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7 全日仏は何と戦っていたのか?/「イオンとアマゾンをめぐるお布施論争⑥

 お布施をめぐって、イオンとの問題が二十二年に起き、五年後の二十七年、アマゾンとの問題が起きた。同様の問題は、それ以前もその間にもあったのだが、やはりイオン、アマゾンという巨大企業がここに関わることで、仏教界は大きな不安を感じたのは間違いないだろう。

  この二つの問題は、共通する要素が多いものの、中身を見ると、若干の相違点も見えてくる。

  まずイオンで問題になったのは葬儀であるが、アマゾンの場合は法事(一周忌、三回忌などの年忌法要)であると言うこと、またイオンはお布施の目安であったが、アマゾンはお布施の定価であることである。

  前述の通り、イオンは、本当はお布施の定額表示をしたかったと思われる節がある。しかし、定額表示はタブーだと考え、目安という妥協案を考えたのでは無いかと思われる。 

 しかし「お坊さん便」をアマゾンに出店した「よりそう」は、逆に定額表示にこだわった。

  イオンが僧侶を派遣する場合は、あくまでも「イオンのお葬式」の施行を行う中での僧侶派遣である。イオンが葬儀施行を受注して初めて僧侶を派遣することになる。つまり僧侶派遣はオプションに過ぎない。しかしアマゾンにおける「お坊さん便」の場合は、何かに付随してではなく、僧侶を派遣することがメインのサービスである。定額表示をしなければ、誰も注文はしない。ましてアマゾンという通販サイトに掲載するためには、定額表示が不可欠である。

  全日仏から抗議を受けてからの対応もだいぶ異なるものだった。イオンの場合は、全日仏の抗議に対してイオン側の主張も述べていたし、最終的にはホームページ上にあったお布施の目安を削除した。イオンは、「意見書を受け入れたものではない」と述べているものの、実際は一定の配慮をして、削除に至ったことが想像に難くない。 

 しかしアマゾンの場合は、全くの無反応である。反論すらしていない。社会の関心の高さを考えると、無反応と言うより、意図的に無視した可能性すらある。

  反論しない理由を想像すると、ひとつは、「お坊さん便」はアマゾン自身が行っているサービスではなく出展者のサービスに関してなのでコメントする立場にないというもの、もうひとつは、アマゾンが提供する膨大な数のサービスひとつひとつのクレームに対応することはできないということだろう。  どちらにせよ、アマゾンとしては、「お坊さん便」の是非に立ち入るつもりはないということだ。

  前述の通り、最終的に「よりそう」が全日仏に配慮の姿勢を見せて、アマゾンからの「お坊さん便」撤退を決めたが、あいかわらず自社サイトで「お坊さん便」の販売は続いている。なぜなら「よりそう」のビジネスモデルでは、「お坊さん便」の販売とお布施の定額表示は、必要不可欠であるからである。 

 「よりそう」がアマゾンから撤退を発表した折には、もうひとつ「おきもち後払い」という仕組みを導入することを発表している。これは、基本的にお布施は定額表示であるが、葬儀をしてくれた僧侶に、「仏事に対するお礼、供養や信仰への想いから費用と別途お布施を渡したい」との思いがあった場合、後から「お気持ち」の金額を追加で支払うことを可能にしたというものだ。

  この点でも、「よりそう」は、かなり全日仏に対して譲歩しているように見える。あとから「お気持ち」分のお金を上乗せできるようになったのである。

  ただ前述のように、全日仏がアマゾンに送付した文書には次のように書いてある。 

「私どもは、先ずもって、このように僧侶の宗教行為を定額の商品として販売することに大いなる疑問を感じるものであります。およそ世界の宗教事情に鑑みても、宗教行為を商品として販売することを許している国はないのではないでしょうか」

  「おきもち後払い」の仕組みがあっても、ホームページやパンフレットにお布施の定額表示がされている現実に変化は無い。しかし全日仏はこの「よりそう」の方向性に、「歓迎の意向」を示したと報道されている。それなら全日仏は、いったい何と戦っていたのだろうか?(続く)  

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