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地底人との再会 その2”10時23分”

「10時23分」という声が左手の方から唐突に聞こえたので、誰もいないと思っていた私はビックリして瞬間的にそちらの方を見たのですが、そんな私に構うことも無く、一瞬の間を置いて「時間ピッタリですね」と言ってきたのです。

その声の主は見覚えのある出で立ちで、静かに佇んでいました。そう、大きなつばのついた黒い帽子をかぶり、映画『マトリックス』の中のキアヌ・リーブスが着ていた薄手の黒いロングコートを羽織り、美輪明宏さんに似た雰囲気を醸し出すその方。最初に会った時と何一つ変わることのない姿をした地底人でした。

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それを見た私は、思わず「何であなたがここにいるんですか?」と声を発し、混乱した頭で矢継ぎ早に「昔と少しも変わっていない!年をとらないのですか?」などと質問したのですが、それには全く意に介さないで「覚えていませんか?1986年6月28日10時23分、今からちょうど35年前の同じ時間、あなたと靖国神社で初めて言葉を交わした時間ですよ」と言うのです。

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確かに地底人に会ったのが35年ぐらい前であることまでは覚えていますが、夏の日差しが強い暑い日だったということぐらいで、正確な日時まではまったく覚えていません。もしかしたら地底人が感動的な再会?を演出するために、最初に会ったときの日時にタイミングを合わせたのかも知れない!それなら気の利いた返事をしなくちゃならない!と、そんなふうに考えていながらも、地底人から「覚えていませんか?」と聞かれて「そうなんですか。申し訳ありませんが、正確な日時は覚えていません」と答えることしか出来ない自分にガッカリし、地底人に申し訳ないなという気持ちになりました。ところが、そんな私の思いも意に介さないように、「あなたに会う時は、この格好でないと思い出してくれないかも知れないと思ったので」と言って、一瞬、間を空け「この格好は、そんなに変ですか?」と顔をのぞき込むようにして聞いてきたのです。

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そこで私は「変というより、非常に個性的という感じだと思います」と答え、「ところでお年を取ったように見えないのですが、それは地底人の寿命が長いからですか?それともホログラムなので年を取らないのですか?」と質問すると、地底人は「そのどちらでもありません。恐竜は種族ごとに寿命に差があり、私の種族の平均寿命は58歳だと云われています。そういう意味では私も高齢恐竜の部類に入りますが、人間にも個体差があるように恐竜にも個体差があるので、一概に決め付けられるものではありません。それにそもそもこの体は機械、つまり私はアンドロイドなので、寿命というより耐久年数というべきだと思いますが」というのです。

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私は「そうなんだ」と思いつつ、更に質問を重ねました。「あなたは機械の体を手に入れた。アンドロイドになったと言われましたが、それはつまり、脳だけを機械の体に移植したということですか?」と、その質問に対して「そうではありません。映画『ターミネーター』のような人工皮膚を持ったアンドロイドが体、そして映画『アバター』のように肉体を冷凍カプセルで仮死状態にして寿命を伸ばし、脳とアンドロイドの電子頭脳をつないで脳の記憶を一時的に電子頭脳に転送する。そして行動する中で色々経験した情報、例えばあなたの戸惑いや受け答えを電子頭脳から脳に戻す。それを元に新しく書き換えられた情報を電子頭脳に転送するというように、脳と電子頭脳との間でキャッチボールする形になっています。

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つまり、肉体の脳メインコンピューターで、電子頭脳がそこにつながったネットワークコンピューターという位置付けになります。最初は違和感がありましたが、今ではこの機械の体が私の体であるように思えるほど馴染んでますよ。それに必要に応じて別の体に換えることも出来るし、カスタマイズすることも可能ですから意外に便利ですよ。何よりも今の人間の科学レベルでは、私がアンドロイドであることを見抜くことが出来ないので、バレることがないというのが良いですねぇ~」と説明し、「いずれ人類も同じようなことをすると思いますよ」という言葉を付け加えてきました。

本当にそんなふうになるんだろうか?」と考えつつ、アニメ『銀河鉄道999』を思い出し、何となくですが地底人が言っていることに納得できるなと思い、自然に、しかもゆっくり、そして数回、首を縦に振っていました。

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