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「妄想警察P」第二話

第二話:ライトワーカーの行動は監視されている

宇宙の果ての牢獄へ送られる者には、終身刑という百万億年の刑罰がある。

恐怖の3段ロケットに詰め込まれて、若手の刑務官が上司の命令で導火線に火を点けさせられる。

一つ目の恐怖は発射直後の爆発により木っ端微塵に吹き飛んで即死。よくあるパターン(A)か、

2つ目は、地球を出てからネジがポロンと抜け落ちてロケットは故障し、酸素不足でお陀仏。永久に宇宙遊覧。偶にあるパターン(B)か、

3つ目は無事に刑務所へ到着するが、他の囚人達はもうとっくに冷たくなっていて、生きているものは誰もいない。とても静かなだだっ広い墓場にしか見えない場所で、ここが私のアナザースカイ!等と、冗談を言う余裕もなく、ただ静かに座禅を組んで、片岡の鶴ちゃんのように、ヨガにハマって、静かに死を待つしかない。パターン(C)の3つと言われている。

巨額の予算を投入して開発されたロケットの定員は1名。権力者の逆鱗に触れた者達だけが、雷を脳天に落とされるが如く、人生最後で最大の宇宙旅行の片道切符が与えられる。そのチケットを手にした今月のラッキーな旅行者は、ある容疑者のソウルメイトに一目惚れし、法に犯すと知りながら、そんな女はこの世に存在しない等と嘘の報告を上司にしていたという容疑で、上司に呼び出され、「君はホウレンソウが出来ておらん!」と、無期限のトイレ掃除を課せられていた、プー上等兵であった。

軍事裁判所のキュービック裁判官は、プー上等兵に訊ねた。

「最後に何か言いたいことはあるかね?」

「私は覚醒したのです」

プー上等兵は下を向いて、静かに答えた。

「覚醒だと」

裁判官はゆっくりと判決文に目を落とし、

「主文、被告人を終身刑に処する」キュービック裁判官は、判決文からプー上等兵の方へ目をやって続けた。

「あなたのご家族には、ベーシックインカム制度導入後の予定金額である月額7万円が、詐欺師によって不正操作が確認された為と、警察と銀行の協議の上、凍結されている、三菱UFJ銀行北畠支店の口座へ、来月の15日から年金と同様に2ヶ月おきの偶数月に振り込まれますので、安心してください」と、キュービック裁判官は満面の笑みで、そう伝えて、この日の軍事法定は終わった。

その翌日、プー上等兵は恐怖の三段ロケットで宇宙の果ての牢獄へと旅立っていった。1食分のお弁当を持って。因みに宇宙の果ての牢獄がどのような場所かは、あえて本人と本人の家族には伏せておいたほうが良いのでは、との、バンパイア軍上層部の判断で、ロケット打上げの式典では、200発を超える花火が打ち上げられ、マーラーの交響曲5番を、カラヤンのそっくりさんの指揮者を迎えて、急遽結成された、バンパイア・オーケストラの生演奏で盛大に執り行われた。プー上等兵の家族は涙を堪えて、ハンカチを振って三段ロケットを見送っていた。
「パパー!学校が夏休みに入ったら遊びに行くからねー」と、プー上等兵の長男の叫び声が、周りの人達の涙を誘った。

式典に立ち会った、キュービック裁判官は、この日の事は一生忘れることは無いだろう。と、この日の自身の日記に書き記している。

その頃、バンパイア軍の上層部では今後の人間監理政策について、突っ込んだ議論が何日も続いていた。

「とにかく、私が問題視しているのは、AIが予想不可能な行動をとる人間について、どう考えるか、どのようにすれば、スムーズに人間監理が可能になるかを、私はそのことを言っているわけで・・」

渋沢の担当取調官Mr.カーンの危機感は頂点に到達しようとしていた。例えて言うなら、政治家の先生方の口癖で、やっと富士山の八合目まで来ている。と言っていいのでは?だそうである。流石、文豪の表現力は高度だ等と、関心している文学青年を横目に、精神科医で、バンパイア軍の人間監理担当のDr.キラーは、話に割って入って来た。

「私の考えを述べさせてください」と言って、昨日徹夜して、まとめてきたA4のノートを無印良品で買ったトートバッグから取り出して、100均で買ってきた茶色の2.0の老眼鏡を掛けた。ノートの表紙のタイトルの欄には、『会議での発言集』と書かれていた。Dr.キラーは、かなりの上がり症でもあったので、一字一句間違えがないように、今日の明方まで壁に向かって、シャドーイングを繰り返すほどの力の入れようだった。

「先ず・・直感で行動するタイプの人。目に見えない何かを掴んで、自分の都合の良いように解釈する。勿論、後先考えずに。こういう人達は、自らの事を馬鹿だと言って、笑っているわけです。要するにAIでは予測が不可能だということです」と言って、Dr.キラーはノートのページを捲った。

「なので、私が考えるに・・思想が危険水域を超えそうな人間には、あくまで例としてですが、『危険思想人間シソウダー』のステッカーを会員証の裏面に貼って10枚貯まったらプレミアム会員になるというのはどうかと・・」

 「危険思想人間シソウダーか・・それでステッカーをゲットするにはどうすれば?」と妄想法が専門でバンパイア軍の御用学者(政治学者)のアーノット博士が訊ねた。

「先ず直感で行動する人間を見つけたら、ステッカー1枚ゲット。『神が降りてきた』等と言っている人間を見つけたら、ステッカー2枚というふうに、基準を設定する必要があります」

「それで10枚ステッカーがたまって、プレミアム会員になったら?」とバンパイア税務署長のハナー・レスキー署長がDr.キラーのノートのほうを見て言った。

「危険思想人間シソウダーに認定し、認定証を本人の自宅まで郵送する。郵便配達員は玄関のピンポンを押して、インターホン越しに、本人確認が必要ですのでサインをフルネームでお願いします。といった直後、表の電信柱に隠れていた数人の捜査官が、その場で容疑者を取り押さえて連行する」

「それで?」

「容疑者の体内にチップを埋め込み、こちらで遠隔操作可能な人間に改良した後、保釈します」

「保釈?何故?」

「容疑者の人間関係を把握するためですが、特に重要なのは、容疑者のソウルメイトを正確にリストアップするために、ある一定期間、泳がせるのです。私の考えは以上です。ご静聴有難う御座いました」Dr.キラーは静かに百均で買ってきた老眼鏡を外し、ドヤ顔で辺りを見回したタイミングで、会議出席者全員が起立し、昔懐かしのヒットラーのナチスのパクリで、全員が右手を右斜め上に上げ、
「バンパイアー!」

と一同が口を揃えたところで、会議は終了した。


Mr.カーンは、リストアップされた渋沢のソウルメイトのプロフィールを丹念に見ていた。
まず一人目が、看護師の真希。年齢はスキップして、趣味はパワースポット巡り。

二人目が、前科持ちで元銀行強盗犯の早川。年齢は取り敢えずスキップして、職業はグルメサイトのブロガー。

そして、三人目が、SF小説好きの万里子。
職業は家事手伝い。

「あと数名はいるはずだ・・特定を急がなくては・・」


渋沢は拘束されている部屋の奥の茶室で一人お茶を立てて、時間を潰すのが日課となっていた。

「お茶を1杯頂けませんか?」
Mr.カーンが茶室に入って来た。

「昼の蚊や だまりこくって 後ろから」

渋沢は静かに顔を上げてMr.カーンの方を見た。

「小林一茶ですか?」

「ご存知で?」

「えぇ、まぁ、私は蚊ではありませんよ」

「それで今日は何か?」

「上層部の結論が下りました。数日後にあなたは保釈されます」

「保釈?」

「えぇ、ただその前に、メディカルチェックを受けて頂きます」

「何故、メディカルチェックが必要なのですか?」

「それがここのルールなのです。明日の午前9時に担当の者が来ます。では」と、部屋を出て行こうとしたが、正座に慣れていなかったMr.カーンは、直ぐには立ち上がれなかった。完全に足が痺れきっていたのだ。だからといって、足が痺れて立てない等とは、口が裂けても言えない。勢いをつけて立ち上がったが、両足に感覚はなく、ヨロヨロと部屋中を暴れまわって、飾ってある置物は引っくり返すは、障子に手を掛けて破りまくった挙げ句、茶室の障子と一緒に隣の居間に大の字になって倒れ込んだ。渋沢はその光景を見ながら考えていた。『これはネタになる』と、だからあえて、大丈夫ですか?等とは言わなかった。Mr.カーンがその後、どんな起き方をするかまでを、見届けたかったのであった。因みに何故かこの時、渋沢は紋付はかま姿であったということを、付け加えておこう。


翌日、渋沢はメディカルチェックを受けるという理由で、体内にチップを埋め込まれ、バンパイア軍の遠隔操作可能な人間に改良されてしまった。



第三話につづく。









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