地獄にある極楽、50年以上続く「温室」にまつわる3つの心温まる物語
最近は少しずつ(ほんとに少しですが)、お客様が増えたような気がします。特に若い世代のグループやカップルが多く、楽しそうに園内を歩いているのをみると微笑ましく思います。今なら海地獄にある足湯もほぼ貸切状態で使えるのでおすすめですよ(笑)。感染症対策もしっかりと守って頂いているので感謝ですね。オンラインでは感じられない、現地だからこそ触れることのできる温かい価値を、このnoteでも発信し続けていきます。
さて、海地獄は地獄以外にも様々なコンテンツがあるのですが、その中でも今回は「温室」について深く紹介したいと思います。実はこの温室には、様々な人たちがそれぞれの想いを持って寄り添う物語があるのです。
なぜ海地獄に温室が?
海地獄の中に温室ができたのは、かれこれ50年以上前のお話になります。先々代の祖母の頃ですね。当時、別府には遊覧施設としての地獄が10以上運営されており、それぞれのオーナーはお客様が楽しんで頂くために様々な趣向を凝らしていました。例えば鬼山地獄では温泉でワニを飼育していたり、血の池地獄では地獄染めが体験できたり、各地獄で別府絞りや竹細工といった別府の名産品が売られてたり、施設として娯楽の部分を追求していった訳です。
では海地獄はどうかというと、「自然美豊かな一大遊園地」をテーマに自然庭園と遊歩道を整備していったそうです。各地獄の中で最も広大な敷地面積を活かし、園内にお土産屋であったり団体のお客様でも利用できる大型のレストランであったり施設を整備すると同時に、最も大切な庭園美の方も創意工夫を重ねていきました。祖母の代に尽力していた鹿児島出身のスタッフの進言で南国の植物を取り入れようという話になり、園内の各所にヤシの木などを植えていったのですが、その過程でキラーコンテンツとして鬼蓮と睡蓮を栽培しようという話になりました。その頃、地獄に似つかわしくない美しさは極楽だと謳っていたため、極楽を想起できる植物である蓮に目を付けたようです。ただ、鬼蓮や睡蓮は熱帯性の植物なので、年間を通じて栽培するための施設を整備する必要がありました。それが温室なのです。地獄から噴気をひっぱってきて室内を温めている、自家発熱のエコロジーな温室となりました。増改築や場所を移したりしつつも、50年以上そこで植物を栽培し、今もなお続いているのです。
鬼蓮乗りは子供の育成記録
温室にまつわる一つ目の物語は、子どもの成長を紡ぐ鬼蓮乗りのお話です。鬼蓮(オニバス)はスイレン科の一年生植物で、海地獄では大鬼蓮と呼び、最も大きく成長した時は(直径2m近く)小さい子供を乗せられるほどの浮遊力があります。
この写真、乗ってる方は結構大人に近いですよね。昭和の頃なのですが、当時はこんなに蓮が大きかったんだと驚愕します。いつかこのサイズの大鬼蓮を育てようとスタッフと試行錯誤している所です。
鬼蓮は一年の内に枯死してしまう一年生植物なので、毎年大きく葉が育つまでスタッフが丁寧に育てていきます。11月頃に成熟した鬼蓮から種を採取し、芽出しをして葉が育つまで、容器を入れ替えて最終的には園内に移し、大鬼蓮をお客様に楽しんで頂くのです。6月頃からご覧頂くことができ、7~8月が見ごろとなります。前年に咲いてた鬼蓮の種が今年の鬼蓮になってるというのが僕は好きで、となると今の鬼蓮は初代からしたら第何代の孫になるのだろうとロマンを感じます。千壽家よりも歴史ある家系ですね(笑)
ちなみに小さい子供を載せられるほどと記載しましたが、実際に子供達を対象に海地獄の大鬼蓮に乗る体験をするイベントを毎年実施しております。これは海地獄が実施している最も古い伝統的なイベントで、毎年いらっしゃる地元の方もいます。子供が乗れなくなるまで写真をとりたいと、乗れなくなったらそこまで成長したんだなと(約20キロ位までは乗ることができます)、記録を続けてたお客様もいて、とても嬉しい気持ちになりました。
実はそんな僕も小さい頃は大鬼蓮に乗っていました。今となっては3~4枚が必要ですが・・・。鬼蓮乗りは千壽家の伝統でもありますね、いつか息子の育成記録として写真に残していきたいです。
海地獄の庭園を管理する職人達
温室にまつわる二つ目の物語は、園内の植物を育てる職人たちのお話です。温室での植物の栽培の他、園内全体の清掃や剪定といった庭園管理は海地獄のスタッフが担っております。全員が園内のことを熟知しており、先輩から後輩へその業を代々受け継いでいるプロフェッショナルな人たちです。リクルートの際は特段の専門技術は要しないのですが、海地獄の庭園をより綺麗に魅せようという心意気をもっていたら必然と技術もついてくるのです。日頃も園内の各所で作業しているので皆さんが海地獄にいらっしゃった際は、植物のことなら何なりとお声がけしてください。ちなみに、別府出身のフォトグラファーである東京神父さんが、ご自身の写真作品をまとめたサイト「別府温泉ルートハチハチ」でうちの庭園管理スタッフにスポットをあてた記事を掲載頂きました。とても素敵なので紹介しますね。
鬼蓮の栽培は1年かけて丁寧な作業が求められ、代々スタッフ間で受け継がれていきます。ちなみに、現在担っているのは記事でも紹介されている松田くん、20代のホープです。植物自体も継承され、その担い手も代々受け継がれていく、そんな濃密な物語が詰まってる温室ということで、また違った見方をしてくれたら嬉しいです。ちなみに庭園管理のスタッフは、去年から海地獄に新たなスポットをと企画し、自分達だけでバラ園を作りました。自発的にやってくれたことが僕にとっては何よりムネアツなのです。バラ栽培はなかなか奥が深いのですが、これから温かくなるにつれて少しずつ花開いていくと思いますのでお越しの際は注目してみてください。
温室ファンにインタビュー
3つ目の物語は、お恥ずかしいのですが私と妻にまつわる話です。妻は僕よりも熱量をもって温室に接する人で、海地獄のことは知らなかったけれど温室のことを知り「ここってどこにあるのだろう。海地獄ってところにあるんだ!」と、わざわざ海地獄まで訪れたみたいです。実はこの時の訪問が結果的に僕との出会いにも繋がり最終的には結婚まで進んだ訳で、いわば温室婚ということになるのです(笑)
最後に、温室ファンである妻にその魅力についてインタビューしてみようと思います。※読みやすいように丁寧語調で記載しております。
僕:そもそもなんで温室に注目し始めたのですか?
妻:写真好きで自分もフィルムカメラで撮影したりするのですが、レトロな 建造物やノスタルジックな雰囲気のものを撮るのが好きだったんです。以前、井の頭動物園の中に廃墟みたいな温室があって、それがとても素敵だったので、そこから古い温室に興味をもつようになりました。
僕:海地獄の温室を知ることになったきっかけは何ですか?
妻:当時使ってたTumblr(タンブラー)というSNSで、私が好きでフォローしてたsleepyberrysさんというイラストレーターの方が、海地獄の温室の画像を投稿したんです。それがまた素敵で、思わず「ここはどこですか?」という旨のメッセージを送りました。まだ一度もお話したことないのに(笑)。それで、海地獄という所にある温室だよと丁寧に教えてくれたのです。
僕:なるほど。たしかその時はまだ海地獄のことは知らなかったのですよね。温室きっかけで海地獄を知ることになった人も珍しいので僕も印象的でした。
妻:それで初めて海地獄の温室に訪れたのが2014年1月で、偶然その時は温室の中に誰もおらず、時間がゆるやかに流れてる感じと静けさと温かさと、その場の居心地の良さに感動して1時間ほど滞在してしまいました。結果的にその年は3回ほど訪問してます。
僕:海地獄の温室にそこまで感動した人に初めて会ったので嬉しいのですが驚きました(笑)。そして結果として僕と出会うことになるのですよね
妻:まあ結果的にそうですね。
僕:そこまで魅了する海地獄の温室の魅力はどこですか?
妻:海地獄の温室は真ん中に大きなプールがあり、そこに鬼蓮や睡蓮が栽培されていて、それをまた囲むような形で様々な植物が置かれているのですが、そのプールが良い要素になってるんですよね。私は写真が好きなので、植物が水面に映ってたりするのがとても素敵で、色々な角度から撮りたくなります。もちろん、初めて訪れた時に感じた温もりや静けさも大好きです。
僕:実は今の温室は、2017年に建て替えたのです。新しくなってからはどうですか?
妻:構造は全く一緒なので、もちろん変わらず好きです。ただ私はレトロなものが好きで、昔の温室の古びた鉢とかも素敵だなと思ってたので(笑)、これからどんどん年季が入ってシブくなっていく温室にもとても期待しています。
と、このような形で、少しは温室の魅力が伝わったでしょうか(笑)ちなみに海地獄公式のインスタグラムは妻が撮影して更新しており、僕が言うのも何ですが結構素敵な感じなのです。
現在は8カ月の息子の育児が忙しく創作活動はできませんが、落ち着いたらまた再開しますのでご期待ください。
いつもは地獄のサブコンテンツとして寄り添う温室ですが、実はここにも心のこもった物語が紡がれています。是非皆さんも、海地獄の温室にぬくもりを感じにきてくださいね。