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「海賊版で読みました」無邪気なファン 「ネギま!」赤松健さんの怒りポイント【時事ドットコム取材班】(2022年01月06日10時00分)

 「魔法先生ネギま!」や「ラブひな」などのヒット作で知られ、日本漫画家協会常務理事も務める赤松健さんは、ベテラン漫画家として雑誌連載を続けながら海賊版被害と戦い続けてきた。2022年参院選への立候補を表明したことでも話題となった赤松さんに違法アップロード問題への思いを聞いた。(時事ドットコム編集部 太田宇律

 【特集】時事コム

 ー赤松さんは執筆活動と並行し、海賊版被害とも最前線で戦われてきました。

 私は漫画家協会に入る前から、「Winny(ウィニー)」をはじめとしたファイル共有ソフトで作品を違法にアップロードされる海賊版被害に悩まされてきました。中には「ウィニーで読みました!」と無邪気にメールを送ってくるファンもいて、あまりの罪悪感のなさに驚いたことが、海賊版対策や啓発運動と関わり始めたきっかけです。

 ー現役漫画家として、海賊版被害の現状をどう感じていますか。

 まずお伝えしたいのは、出版社は漫画家の権利を守るためにとても努力しているということです。大変なお金と労力を掛けて違法サイトに対する削除要請を日々繰り返していますし、法改正にも尽力してくれています。近年は「鬼滅の刃」などのヒットや新型コロナウイルスによる「巣ごもり需要」の影響で、漫画需要は増えているんですよ。皮肉なことですが、被害が深刻化しているのは漫画人気の裏返しなのかもしれません。

 ー「ただ読み」への怒りをたびたび発信されています。

 自分では何も作り出していないのに、勝手に他人の著作物をコピーしてお金をもうけている人がいる。創作の過程をすっ飛ばして莫大(ばくだい)な広告収益を得ている。本当に許せません。最近の海賊版は画質も格段にきれいになっていますし、中には漫画のページの上に違法サイトの名前を「透かし」のように刻印しているものもあって、これらも「怒りポイント」の一つですね。いったい何様なのかと怒りが倍増します。

 われわれベテラン作家は紙の単行本を出してもらえますが、新人作家は電子版のみで活動している人が多いんです。これから売れようとしている新人作家にとって、海賊版が出回るダメージは特に大きい。海賊版の横行で創作者がやる気をなくしてしまい、将来世に出るはずだったヒット作が消えてしまうことを一番危惧しています。

 ー海賊版サイトはどうしてなくならないのでしょうか。

 国内最大規模だった「漫画村」もそうですが、海外サーバーを経由するなど運営者の身元を隠す「バリアー」が何重にも施されていて、発信者情報の開示やアクセスログを取り寄せる手続きに多大な時間がかかってしまうことが原因の一つです。また、海外の警察に協力をお願いしても、被害の深刻さが伝わらず、真剣に対応してくれないことがあるのも問題ですね。

 ただ、全く手も足も出ないということはなく、海賊版サイトを紹介する「リーチサイト」の規制など、法改正で違法アップロードへの抑止力は少しずつ強まっています。検索サイトに働きかけ、海賊版サイトを表示させないようにする対策も大きな効果がありました。

海賊版のダウンロード違法化に関する文化庁のリーフレット

ー漫画村は閉鎖されましたが、海賊版サイトへのアクセスは急増しています。

 このままでは、無料で漫画を読むことが常識化してしまいます。漫画村は小・中学生の間でもかなり拡散していて、サイト上に「海外サーバーで運営しているので合法だ」と書いてあるのを信じてしまった子も多かったようです。漫画村の運営者だった男が逮捕され、大きな抑止効果があったと思いますが、小・中学校でも著作権に関する授業を行うなど、摘発と同時に啓発や教育も進めていかなければならないと痛感しました。

 クレジットカードを持っていない小・中学生にとって、正規の電子書籍を買うことが身近でないことも、海賊版が広まってしまった原因の一つかもしれません。

 ー海賊版被害について、漫画家同士ではどのような話をされていますか。

 海賊版がスマートフォンで直接読めてしまう時代になり、ファイル共有ソフトなどで出回っていた時代より被害の深刻さを実感する漫画家が増えました。かつては海外のサーバーから時間をかけてダウンロードして読むのが一般的だったので、漫画村を実際に見て「こんなことになっているのか」と怒りを覚えた方が多かったのだと思います。

改正著作権法が全会一致で可決、成立した参院本会議=2020年6月5日、国会内

 2015年には、配送会社の社員が印刷工場から送られてきた「週刊少年ジャンプ」を抜き取り、発売前に海賊版が出回ってしまう事件もありました。正規品が世に出る前に海賊版が出回ってしまうなど、漫画家にとっては怒りでしかありませんよ。

赤松健さんには、海賊版サイトの運営者、閲覧者への思いや、映画を短く編集して投稿する「ファスト映画」に対する考えも伺っています。後半で紹介します。

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「海賊版で読みました」無邪気なファン 「ネギま!」赤松健さんの怒りポイント(時事ドットコム)