にいうと土壁を片側だけ塗り、対側に断熱材を充填するもの。断熱材によって、室内の温熱環境の向上とともに、土の劣化を抑え、土の割れを防ぐことができます。断熱性能としては、土に断熱材を使うことによって次世代省エネルギー基準(平成11年基準)をクリア。繊維系断熱材を使う場合は、室内側に防湿層(ポリエチレンフォーム)が必要になりますが、土壁外断熱の場合は不要になります。

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リビングとダイニング・キッチン。右手は玄関。
内壁は珪藻土仕上げ。

断熱・集熱・蓄熱をバランスよく

土を使いさえすれば蓄熱効果があるわけではありません。断熱と集熱とのバランスにより、その性能を引き出せます。南禅寺の家では、日照をシミュレーションして、太陽熱を効率よく取り込めるように考えました。リビングに高さ2.1mの掃き出し窓を設けて、冬の日照を確保するとともに、夏の日差しを遮る庇をつけました。

また通風シミュレーションも行い、夏場に風の流入が多い北北東とその流出側に開口部を大きく設けました。道路に面した北側の窓には木格子・格子戸に。建築後は結露もなく、土の調湿機能が生かされていることが実証されました。

工期短縮・コスト削減を実現した
「木小舞片面土塗壁」

「木小舞片面土塗壁」は、伝統的な土壁に見られる竹小舞の代わりに木小舞を使用。木小舞パネルは大工がつくれるので、竹小舞製作の工程が省略できます。柱にプレカットでしゃくりを入れて、木小舞パネルを落とし込みます。土を塗るのは片面(室内側)のみなので、土が乾燥するまでの期間を短縮できます。竹小舞の場合の「貫伏(貫部分の割れを防ぐ処理)」「ちゅうごめ(むら直し)」の作業工程も省略できます。木小舞の上に20㎜の荒壁を塗り、10㎜中塗り土を塗ります。これらにより、6工程を3工程に減らすことで、コストも削減できます。

木小舞の外側には土を塗らずに断熱材(ここでは羊毛)を充填しています。また、土を片面塗りにすることで断熱材を充填するスペースを確保できます。もうひとつのポイントは、土壁では耐力をとらないこと。耐力は外側に構造用面材を設けることで確保します。片面塗りなので、コンセントや配線の施工も容易。土の厚みと中塗り土の強度で、土壁の耐力は出ますが、木小舞では木と荒土はくっつきにくいので、裏側にはみ出すように施工することが大事だといいます。

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木小舞の壁。この室内側に土壁を塗りつける。

左官技術存続の危機

かつて、土壁・漆喰・珪藻土だった内壁はクロスへ、外壁は漆喰やラスモルタルからサイディングへ。こうした中で、左官技術の存続は危機を迎えています。「左官屋さんの伝統的な技術を守っていくために少しでも左官仕事を増やし、技術が失われないようにするのが私の役目。ただ、昔のものがいいというだけでは難しい。これからは土壁を使った住まいの性能を定量的にとらえて、提示していくことが大切」と豊田さんは話します。

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土壁の質感が感じられるリビング。
中庭越しに和室が見える。

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和室から中庭越しに見えるリビング。

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中庭をはさんで、居間と和室が向き合う配置。

設計:トヨダヤスシ建築設計事務所
施工:ツキデ工務店
左官:豊田工業所

(写真/松村芳治)

豊田保之氏による「現代の土壁を提案する」は、「和モダンvol.7」に掲載しています。その他の写真や木小舞片面土壁の詳細は本誌にて。そのほか、建築家や地域の工務店の住宅事例もたくさん掲載しています。ぜひご覧ください!