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栗材を生かした、白井昱磨設計の栗きんとんの老舗「すや」

使う木材によって、印象が大きく変わる建築。建築に対する思いや気候風土・時代背景など、さまざまな理由から素材は選ばれます。
「和風住宅26」では、樹種によってさまざまな表情をみせる「木を生かす建築」を掲載しています。今回は栗材を用いた、岐阜県中津川市にある「すや」本店を紹介します。

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「すや」の店舗内。軒簾が緩やかに空間を区切ります。
スツールも栗製。

栗材に見る白井晟一の面影。

栗きんとんの老舗である「すや」本店は、岐阜県中津川市の中心部に位置しています。栗材を多用したその建物を設計した白井昱磨(しらい・いくま)にとっては、父・白井晟一(しらい・せいいち)(*)亡き後の初めての仕事でした。

*白井晟一(1905-1983)
京都生まれ。京都高等工芸学校(現・京都工芸繊維大学)図案科卒業。ドイツで哲学を学んだ後に、独学で建築の道に進み、独自の存在感を放った建築家。戦前は住宅、戦後には縁のあった秋田・湯沢で公共建築などの数々の仕事を得て、活動の幅を広げる。

230年ほど前に建てられ、補修改修を重ねられながら店舗として活用されてきた建物でしたが、店の前を通る新町通(中山道)の拡張に伴い、建て替えが必要になりました。木造でありながら合理的な店舗としての機能を果たし、長い年月に耐え続けるものとして、古い建物の輪郭を残しながら、新たな材料で改造されたものでした。

この改造にあたった白井昱磨にとっては、白井晟一の木造作品を通して経験が豊かであった栗材の特質を発揮させる、またとない機会でもありました。白井晟一は栗材を数寄屋の伝統を克服する創造的な日本建築をつくり上げるために積極的に用いてきました。もちろん、栗きんとんの店であるから栗材を使うことに異論があるはずもありません。

栗材はときにナグリを施した中柱や框として使われることはあっても、数寄屋など伝統的な日本建築で主要な役割を演じることはありませんでした。耐久性に優れ、水にも強いが扱いにくかったり、下ごしらえに手間がかかりますが手間をかけた分、優れた味わいが出せる木です。

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店内入口の飾り棚。壁は和紙貼り。

店内の柱・天井板・竿縁・化粧梁など、主要な部分は味わい深い木目の栗が使われています。ファサードや店内のショーケース、スツールなども栗で制作。店の核となるスペースに炉のある一段高い座敷の空間が組み入れられています。かつて家族が集まって栗菓子をつくる場であり、客間や居間でもあった空間の炉縁や框も栗。力強い梁組の下にこの家の歴史を示す空間として、店舗と一体のかたちで設けられています。

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天井板やダウンライトの枠も栗でつくられています。

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座敷には栗製の炉縁のある囲炉裏。
縦横に架かる梁も圧巻です。

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すや 本店
岐阜県中津川市新町2-40
https://www.suya-honke.co.jp/

(写真/林安直)

上記の記事は「和風住宅26」内の特集・木を生かす建築に掲載しています。そのほかにも、栂、欅を使った建築を紹介していますので、ぜひご覧ください(^^)/

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