商品企画が雌雄を決する世界
昨年より社外で主宰している研究会のテーマは、商品開発プロセスの完全デジタル化が実現した社会で何が起きるのか、特に日本の製造業が危機をどう回避するのか(そもそもできるのか)、である。
我々の現時点での仮説は、商品企画が雌雄を決する(競合優位性を獲得する)ということである。
つまり、「何を作るか」が「どう作るか」で価値が決まり、より重要になるということである。
考えてみればこれは当たり前のことである。消費者からすれば、どう作ったかはどうでもいいのであって、欲しいものがリーズナブルな値段でできるだけ手軽に手に入ることを消費者は常に望んでいるのである。
ところが実際の製造業の業界においては、参入障壁というものがある。
たとえば自動車を作るにしても、生産設備と人員が必要だ。生産設備と人員には巨額の投資が必要である。そして、規模の経済ゆえに、大規模な投資をして大量に生産するほど、価格競争力は高まる。
自動車はコンセプト開発から、設計、試作、部品の製造あるいは調達、組立、検査までいずれもとてもコストがかかる代物である。
したがって、誰でもが生産に参入できるものではなくなる。そこそこのデザインでそこそこの機能であっても、それなりの品質を確保しそれなりのコストに抑えられれば商売になる。
すごくシンプルに言ってしまえばこれが今までの自動車やその他製造業の世界である。
ところが、もしコンセプトづくりから、それが実際に自動車として形になり、路上を走行する性能まで完全にデジタルの世界でシミュレーションできてしまったらどうなるだろうか。しかも、これまでは実車で行なっていた検査が、当局から、「シミュレーションデータがあればOKですよ」と言われたらどうなるだろうか。
しかも、今の自動車メーカーより、遥かにデザインセンスが良いデザイナーがそのようなフルデジタルのシミュレータを使ったとしたら?
しかもどんなデザインの車であれば消費者が飛びつくかというマーケティングもデジタル(AIがビッグデータを用いてということだが)でできるとなったらどうだろうか。
そして、実車を作るだけだったら別に中国だろうがロシアだろうがインドだろうがどこでもできるとなったらどうだろうか。
今の巨大自動車メーカーの存在意義はどうなるのか。
そして、この様なデジタル化は既にかなり進んでいるのである。
危機感を抱かざるを得ない。
それが研究会を立ち上げた強い動機である。
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