初めての一人暮らし4

この話は前回の話(初めての一人暮らし3)の続きとなります。
第一話(初めての一人暮らし)はこちらからお進みください。

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艶々のお米を目の前に、
真っ白な顔のわたしはパサパサのパンを食べていた。

思考は停止していたが、
それでも手は止まることなく少しずつパンを口へと運んでいった。


数分後、大事に食べたにも関わらず、スティックパンは綺麗さっぱり手元からなくなっていた。
変わらないのは目の前のお米だけ。

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しばらくお米を眺めていたわたしは
どうせ食べることはできないのだ、と立ち上がった。

台所へ行きコップに入っていた水を捨て
お米をしまおうと冷蔵庫を開く。

明日。
明日を乗り切ればパンとはおさらばだ。

空っぽの冷蔵庫にお米を入れパタンと扉を閉めた。
気持ちは確かに沈んでいたが、もうすぐ給料日であるという事実を新たな希望として自分の中で気持ちを切り替えた。

しかし、わたしの心はベタっと纏わりつくような不安に駆られていた。
引っ越してすぐに感じた漠然とした不安とは違う確信のある不安。

「給料、いくら振り込まれるんだろう…」

不安の原因は明白であった。

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わたしという人間は大変ものぐさな生き物である。
日記やダイエット等の継続して行うものは3日と持たない。
スケジュール表に至っては記入されたページよりもはるかに真っ白なページが多い。

そんなものぐさなわたしは先月何回アルバイトしたのか確認する術がなかった。
加えてわたしの記憶は遊び狂った時の楽しい楽しい思い出が上書きされていたのであった。

しかし、わたしはこれまでの出勤日の傾向から考え、確実に働いているだろう日を割り出した。
計算をしてみたところ最低でも30,000円もらえるという結論に至った。
炊飯器に10,000円、教科書買うのに10,000円…。
わたしはここで決意した。

一ヶ月1万円生活をやるぞ、と。

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給料日当日。


心地の悪いドキドキとした気持ちとは関係なく、ATMは淡々と銀行通帳に印字し通帳を吐き出した。



通帳には40,000円の文字が印字されていた。


予想以上に振り込まれていたお給料にガッツポーズをしながらATMを後にした。

お金をおろした足で向かった先はスーパー。
3万円で一ヶ月生活を計画していたわたしはすでに買うものを決めていた。

買ったものは以下の通りである。

①フライパン(直径28センチ、蓋無し)
②生活用品(お風呂用品、洗剤等)
③食器類(百均)
④ドライヤー

炊飯器は高いため断腸の思いで切り捨てた。

鍋ではなくフライパンを購入した理由はスーパーに置いてあった鍋はステンレス製のものであり、煮る・炒めると考えた際フライパンの方が良いと判断したためだった。
また、28センチサイズを選んだのは、サイズ差による金額の差が少なかったため「大は小を兼ねるよね!」…という考えのもとであった。

しかし購入後、鍋であったらお米を炊くことができたことに気がつきしゃがみ込んだのはいうまでもない。

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その日の夕方。
これまでいくつもの試練を乗り越えてきたわたしはあることに挑戦しようとしていた。


フライパンでお米を炊くことである。

何を思ったか、ダメ元で調べてみた「フライパン 米 炊く」といいワードを検索してみた。
すると幸いにも、インターネットの世界にはフライパンでお米を炊こうとする強者がたくさんいたのだった。

同じ境遇を味わった先人達がこんなにもいるのかと思うと心強かった。
先人達も皆、炊飯器を買えなかったのだろうと思いにふけながら調理を開始した。

方法は鍋での炊き方とやり方はほぼ一緒で至ってシンプルである。

①フライパンとお米と水を用意
②フライパンにお米を入れ、平たくならす。
③水をお米の表面から1センチほど多くなるように入れる
④強火にかけ、沸騰したまま1分ほど加熱する
⑤弱火にし5分〜10分ほど加熱する
⑥火を止めて蒸らす


わたしは特別必要なもの、技術を必要としない炊き方に安心した。

少し異なることをしたとすれば
フライパンに使用できる蓋はなかった(かつ、これ以上出費をしたくなかった)のでアルミホイルで代用したことくらいである。

他は手順通り行いあとは待つだけ。
数十分後には部屋に炊き立てのあの独特な香りが漂い始めているであろう、と小躍りしながらその時を待った。


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わたしの目の前にはフライパン。
待ちに待ったお米様のとの対面である。
部屋にはいい香りがしておりお米のデンプンがしっかりとα化していることがわかった。

わたしは、はやる気持ちを抑えアルミホイルをそっと外した。
生米とは違うキラキラしたお米。
少し水分が多いように見えるがふっくらと炊き上がっていた




…が、炊き上がっていたのはフライパンの中心か半径10センチ程度の範囲であった。
山のように真ん中に炊き上がって隆起したお米、その外側をぐるっと囲うように半生のお米が広がっていた。

何が起きたのかすぐには理解できなかった。

が、とりあえずわたしは真ん中の炊けたお米をすくい、買ってきたお茶碗にもりつけた。
なぜ炊けなかったかは後で考えれば良い、
とにかく早くご飯を食べたかった。


何もかけぬままのその白いお米を口に頬張った時、なんとも言えない安心感が身体を包んだ。

少し水分が多いがお米特有の甘い味。
ふりかけも梅干しも塩も何も載せていないお米がこんなにも美味しく感じたのは人生で初めてのことだった。

「おいしい、、、」

思わず口から漏れていた。

わたしはこの初めての自炊を一生忘れない。


つづく。

※次回最終話の予定です🍚

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