「親子自転車」命守る方法は◆重量100キロ超、転倒が招く悲劇【時事ドットコム取材班】(2022年05月08日08時30分)
2022年4月11日、親子3人乗りの自転車が大阪府東大阪市の国道で転倒し、3歳の男児がトラックにはねられて死亡する事故が起きた。一台の自転車で仲良く出掛ける親子の姿は朝の日常風景だが、その裏では痛ましい事故も繰り返されている。便利さの反面、大きなリスクもはらむ「親子自転車」。子どもたちの安全を守るために何ができるのだろうか。(時事ドットコム編集部 太田宇律)
転ぶだけで「命に関わる」
「ひとごとじゃない。できる対策はちゃんとしなければ」。東京都足立区の20代女性は育児休暇を終えて職場復帰した当日、東大阪市の事故のニュースを見て背筋が寒くなった。
女性は復職に備え、同年1月から1歳半の長男を自転車の後部座席に乗せて保育園まで送り迎えしている。家から園までは5分ほどだが、それでも「ひやり」とする場面は何度もあった。
送迎ルートは車通りが多く、歩道と車道が区別されていない。女性は車道の路側帯を慎重に走っているものの、朝は猛スピードで追い抜いていく車もあり、「一度転んでしまっただけで子どもの命に関わる」と感じる。長男には必ずヘルメットを着用させ、チャイルドシートから放り出されないように晴れた日もレインカバーを掛けて出掛けているが、「事故の報道を見て、毎日子どものシートベルトをもっとしっかり締めるようになった」と話す。
転倒が招いた悲劇
東大阪市での事故では、30代の母親が運転する電動アシスト自転車の前後に3歳と5歳の男児が同乗していた。死亡したのは、ハンドル部分のチャイルドシートに座っていた弟で、何らかの理由で自転車が転倒した際に道路に投げ出され、後方からきたトラックにひかれたとみられている。現場は片側1車線の道幅の狭い国道で、歩道はなく、ガードレールも設置されていなかった。
親子3人乗りの自転車が単独で転倒し、死亡事故につながったケースは過去にも起きている。
13年2月には、川崎市で5歳と1歳の姉妹を保育園に送り届ける途中だった30代母親が転倒し、後部座席の長女が市道に投げ出されてトラックにひかれ死亡した。事故直前、母親は前から自転車が近づいてきたため、スピードを落とそうとしてバランスを崩したとみられている。18年7月に横浜市都筑区で起きた事故では、長男を自転車前部に乗せ、1歳の次男を「抱っこひも」で抱えた母親が転倒、次男が頭部を強打して死亡した。母親が手首に掛けていた傘が自転車に引っかかって転倒したとされる。
2009年に「解禁」
実は、自転車の3人乗りが条件付きで「解禁」されたのは2009年のこと。子供2人を乗せてペダルをこぐ保護者の姿はそれ以前も街中で見られたが、事実上黙認されていたようだ。警察庁が07年末、3人乗り禁止を交通ルールの教則に明記する方針を示したところ、保護者らが「子どもの送迎手段がなくなる」などと反発。有識者委員会による検討を経て、(1)幼児2人を乗せても十分な強度とブレーキ性能がある(2)駐輪時の転倒を防ぐ操作性と安定性が確保されているーなどの基準を満たす自転車に限り、6歳未満の幼児2人の同乗が認められることになったという経緯がある。
交通違反を放置するより、ルールの下で3人乗りを認めようという改正だったが、混乱要因は残っている。
道交法では、同乗する幼児のヘルメット着用は保護者の「努力義務」とされ、チャイルドシートのベルトについては着用義務は課されていない。だが、幼児を同乗させる際のルールは自治体ごとの規則によっても細かく異なり、保護者からは「分かりにくい」との声も上がる。
前から降ろせと言われても…
幼児を乗せた自転車事故をめぐっては、消費者庁の消費者安全調査委員会(消費者事故調)が20年12月に調査報告書を公表している。それによると、東京・神奈川・大阪の保育園など15施設で、子どもを自転車送迎している家庭を対象にしたアンケート調査で、54.3%が事故を起こしたり、起こしそうになったりしたことがあると回答。一方、送迎時の観察調査では、幼児にヘルメットを着用させていなかったのは50.4%、シートベルトを着用していなかったのは46.1%に上り、安全対策が徹底されていないことが浮き彫りになった。
観察調査や走行実験の結果、停車中の転倒事故の多くは(1)駐輪場所の緩やかな傾斜(2)ハンドルにぶら下げた荷物(3)子どもの動き(4)保護者が自転車から目を離したことーなどが複合して起きていることが判明。走行中の転倒事故は、車道から歩道に乗り上げる際の5センチほどの段差でバランスを崩して起きることが多いことも分かった。