見出し画像

4/26 ニュースなスペイン語 Giro de guión:どんでん返し

Giro de guiónは「シナリオをひっくり返すこと」が直訳で、よく映画などの論評で使われる語だ。「最高の番狂わせが用意されている映画(una película con los mejores giros de guión)」のような使われ方もする。

今回の「giro de guión」は、来月に控えたマドリード州知事選挙という文脈で使われているものだが、具体的には左派(izquierda)陣営に、ある種の選挙戦略の方針転換が見え始めたことを意味する。スペイン国営放送(RTVE)の4月24日付の記事で使われた表現だ。

ここでいう左派陣営とは「スペイン社会労働党(PSOE)」、「マス・マドリード党(Más Madrid)」、「ポデモス党(Podemos)」の各党を指す。方針転換のきっかけとなったのは主にふたつの事件だ。4月24日の記事で触れたが、追加情報などをまとめておこう。

①【脅迫事件】4月23日、ポデモス党党首であり、知事選候補でもあるパブロ・イグレシアス(Pablo Iglesias)と他のふたりの官僚の元に、薬莢(cartucho)の入った脅迫文が送られたという事件があった。差出人不明で、消印(matasellos)は19日。イグレシアスの元には4発の薬莢と、「お前の妻と両親には死刑宣告だ。お前に残された時間はもうない(Tu mujer, tus padres y tú estáis sentenciados a la pena capita. Tu tiempo se agota.)」などと書かれた手紙が同封されていた。

②【テレビ討論会での暴言】23日にカデナ・セール(Cadena SER)が企画したテレビ討論会(debate)に先立って行われたインタビューで、ボックス党(Vox)からの候補者ロシオ・モナステリオ(Rocio Monaterio)は①の脅迫事件を疑問視(poner en cuestión)、つまり、捏造呼ばわりしたこともあり、イグレシアスとモナステリオとの緊張は討論会前からマックスに達していた。そこに、討論会中のモナステリオの容赦ない挑発が起き、これに切れたイグレシアスが討論会の場を去ってゆくというハプニングが起きた(詳しくは4月24日の記事を参照)。

左派陣営はこれまで内輪もめ(luchas intestinas)を繰り返してきたが、①と②がきっかけとなり、一気に団結した。共通の敵を持つと組織はまとまる。左派陣営は口々に「民主主義(democracia)」を叫び、ボックス党を「ヘイト(odio)」と「極右(ultraderecha)」と位置づけた。「内輪もめ」から「対・極右戦線」へと舵を切った。

一時期、ボックス党との蜜月ぶりを隠さなかった国民党は今回のいざこざをどう見るか。党首のパブロ・カサド(Pablo Casado)は②の討論会の翌日、早くも「スケールの小さい、近視眼的な、低俗な政治討論(disputas pequeñas, miopes, de baja política)」から距離を置くことを匂わせた。そして、「我々には石も銃弾も要らない。我々には脅しもあざけりも要らない。我々が望むのは調和であり、未来に希望を見ることのできる、モノトーンではない、色のあるスペインだ(No queremos piedras ni balas. Ni amenazas ni insultos. Queremos concordia, una España en color, no en blanco y negro, que mira con esperanza al futuro)」と述べた。

23日に社会動向調査センター(CIS)が発表した世論調査によると、国民党の支持率が他党を引き離しトップを保っている上に、同党の候補イサベル・ディアス・アジューソ(Isabel Díaz Ayuso)も高い支持率を集めている。こうしたリードからか、国民党の発信するメッセージにはどこか余裕を感じる。

国民党はこのまま他党を引き離し、知事の座を再び手に入れるのか。それとも、ボックス党が足を引っ張り国民党が失速している隙を見て、左派連合が知事の座を奪還するのか。投開票まで、あと1週間。目を離せない戦いが続く。

写真はEl País紙(4.23.)より。写真はパブロ・イグレシアスの元に送られてきた脅迫状と実弾4発。