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桜の季節16

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  庄之助はテーブルを拭きながらスレイブに尋ねた。

「大事な話し?ワシが死ぬのは明日なんじゃろ?それとも何か?もうワシの事を殺しに来たのか?」 

  庄之助はそう言いながらスレイブの方に振り向いた。しかし、そこにいたのはスレイブではなく葉子と一雄がタオルを持って立っていた。

「殺すだなんて……。お父さんをどうして私が?」

「え?いや!違うんじゃ!」

  スレイブは葉子達の後ろにいた。あちゃー、と聞こえてきそうな顔をしながら頭を掻いている。

「あの、そのー。最近ボケて来てな。いやー、やっぱり歳には勝てんわい。」

  少し苦しい言い訳であったが。

「何を言ってるのよ、しっかりしてよ。悪い冗談はやめてよね。」

  葉子はそう言ってタオルを庄之助に渡した。

  「すまんすまん。」

  庄之助はタオルを受け取り服についた自分の吐き出したお茶を拭いた。葉子はタオルを渡すとまた台所へと戻って行った。夕食の準備はまだ少しかかる様だ。

「はい、タオルもう1つ。」

  一雄が更にタオルを差し出した。

「おお、ありがとう。」

「大丈夫?」

「なに、大丈夫じゃよ。」

「よかった。」

  庄之助はチラッとスレイブを見て。

「ここはワシが片しておくから、一雄は向こうで母さんのお手伝いをしてきてくれんか?」

「え?うん、分かった。」

  一雄は何か言いたそうだったが、何かを察したのか何も言わず台所へと向かった。とても小学生とは思えない聞き分けの良さである。

「本当にいい子ですね。」

「ああ、ワシの孫じゃからな。」

スレイブはニヤついている。

「なんじゃその顔は。」

「いえいえ、別に。」

「まったく!お前さんのせいでワシはボケ老人になってしもうたわい。」

「すいません。」

「まぁ、ええわい。お前さんの大事な話しとらやの前に1つ聞きたいんじゃが。」

「はい?なんでしょうか?」

「お前さん、ワシの娘の所にも1度来たことがあるんじゃったな?」

「娘さんですか?」

  スレイブは台所の方へと向いた、庄之助も一緒に台所の葉子を見た。

「ああ、あそこにいるワシの娘じゃ。」

  スレイブは庄之助の方を振り返り。

「まさか!娘さんはまだピンピンしてるじゃないですか!」

「しかし、おぬし葉子の名前を知っておったろう。」

「ええ、少しだけですが。ただ、私が担当した訳ではありませから。」

「担当?死神とは一体何なんじゃ?他にもいるのか?」

「ええ、沢山いますよ。死神とは簡単に言えば案内人ですかね?魂をあの世へと導く。」

「案内人か。」

「まさか、死神は私だけだと思ったんですか?だったらこんな事していられませんよ。こうしている間にも人はどんどん亡くなっているんですから。」

「そうか、そうじゃのう。」

  スレイブはもう一度台所の方を向きつぶやいた。

「お元気そうですね。彼も元気でしょうか。」

つづく

次の更新まで、気になる「彼」の話はいかがですか?




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