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8 僧侶を派遣するというビジネスが生まれた理由/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争⑦


 イオンとアマゾンが仏教界と対立した問題で、この両者が異なることがもう一つある。

 イオンの場合は、イオンのお葬式が僧侶を派遣していることは、あまり表に出していなかった(実際は行っている)。ところが、アマゾンの場合は、僧侶を派遣することそのものが商品として提示されたということだ。

 もちろんアマゾンが直接に派遣しているわけではない。前述の通り、株式会社よりそうという会社がその業務を行い、アマゾンのショッピングモールに出店している。

 この「僧侶を派遣する」ことが商品になっているのに違和感を感じる人は少なくないだろう。

 全日仏がアマゾンに送付した文書にもそういった趣旨が書かれている。

「私どもは、先ずもって、このように僧侶の宗教行為を定額の商品として販売することに大いなる疑問を感じるものであります。およそ世界の宗教事情に鑑みても、宗教行為を商品として販売することを許している国はないのではないでしょうか」

 アマゾンの「お坊さん便」のページのカスタマーレビュー欄を見ると、「お坊さん便」に批判的なコメントが見られるが、その多くが、「僧侶を派遣する」ことそのものに違和感を感じるというものだ。この違和感は、お寺とのつきあいを大切にしてきた人にとっては、ごく自然なものである。ビジネスにしてはいけないものを、ビジネスにされてしまったという感覚であろう。

 しかし、私が記憶の範囲では少なくとも二十五年前には僧侶派遣会社があり、既にビジネスとして定着していた。

 実は僧侶派遣というビジネスは、現代の葬儀においては、無くてはならない存在になっている。それは、現代社会には、菩提寺のない人、つまり檀家になっているお寺の無い人がたくさんいるからである。これは都市部に行けば行くほど多い。首都圏においては、菩提寺の無い人は、六割とも七割とも言われている。むしろ菩提寺の無い人のほうが主流派なのだ。

 菩提寺を持たない人が亡くなると、遺族は葬儀社に連絡して、葬儀の段取りを取り始める。準備の段階で葬儀社は必ず、つきあいのあるお寺は無いかを聞いてくる。そこで、無いと答えた場合、葬儀社がお寺を紹介することになる。そして葬儀社は派遣会社に連絡を取って、僧侶の派遣を依頼するのである。

 派遣会社が定着する前は、葬儀社が直接、僧侶を手配していたのだが、すべての宗派の僧侶を、ある程度の人数そろえておかなくてはならず、葬儀社の負担も大きくなってしまう。そこで、そうした業務一切を請け負ってくれる派遣会社に任せるようになるというわけだ。

 もしこうした派遣会社が無かったら、菩提寺を持たない人の葬儀に、お坊さんを呼ぶことが難しくなってしまうのである。

 そして前述のように、首都圏では菩提寺の無い人が六割とも七割とも言われている。つまり首都圏の六割以上の葬儀に、こうした派遣会社が介在しているということである。

 アマゾンの「お坊さん便」は、こうした派遣のひとつのバリエーションに過ぎない。葬儀をする僧侶の派遣なのか、法事をする僧侶の派遣なのかの違いはあるものの、数で言ったら、一般の葬儀社と提携している派遣会社から紹介されているケースのほうが、アマゾンを通して派遣されているケースより圧倒的に多い。おそらくそれは百倍ではきかないはずである。

 こうした派遣会社は、今までも問題視されていなかったわけではない。確かに仏教界では批判的な声も多い。

 しかしこれまで、各宗派も、全日仏も、こうした状況に対して、なんら対応をしてこなかった。おそらく高度経済成長の時代、地方から首都圏に大量の人が集まるようになった頃から、この問題が生じていたはずである。何十年もほったらかしにしてきたと言えなくも無い。

 首都圏に住む菩提寺の無い人というのは、ほとんどは実家に菩提寺のある人である。長男じゃなく、故郷を離れているため、菩提寺が無いという状況になっているが、実際に葬儀をあげる時には、僧侶にお願いしたいと考えている人である。

 そうした人が、僧侶にお願いしたいと考えた時に、対応してくれるのは、葬儀社と派遣会社だけだった。もし、派遣会社が無かったら、菩提寺を持たない人のほとんどは、お坊さんを呼ぶことはできないのだ。

 仏教界はといえば、批判はするが、対応はしないというスタンスである。むしろ、仏教界がほったらかしにしてきたからこそ、こうした企業が必要とされたと言っても過言では無いだろう。

 私も僧侶派遣をビジネスにすることは、決していいことだとは思わない。しかし、誰かが、この部分を補わなければ、都会の葬儀は成り立たない。仏教界が無関心である以上、企業がそこに関わらざるを得ない。

 仏教界の無関心こそが、「お坊さん便」を生んだのである。(続く)


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