テストステロンはヒトを攻撃的にするのか?
社会的地位仮説から考えるテストステロンの役割
一般的に男性は女性よりも攻撃的だとされています。
そして、その原因はテストステロンにあるというのが今までの見方です。
なぜなら、テストステロンは男性ホルモンの1種で、男らしさを形作っていると考えられているからです。
しかし、これには1つ問題があります。
確かに、囚人のテストステロン値は一般よりも高いですが、社会的に成功している経営者などもテストステロン値は高いのです。
これにより、別の仮説が提唱されてきました。
それは、社会的地位仮説(テストステロンは社会的地位を高める為に作用する)です。
つまり、経営者などはテストステロンにより社会的地位を求めることになりますが、囚人などは社会的地位を求める方法が法律にそぐわなかったというわけです。
この仮説を裏付ける研究としては最後通牒ゲームを用いたものがあります。
最後通牒ゲームとは経済学や心理学の研究で多く用いられています。
バリエーションはさまざまですが、基本的なルール以下になります。
1. 被験者(A)はある金額(例えば1万円)を受け取ります。
2. その後、相手(B)にいくら分配するかを決めます。
3. 相手(B)はその分配に不満がなければ、両方お金を受け取れますが、不満があれば、被験者(A)も相手(B)もお金を受け取れません。
このゲームでは交渉の余地がなく、一般的には2回以上ゲームは繰り返されない為、被験者(A)がどれだけ利他的なのかを測ることができます。
一般的な予測からいくと、テストステロン値が高い人は自分にとって有利な分配を取ろうとします。
しかし、ある実験では、テストステロンを投与された人は偽薬(プラシーボ)を投与された人より利他的な分配をしようとします。
これは、ゲームにおいて分配を任されているという高い地位を維持したいが為に公平な振る舞いをしようという動機の現れだと考えられています。
参考文献;
Batrinos, M. L. (2012). Testosterone and aggressive behavior in man. International Journal of Endocrinology & Metabolism, 10(3), 563–568. doi: 10.5812/ijem.3661
Sherman, G. D., Lerner, J. S., Josephs, R. A., Renshon, J., & Gross, J. J. (2016). The interaction of testosterone and cortisol is associated with attained status in male executives. Journal of Personality and Social Psychology, 110(6), 921–929.doi: 10.1037/pspp0000063
Eisenegger C, Naef M, Snozzi R, Heinrichs M, Fehr E. Prejudice and truth about the effect of testosterone on human bargaining behaviour.Nature. 2010;463(7279):356–359. doi:10.1038/nature08711