見出し画像

自分の部屋がほしいのだ


鈴木保奈美さんが離婚した。

離婚の理由の1つとして、ある記事には「保奈美さんには自分の部屋がなかった」と書いてあった。
離婚の理由はそれだけじゃないだろう。
いや、むしろそれだけだったおかしい。
彼女に本当に部屋がなかったのかは分からないけど、
でも事実だったとしたら
「家に自分の部屋がないことに対するむなしさ」は共感できる。


2011年。
東日本大震災があったあの年の夏、
わたしと夫はマンションを買おうと思った。

4LDKを3LDKにリフォーム済みのその家は、

居間とキッチン
和室、洋室、小部屋
(納戸)

部屋は3部屋。

和室はゆくゆくは子供部屋に。
洋室は夫婦の寝室に。
小部屋はいつか私の仕事部屋にしたい。


ところが
一緒に内見についてきた父はこう言った。

「この小部屋は、〇〇君(←夫)の書斎にいいね」


え?
えええ??

当時、夫は毎日会社に通っていた。
つまり平日の昼間は家にいない。
さらに無趣味なため、休日に趣味活動をするための部屋が必要とも思えない。

一方、私は個人事業主で、毎日、家で仕事をしてる。
多少の波はあるにしても、ほぼほぼ毎日仕事がある。

という基本的な情報を知っているにもかかわらず、
父のあの発言である。


引っ越してきてまもなく子供が生まれ、
和室で家族みんなで寝て、
洋室で私は仕事をし、でも半分物置き状態で、
小部屋は完全なる物置きになった。


月日が過ぎ、娘が成長し、コロナ過に突入。
和室は洋室にリフォームして娘の部屋となり、夜はそこで私と娘が寝て、
洋室は物置き状態が加速し、昼は私が仕事で使い、夜は夫が寝た。
そして小部屋はと言えば、父の予言どおり夫の部屋となった。


コロナが流行するや否や、夫の会社はすばやくリモート勤務に転換。
そして緊急事態宣言が出されると「オフィス・クローズ」と言ってきた。
会社は2つのフロアを借りていたが、1つはテナント契約を解除。
さらに個人の机を無くし、オープンスペースにしてしまう。
どうしても出社しなければならない時は事前に上長の許可が必要となる。
ということで2020年3月から現在(2021年9月)まで、夫がオフィスに出向いたのは、なんと10回未満である。

通勤がなくなった夫はホクホクで、
そそくさと小部屋の改装を始め、L字の仕事机をDIYした。
「この部屋、使っていいよ」とは言ってくれたが、
なんだかんだで結局は夫が使うことに。

数か月ごとに交代で部屋を使うという「交代案」が出ていたが、結局は、何台ものパソコンやたくさんの資料、そして何よりも机の上に大量に置かれた夫の私物を移動させるのが面倒という理由でこの案はあっけなく消えた。

その後夫は、倒すとベッドにもなるような立派な椅子を買い、棚をDIYして私物を収納し、壁には娘が描いたを絵を飾り、新しく買った自転車をどうやって部屋にディスプレイしようか楽しそうに悩んでいた。

完全に「自分の城」である。


その代わりに
私が仕事部屋としている洋室が、半物置きから完全に物置き化した。
行き場のなくなったモノたちが次々と洋室に入って来るようになったのだ。
そして居間に近いこともあって娘が頻繁に出入りし、
夜はと言えば、夫の寝室になるため、早々に追い出される。
最近は愛犬が病気をしたため、犬のゲージまで洋室に移動。

何でも押し込んじゃう部屋かつ家族みんなの部屋になってしまった。
もはや仕事部屋と言うにはおこがましく、物置きの中にちょっと間借りして仕事しています、という雰囲気に。
夫の城とは天と地の差である。

どう計算してもこの家に私の部屋はない。
この物置き兼仕事部屋もそのうち夫婦の寝室になる。
ベッドを2台入れたら机の置き場所なんてなくなるのだ。

その日が来たら、私はどこへ行けばいいのだろう。


父の放ったひと言や、実家でやはり自分の部屋を持っていなかった母や、じわじわと小部屋を占領した夫や、鈴木保奈美さんの離婚理由から、
「母親には部屋なんていらない」という空気を感じるのは、私がひねくれ者だからだろうか。

私も仕事をしているから、という理由だけでなく、
専業主婦であろうと、何だろうと、
お母さんだって部屋が欲しいんだ。

みんなの部屋じゃなくて
物置きみたいな部屋じゃなくて
自分の好きなものを飾って
そこに居れば落ち着くような
狭くてもいい
誰にも邪魔されない
私だけの空間。

それを欲しがるのはわがままなのだろうか。

鈴木保奈美さんの顔写真を見ながら
「部屋、欲しかったよね…」と
つぶやくある日の午後である。