日本進化心理学IHAセンター

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進化心理学(Evolutionary Psychology)の研究・広報活動を行なっている研究所(法人)です。記事の作成日は実際とは異なることがあります。WEBサイト(https://www.jihacep.com/all)には更新も含め900本以上の記事があります。

最近の記事

身近な人の死が未来を縮める

身近な人との死別と将来の捉え方 私たちの考え方は意外と多くのことに左右されます。 そう聞くと、「意思」って何だろう?とか「心」って何だろう?と思う方もいるかもしれませんが、環境の中で私たちが生きていると考えると、不思議なことではありません。 生物は環境の中を生きていかなければいけないので、環境を無視して行動することは無意味なのです。 例えば、洋服を買う時も、夏はTシャツ、冬はセーターというように私たちは環境に応じて「買いたい!」と思う商品が変化します。 年中セーター

    • 誰が寄付をしてもらえるのか?

      経済ゲーム上での寄付行為 チャリティー番組などで莫大な金額が寄付されたことを知ると、日本には大勢の親切な人がいるんだなぁと思うわけですが、これはとても不思議な話です。 なぜなら、「寄付」という行為はある時点での自分の資源を消費してしまうからです。 しかし、進化心理学は「なぜ人は寄付をするのか」について興味深い理論を提唱しています。 それは、経済ゲーム上では、寄付を多くした人ほど多く寄付してもらえるということです。 これは、従来、もしくは一般的な考え方と大きく異なるも

      • 政治的信条は遺伝する!?

        政治的信条の遺伝性 子育てで一番大変と言っても過言でもないかもしれない時期は反抗期ではないでしょうか? 反抗期になると、親の意見全てに歯向かう子どもに四苦八苦するという話がよくあります。 そんな時、子どもは「自分の考えは親とは違う」とか「自分は自分の道を生きている」と思うこともありますが、その考え方には生物学的に重要なポイントが抜けているような気がします。 それは、自分の考え方や生き方に多分に影響するのは親から受け継いだ「遺伝子」だということです。 例えば、多くの研

        • ユッカ vs. ユッカガ

          相利共生、裏切り、そして対抗戦略 植物と昆虫の関係を観察すると、進化がどのように「裏切り行動」に対抗してきたのかがわかります。 例えば、ユッカという植物とユッカガという蛾は相利共生の関係にあります。 相利共生とはお互いが助け合って生きているというような状況を指します。 具体的には、ユッカはユッカガに受粉してもらい、ユッカガはユッカに卵を産み付け、幼虫はユッカの種子を食べることにより成虫になっていきます。 しかし、生存競争が激しい自然界では「裏切り」が必ずと言っていい

        身近な人の死が未来を縮める

          罰があるから協力する!?

          罰と協力行動の関係 心理学系・経済学系の研究者が人間の心理・行動を分析する際に好んで用いる実験の1つに「公共財ゲーム」があります。 研究内容によってルールにはバリエーションがあるのですが、基本的なルールは以下のものになります。 複数人の参加者が一定の所持金を持っている 参加者は所持金から一定の金額を「公共財」として投入する 「公共財」から一定の金額が参加者に平等に分配される 例えば、4人の参加者(所持金は200円)で公共財ゲーム(投入額の40%が配当される)を行い

          罰があるから協力する!?

          好戦的な男性とは?

          肉体の強さと好戦的かどうかの関連 好戦的な男性とはどんな男性なのか、進化心理学の観点から予測してみましょう。 まず、進化心理学的には個人は最大限利己的な存在です。 つまり、"正しいこと"とか"正義"の為に決断を下しているのではなく、自分が得をするような行動を取るということです。 それを踏まえた上で、好戦的な男性とはどういった特徴を持つのでしょうか? 肉体的な強さという要素を考えると、肉体的に強い男性と肉体的に弱い男性のどちらがより好戦的なのでしょうか? 以下に2つ

          収入が増加しても幸せになれない理由

          幸福度と所得順位の関係 お金と幸福度の関係について考えたことがある方は、収入が増えると幸福度も上昇するという意見を聞いたことがあるかもしれません。 しかし、進化心理学的にはこの説明は不十分です。 進化心理学的には、私たちが収入を気にするのは、高い収入を持つことが異性によって配偶者として選ばれることに繋がるからと言えます。 つまり、他者より稼いでいるかどうかが重要ということです。 2010年に発表された論文でも、幸福度の上昇に必要なのは収入の増加ではなく、所得順位の上

          収入が増加しても幸せになれない理由

          贅沢をする理由

          総支出と贅沢品への支出の関連 現代社会では非常に多くの物が安く手に入るようになりました。 一方、同じような機能を備えているにも関わらず、とんでもないような値段をする物もあります。 例えば、時計は安いものでは100円程度で買えますが、高級時計となると数百万円、物によっては数千万円することもあります。 これは、なぜでしょうか? 時間を正確に知るという目的のためであれば、100円の時計で済むはずです。 仮に時給を1000円とするのなら、6分働けば100円の時計は買うこと

          親が離婚すると損するのは息子?娘?

          トリヴァース・ウィラード仮説から考える離婚家庭の影響 裕福な家庭は男の子を産み、貧しい家庭は娘を産むではトリヴァース・ウィラード仮説について紹介しました。 進化心理学の代表的な仮説の1つでもあるこの仮説は、親が資源豊富な時には息子に多く投資し、親が資源不足の時には娘に多く投資したほうが結果的に残せる遺伝子は多くなると主張します。 事実、父親の社会経済的地位(socioeconomic status)と子どもの教育年数を比べると、社会経済的地位が低い父親の場合は娘の方が教

          親が離婚すると損するのは息子?娘?

          誰が性的に奔放な女性に反対するのか?

          性的に奔放な女性に対する男性と女性の異なる反応 男性と女性は異なる戦略を用いて異性を惹きつけることは周知の事実だと思いますが、問題なのは男性同士、女性同士でも取りえる戦略が異なることです。 例えば、女性は異性を惹きつける為に性的に奔放な戦略を取るか、そうでない戦略を取るかに分かれます。 性的に奔放な女性は質の良い悪いに関わらず、多くの男性を手に入れることができます。 性的に奔放でない女性は少数の質の良い男性を手に入れることに価値を見出します。 どちらも、進化的には意

          誰が性的に奔放な女性に反対するのか?

          出産可能年齢と寿命

          他の霊長類とは違うおばあちゃんという存在 正月やお盆の時期になると、おじいちゃんやおばあちゃんは久々に実家に帰ってくる子どもや孫と楽しい時間を過ごすのを楽しみにしているのではないでしょうか? こういった光景が当たり前だと思う私たちは重要な事実を見落としがちです。 それは、"おばあちゃん"は自然界には存在しないのです。 実は、霊長類のメスの寿命を比較すると、興味深いことがわかります。 それは、種によってメスの寿命に違いはあれど、ヒト以外の霊長類では出産ができなくなる年

          親の犯罪と子どもの犯罪

          実の親の犯罪歴と養子に出された子どもの犯罪歴の関連性 ヒトの心や考え方の発達を考える際には遺伝と環境の両面から分析する必要があります。 しかし、実際には遺伝子が私たちの行動にどう影響しているのかを想像するのはとても難しいです。 そこで、養子に出された子どもに関する調査から犯罪の遺伝性について考えてみましょう。 1984年に養子に出された子どもに関して行われた調査では、いくつかの興味深い知見が得られています。 実の親も育ての親も犯罪歴が無い場合、養子に出された息子のう

          親の犯罪と子どもの犯罪

          遺伝の増加する影響

          認知能力と遺伝の関係 学問は時として世間一般の常識が誤りであることを教えてくれます。 行動遺伝学が明らかにしてきたのは、まさに世間の常識とはかけ離れた耳を塞ぎたくなるような事実でした。 ここで質問なのですが、遺伝子の影響力は年をとるごとに増すのでしょうか?それとも、加齢と共に環境の影響が強くなるのでしょうか? 普通に考えると、成長するにつれて個人は特別な体験をするわけですから、環境の影響が強くなるように感じます。 しかし行動遺伝学の研究によると、どうやら遺伝子の影響

          痛みを感じない

          感覚と寿命 先天性無痛無汗症という病気を皆さんは知っていますか? その名の通り、痛みを感じず、汗をかかないというような特徴を持つ遺伝性疾患です。 ある漫画に痛みを感じない男性が登場し、その男性はとても喧嘩が強いというような話がありましたが、現実の世界では痛みを感じないことはプラスの要素だとは言えません。 そもそも、痛みを感じるということは体が危険信号を発しているということでもあります。 料理をしている時に誤って包丁で指を切ってしまっても、「痛い」と思うから手を引っ込

          争いは繁殖期に...

          アカゲザルの負傷・死亡と季節の関係 体育の授業中など男性はスポーツの勝敗にとてもこだわります。 進化心理学者に「なぜ男性は勝ち負け気にするのか」を尋ねると、同じような回答が返ってくるでしょう。 それは、「繁殖のため」です。 つまり、モテる為に同性同士は争うのです(男性同士だけでなく、女性同士も争います)。 これは、アカゲザルがいつ負傷し、死亡するのかを調べた研究からも明らかです。 アカゲザルは繁殖期に最も負傷し、死亡することがわかりました。 繁殖の機会を手に入れ

          自己犠牲?

          ベルディングジリスの警戒音 北米に生息するベルディングジリス(リスの一種)は捕食者が接近した時に警戒音を発して仲間に危険を知らせます。 これはなぜ起こるのでしょうか? 仲間を助ける為という、いわゆる自己犠牲でしょうか? しかし、進化心理学的には自己犠牲をする個体は遺伝子を残せる可能性が減少しますので、淘汰されてしまいます。 実は、ベルディングジリスはメスの方がオスよりも警戒音を発することが調査により分かっています。 さらに、オスは群れを形成せず放浪しており、メスは