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11/17 ニュースなスペイン語 Rebaja de condenas:減刑

昨日からずっと気になっていた事案である。

マドリード地裁(Tribunal Provincional de Madrid)は、今年8月に施行された通称「ハイはハイだけ(ley del 'solo sí es sí')」法を適用し、2件の減刑を執行したと発表した。

正式名称は「性的自由を保証する基本法(Ley Orgánica de garantía de la libertad sexual)」という(以下、「基本法」と略記する)。5月27日の記事で下院で承認された時の様子をまとめてある。

さて、減刑は2件だけにとどまらず、マドリード地裁だけで、18件にも及ぶ可能性があり、専門家によれば、今後、「判決見直しのなだれ(aluvión de revisión)」が起こるかもしれないという。

なお、バレアレス諸島州では、収監されていた性犯罪の被告2名が、減刑の結果、すでに釈放された(excarcelados)という。

性犯罪の犠牲者を無くし、救済するために制定されたはずの基本法が、なぜ、被告に有利な減刑をもたらす結果になったのか。

小生は法学家ではないので、いろいろ、グーグル氏に教えを乞うてきたものの、どうも判然としなかった。

が、16日付けのスペイン国営放送(RTVE)に素人にも分かりやすい検証記事が出ていたので、これを参考に問題点をまとめておこう。

どうやら大きな問題はふたつ。

① この基本法が「傷害(agresión)」と「性犯罪(abuso sexual)」の区別をなくし、量刑の幅(horquilla de las condenas)を従来のものより広げた。
② 本法が過去の判決に及ぶこと(=遡及性(retroactividad)について何も規定していない。

基本法を制定した政府関係者たちは「問題は法律にあるわけではない(La ley no es problema)」し、むしろ、この法律を「男性優位的に解釈(la interpretación machista)」した裁判所の方こそが問題だとしている。

が、今回の記事を見る限りは、大方の専門家たちは、こうした事態は「予見されていた(era esperable)」との見解を示していることから、法律の設計に「間違い(un error)」や「落とし穴(laguna)」があったのかもしれない。

まず①について。ミソは同法の178条(artículo 178)にある。この条項は性犯罪と傷害罪の区別を撤廃し、より広い性被害を救済するためのもの。

だから、従来は傷害罪の成立には暴力(violencia)や脅迫(intimidación)が必須だったが、こうした条件も取り除き、多く事案を傷害罪として立件できるような法設計にすることを目指していた。

しかし、この時、懲役刑(pena de cárcel)を従来の6年~12年から4年~12年に広げた。

コレガマズカッタ・・・・。

なぜなら、専門家によると、「もし裁判官に量刑を選ぶ余地があるなら、一般的には、より軽い方を選ぶ傾向にある(Y cuando a un juez le das a elegir, normalmente se inclina por uno de los tramos inferiores)」からだ。

続いて、②について。刑法(Código Penal)の第2条には、次のような規定があるという:

被告に有利な懲戒に関わる法律は遡及効果を有する(Tendrán efecto retroactivo aquellas leyes penales que favorezcan al reo)

コレモマズカッタ・・・。

つまり、基本法が過去に出た判決に適用する「遡及」を禁じない限り(まぁ、そもそも、そういうことができるかどうかは分からないが)、自動的に、すべての判決に同法が適用されてしまう。

また、①に戻って、量刑の幅を広げたことについては、専門家によっても意見が割れる。合理的(razonable)で均整がとれている(proporcional)と好意的に取る専門家がいる。

反対に、性犯罪に関しては、より重い刑(condenas mayores)を課すべきと考える専門家もいる。

量刑変更について「私たち(専門家)には何の説明もなったのに(no nos han explicado nada)」との嘆き節が法曹界から聞こえてくる。

幸運と思う人がたくさんいる。この法律は全ての被告が自分の量刑の見直しを求めるための抜け穴になる(Hay muchas personas a las que les ha venido al pelo, es un coladero para que todos los violadores pidan revisión de sus penas)ーー。こんな見解を示す専門家がいる。

実は、政府内にも、基本法を注意深く検討する(estudiar con detenimiento la norma)ことを求める大臣(マリア・ヘスス・モンテロ(María Jesús Montero))もいる。

だから、「恐らく、社会的な反響の大きさから法律改正もあり得る(Y probablemente la repercusión social que van a tener hará que se cambie la ley)」という専門家の予想が的中するかもしれない。

改正が先か、なだれが先か……。

写真は平等大臣(Ministra de Igualdad)のイレネ・モンテロ(Irene Montero)。基本法の立案から審議に関わってきた、いわば、本法の全責任を負う人物。これから忙しくなりそうだ。

出典
https://www.rtve.es/noticias/20221116/rebaja-penas-solo-si-si-analisis/2409172.shtml