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本当は多くの企業が儲からない、中国ライブコマース市場の真実

一、中国のライブコマース市場概要

2019年中国国内ライブコマース市場の規模は4338億元、2020年には9600億元強になるといわれている。

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(ライブコマース市場は急成長している、データソース『艾媒数据中心』)

『中国消費者協会』の統計によると、ライブコマースを利用している消費者のうち、約7割弱がタオバオサイトを利用しており、3割強がT-MALLサイト、京東と拼多多は2割強占めている。つまりタオバオのライブコマースは利用者数では圧倒的な優位性を持っている。また、タオバオのユーザーは非常にロイヤルティが高く、頻繁に利用する忠実なユーザーは約5割を占める。
一方で、伝統的なECサイトではなくソーシャル性を持ったアプリでメイン事業はECではないけれども後にライブコマースを追加したアプリのうち、抖音(中国版Tiktok)のユーザーが最も多いことが分かった。しかし二位の快手(Tiktokと類似した動画アプリ)との差はさほど多きくなく、最近快手の成長も著しい。

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(ライブコマースユーザーの各サイトの利用率及び忠実度、『2020年中国直播电商研究报告』より抜粋)


ライブコマースの発展は蘑菇街、タオバオ、京東等のECサイトが2016年に立ち上げたライブコマース事業に遡る。そして現在、この業界においてメインなプレイヤーは4つある。

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(各プレイヤー間の関係、筆者が公開資料をベースに作成)

①サプライヤー(ブランド側や企業)
②ECサイト
③ライブプラットフォーム
④MCN(キャスターを提供するマネジメント会社)

なぜECサイトが必要なのか。

決済や物流、アフターサービス等一連のシステムを構築するには膨大な資金とノウハウが必要なため、ほとんどの場合はライブ画面のリンクをクリック後ECサイトに飛ぶ仕様となっている。しかし、この場合ECサイトに利益を一部取られるため、2018年以降ではライブプラットフォーム自身がこのシステムを試しに構築する傾向にあり、代表的なのは「快手电商」「抖音小店」等が挙げられる。

サプライヤーはその他のプレイヤーに対してマージンを分けることになる。その中で最も注目されているのはキャスターへのマージンである。同一レベルの商品に対して、ライブでモノが売れるかどうかはキャスター次第と言っても過言ではない。


通常キャスターの収益は出演費+レベニューシェアから成り立つ。出演費はキャスターの知名度により大幅に異なり、現在中国で有名なタオバオライブコマースを代表する李佳琦Austinの出演費は23~42万元(約300~400万円)+売上の20%以上のレベニューシェアを設定している。別の有名なキャスターで、罗永浩やバーチャルユーチューバーのラテンイ等の出演費は60~90万元(900~1300万円)にも達する。

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(李佳琪Austin15分間で15000本口紅を売る男)

二、ライブコマース本当は大半の企業が儲からない?

①高騰するキャスター出演費+キャスターから要求される販売価格は最低価格

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(2020年3月のタオバオのキャスター販売額ランキングTOP10位)

前述の通り知名度が高いキャスターを利用することは大幅にコストを増加することに繫がる。それでは知名度がやや低いキャスターに切り替えるのはどうか。結論から言うと効果は10倍以上も異なることになる。

2020年3月タオバオライブコマースのキャスター売上TOP10を見ると、一位と二位が他のキャスターとの差がかなり大きいことがわかる。ランキング1~2位がTOP10の売上のうち80%以上を占めている。また、毎晩展開されるタオバオライブコマースのうち、この二人がトータル売上の50%以上を占めると言われるほど、強力なキャスターの影響は大きい。

一方で、有名なキャスターは出演料が高いだけでなく、李佳琦Austinや薇娅Viya等は特定の期間内で市場最低価格の販売価格を要求してくる。ブランド側にとっては粗利を最後の一滴までに絞られることも多く、通常販売よりも利益はかなり薄いか赤字になる。

②平均40%以上、通常ECの数倍を超える返品率
ライブコマースの通常のECよりも優れている点は、「ゲーム性」があり刺激的だからだ。タオバオの運営責任者によると、ライブコマースを利用するユーザーのうち、約56%以上の人が画面の商品紹介リンクを通して店舗に入る。この確率は、通常のECサイトのクリック率の数倍にもあたる。

なぜこれ程の転換率があるのか。それはライブコマースが作り上げた購買の「ゲーム感覚」、つまり限定数量の商品を奪い会い、買えたユーザーが「勝ち」の心理をうまく作り上げることができるのだ。また、「今だけの限定価格、今までにない低い価格」などバーゲン感覚は女性にとっては耐え難い誘惑になる。

しかし、このように衝動買いした商品は後々冷静になれば本当に必要だったのか?と後悔するユーザーが多い。多くの商品には「7日間以内理由無しに返品可能」の条件がついているため、返品率が一般の販売チャネルよりも高いことに繫がる。

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(購買後「稀に返品・取り消しをする」と答えたユーザーはわずか27%、『2020年中国ライブコマース業界ユーザー像及び洞察』より抜粋)

3.返品されても、キャスターに出したお金は帰ってこない
「7日間以内理由無しに返品可能」の条件がついているため、基本キャスターとの契約は7日間以内に返品された売上はレベニューシェアの範囲に入らないのが一般的である。しかし、それでも7日間以降に返品をしてくる人は後が絶たない。しかも、悪意のあるキャスターであれば、より多くのレベニューシェアを貰うために偽のユーザーを雇い、振り込みが終わればその後に返品をさせる行為もメディアに暴露されている。

三、それでも多くの企業がライブコマースを利用する理由

物事は常に二面性を持っている。つまりいいことなのか悪いことなのか、利用する人の目的や考えが重要になってくる。前述の通りライブコマースで一揆に売上が伸び莫大な利益を得られるのは少ない。しかし、それでも多くの会社が利用しているのはなぜか。

①マーケティング効果に期待
2019年ダブルイレブンイベントでは、李佳琦Austinのライブを見るユーザー数は3400万人にも達した。普段のライブの観客数も1000万人を超えることも多い。有名なキャスターを出演させることはブランドにとって一揆に多くの人の注目を集め、マーケティング上宣伝の効果が見込める。これは新作を公表する際や売れ筋の商品を作るため、一時的に単独のイベントで赤字を覚悟し、その後の売上を伸ばすのが目的だ。

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(薇娅Viyaが化粧品ブランドCocononoの新作発表をライブで行った)

②商品情報の補足として取り扱う
ライブで実演された商品の説明動画は、その後タオバオの店舗にて商品紹介として掲載し続けれることができる。これにより店舗を閲覧しているユーザーがより多くの商品知識を知り、購買率増加に繫げることができる。
また、自社でキャスターを雇い、顧客が商品に対する疑問点に対して回答し、商品をより一層よくアピールする。CS兼販売員の役割を与えることで、百貨店のカウンターをオンラインで利用することができるようにな体験になる。

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(タオバオで商品を閲覧する際、赤枠の部分をタップするとライブコマース時の録画が観れる)

③在庫処理の手段として有効
コロナの影響で多くの会社は大量の在庫を抱えることになった。ライブコマースを利用して、少しでも多くの在庫を売り出し赤字を縮小することができる。これはコロナが勃発した後、一揆にライブコマースに参入する人が多くなった原因の一つでもある。

四、最後に

ライブコマースと言っても、本質はやはりECである。一時的にキャスターを雇ってライブコマースを通じて売上が伸びても、ブランドの長期的な発展は商品自体のクオリティーとユーザー購買及び使用体験が最も重要だ。これはあくまで一種の販売チャネルであり、マーケティングのツールでもある。このツールをうまく利用し、製品の良さをより多くの角度から伝え、ユーザー体験を改善する。

つまり、ライブだからこそ分かるユーザーの心理やデータを生かし、さらにブランドを磨き上げるのが有意義な使い方なのではないだろうか。


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