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革新の手漉き和紙を現代の建築に生かす-堀木エリ子さんの和紙の世界-

伝統的な和風住宅で昔から用いられている和紙には、環境にも人にも優しい自然素材であるとともに、新たな可能性も潜んでいます。和紙デザイナーの堀木エリ子さんは、さまざまな建築空間で、和紙の新しい可能性に挑戦し続けています。大規模な建築で使われる巨大な和紙、照明によりさまざまに表情を変える漉き重ねの和紙、骨組みのない立体和紙など、堀木さんの革新によって、和紙の新たな一面を見ることができます。
(「和モダンvol.7」(2014年8月発行)掲載)

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和紙デザイナーとして活躍する堀木エリ子さん。

新たな和紙の可能性に挑戦

堀木さんは、福井県越前市と京都市内の工房で、建築空間に使われる和紙をデザインし、つくり、現場施工まで行っています。

福井の工房では、伝統的な技術と堀木さん独自の新しい技術を組み合わせ、畳3畳分2.7m×2.1mの和紙を職人5人とデザインスタッフ5人で漉きあげます。人の力で制御できるのは7割ほどで、あとの3割は水の流れや繊維の状態など、自然の力によるそう。そのバランスを取る作業を繰り返し、異なるデザインの和紙を幾層にも漉き重ねることで、光の加減と相まって、和紙の表情はさまざまに変化します。

和紙の魅力-本誌より抜粋-
手漉き和紙のすばらしさとは「使えば使うほど質感が増す」「使っても強度が衰えず、劣化しにくい」ということ。また、障子は縦横の桟がつくり出す緊張感に、やわらかな和紙の質感が組み合わされていることが魅力です。そこに太陽の光があたり、つくり出される陰影が時の移ろいという情感をつくり出します。

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伝統的な和の空間に融合する手漉き和紙。

京都の工房では、10mもの巨大な和紙を1枚で漉きあげる手法と、立体的に漉きあげる手法を独自に開発しました。巨大な和紙は、建築空間に和紙を生かす新たな可能性を開拓することになったそうです。また、立体和紙は骨組みがなく、変色や虫を防ぐため、糊も使わない特殊な手法であり、3次元での和紙による新たな表現を可能にしました。そのほかにも、アクリルやガラスに和紙を貼りこむ手法により、破れやたわみの問題を解決したり、和紙にコーティング加工を行うなど、伝統をふまえつつ新たな和紙の可能性に挑戦し続けています。

住空間における和紙-本誌より抜粋-
住まい手は、住空間に快適さを望みます。快適さとは、室内の温熱環境や設備などにより実現します。居心地のよさというのは千差万別で、年齢を経ると変わるものです。しかし、和紙のある空気感は概ねの人が心地よいと感じるのではないかと考えます。住空間における和紙は、デザインが前に出る必要はなく、空気のようにそこにあり、寄り添ってくれるそんな存在でいいと思っています。

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立体和紙は骨組みも使わず、変色や虫を防ぐために
糊も使わずに漉きあげています。

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アルミパイプをこうぞに漉き込んでつくった大型の和紙。
バックライトにより独特な表情を見せます。

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銀箔を漉き込んだ和紙。

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ショールームにはタピストリー、
和紙を立体的に漉きあげてつくった照明などが
展示されています。

堀木エリ子(ほりき・えりこ)
堀木エリ子&アソシエイツ代表取締役、和紙デザイナー
http://www.eriko-horiki.com/
高校卒業後、4年間の銀行員生活を経て、和紙商品開発会社へ。1987年にSHIMUS設立。商業空間から公共施設、部隊美術の分野まで和紙の新しい表現に取り組む。2000年に堀木エリ子&アソシエイツ設立。2001年日本建築美術工芸協会賞、2002年インテリアプランニング国土交通大臣賞、2003年ウーマン・オブ・ザ・イヤー2003、日本現代藝術奨励賞などを受賞。

(写真/松村芳治)

堀木エリ子さんの和紙の魅力が掲載された「和モダンvol.7」(2014年8月発行)の特集は「素材とデザインを楽しむ家」。建築家や地域の設計事務所、工務店による和モダンの住宅事例をたくさん掲載しています。ぜひご覧ください!