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奇跡の在り方20

前回のお話しはこちら。


(葉子さん、すいません。もう…、限界の様です……。)

「そう、分かったわ…。」

「え?どうしたの?」

「ごめんなさい、もう行かなくちゃ行けないの。」

「そんな…!もっと一緒にいたい!話もしたい…!」

「残念だけど時間なのよ…。ごめんなさい…。」

「今度はいつ会えますか?」

「…もう会えないわ。」

「どうして…?!」

「お願い…分かって。」

「分からないよ…!」

「私はこの時代の人間じゃないの。それに、未来の私も死んでしまう…。」

「嫌だ…!嫌だよ…!!」

「さよなら…正彦君。本当に好きだったわ…。貴方は強く生きてね。」

「待って…!そうだ!渡したい物が…!これ…!ユウコさん、いや!葉子ちゃんに似合うと思って…!」

  カバンから髪飾りを取り出した正彦の前には光に包まれる、葉子の姿が。

「え…!葉子ちゃん……。」

  光は強くなり、葉子の姿は消えてしまった。

「消えた…。葉子ちゃん…、僕は……。」

  正彦の頭は更に混乱していた。ユウコは葉子で、未来から来て、死神に死を告げられ死んでしまう。そして、生きろと言ってくれて、目の前で消えてしまった。

「僕は…、どうすればいいの……?」

  その場に崩れ落ちる正彦。空は青く澄み切っていた。





  現在……。

  目の前の正彦は消え、見慣れた病室が目に入る。先程まで無かった蝉の鳴き声が響き渡る。

「戻ったのね……。」

  周りを見るとソードの姿がない。

「ソードさん?」

  頭に声が響く。

(葉子さん、すいません。力不足で……。)

「いいの。伝えたいことは全て伝えたもの…。十分過ぎるわ。」

(よかったです……。)

「ソードさん?どこ?ちゃんとお礼が言いたいわ。」

(すいません、力を使いすぎて…。今日はこれで……。)

「ソードさん…?ありがとう、本当にありがとう。」

  ソードの声はもう聞こえなかった。

「ソードさん…?もういないのかしら…。また、明日お礼をちゃんと言わなきゃ。正彦君は納得してくれたかしら。」

  蝉の声だけが変わらず泣き続けていた……。





  天界の一室、スレイブが険しい顔で椅子に腰掛けている。気配に気づき、外へ走り出た。そこには力を使い果たしたソードが禁書を持ち倒れていた。

「ソード…!」

  スレイブはソードを抱きかかえた。

「すいません…、せん…ぱい…。ちから…使いすぎ…ましたか?」

  ソードの身体は薄く透けていて、身体もボロボロで顔もまるで絵の具が剥がれた様になっていた。

「やはり、止めておくべきでした…。」

「それでは…、後悔が…。」

「わかりました、もう喋らないで。」

  ソードが話す度身体が崩れ落ちる。崩れ落ちた顔の奥から別の顔が覗いて見えた。

「これを…、すいません…でした…。」

  禁書をスレイブに差し出した。身体はますます崩れ落ちた。

「気づき…ました…。彼は…わた…しの…。」

「もう喋らないで。」

  ソードは微笑み。

「葉子…さんを、おね…がい…し……。」

  ソードは燃え尽きる様に崩れていった。その瞬間、ソードの顔は全くの別人になっていた。優しく穏やかな顔だった。死神は消える瞬間、前世の姿に戻ると言う。

  崩れ落ちたソードの身体は灰になった。金色の灰に…。

  そして、その灰すらもすぐに消えてしまった。残ったのは手にしていた禁書だけ…。

「ソード…。全て私の責任です…。」

  いくら考えてももう遅かった。ソードの最後の言葉。桜庭葉子の最後を見届ける、それがソードへせめてもの手向けだとスレイブは思った。スレイブはポケットから手帳を取り出した。

「桜庭葉子の死亡日は…7月20日…。」

つづく

つづきはこちら。


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