見出し画像

NPO法人自治経営関東甲信越アライアンス勉強会ツアーレポート~静岡県熱海市編~

6月25日土曜日、30度を超える暑さの中、NPO法人自治経営関東甲信越アライアンスが主催する勉強会ツアーが開催されました。今回のツアーの舞台は、言わずと知れた温泉地・静岡県熱海市です。ツアーの様子について、関東甲信越アライアンス所属の川津(栃木県庁)がレポートします。

・はじめに


陽射しが降り注ぐ13時、熱海市の中心部・熱海銀座にある「CLUB HUBlic」へ総勢20名程の参加者が集いました。会場となった「CLUB HUBlic」は、熱海で働く人々が集い、学び合い、交わり合う場として、2021年にオープンしました。現在は、「会員制ワークスペース事業」、「スクール事業」、「会員向け経営者コーチング、バックオフィスサポート事業」の3事業を軸に運営されています。

会場となった「CLUB HUBlic」にて


さて、本日のツアーをアテンドいただいたのは、熱海市の南熱海・網代地区のまちづくりに取り組んでいる「あじろ家守舎」の山﨑明洋さん、中屋香織さん、熱海市役所の長谷川智志さん、小林久紀さん、そして、「熱海の奇跡」の著者で熱海銀座のリノベーションまちづくりをリードしている市来広一郎さんの皆さんです。

まず、山﨑さんからツアーの日程についてご案内いただいた後、市来さんより、これまでの取り組みを通じて起こった熱海の変化についてレクチャーいただきました。

・「寂れた観光地」から「熱海の奇跡」へ


温泉地としての熱海の歴史は古く、その起源は奈良時代までさかのぼります。その後、時代の変化とともに訪れる観光客も増加し、特に戦後になると、大型の観光ホテルや企業の保養所が多数建てられ、市内は大変な活気に包まれました。しかし、バブル崩壊と旅行スタイルの変化によって、宿泊客はピーク時から半減してしまいます。

さらに、市来さんへショックを与えたのが、「熱海には何もない」という言葉を、地元の人たちも口にしていたことでした。世界各国を旅したことで、「いい街には、いい人がいる」ことを実感していた市来さん。地元の人々が、自分たちの街にネガティブなイメージを抱いてしまっていては、熱海を再生することなどできない―。

そうした熱海の現状を目の当たりにした市来さんは、自らの手で熱海の再生に取り組むことを決意します。

市来さんより直接レクチャーいただきます


ミッションは、「100年後も豊かな暮らしができるまちをつくる」こと。

そのために、まずは地元の人たちの意識を変えるため、「地元の人が地元を知る」活動からスタートします。その中核となった事業が「オンたま」です。「オンたま」とは、地元の人々へ熱海の魅力を伝え、熱海のファンをつくるために、地域の方自らガイド役を務めるツアーを開催するイベントです。南熱海の海でのシーカヤック体験や農業体験、街中を歩きレトロな路地裏や喫茶店を巡るツアーなど、多種多様なイベントが開催されました。

この「オンたま」を通じて、新たな熱海ファンが生まれたのはもちろん、何よりも地元の人たちが、熱海の魅力を実感し、認識したことで、熱海に対するイメージが激変。ネガティブなものからポジティブなイメージへと変化したことで、観光客に対するホスピタリティの改善も図られ、熱海のイメージアップにつながる好循環が生まれたのです。

そして、「オンたま」での手応えを基に、より持続可能な仕組みで熱海の再生に取り組んでいくため、「エリアで稼ぐまちづくり=リノベーションまちづくり」へのチャレンジが始まります。

「リノベーションまちづくり」とは、そのエリアで使われていない遊休資産を活用し、その地域の歴史や文化、景観の価値を認知・再生しつつ、今までなかった新しい価値を加えることで、エリア全体の魅力を向上させるビジネスモデルです。市来さんたちは、熱海の中でも特に長い歴史を持つ繫華街「熱海銀座」をまちづくりのフィールドに選びます。


フィールドとなった熱海銀座


そのとき掲げたビジョンは、「クリエイティブな30代に選ばれる街」

街に新しい価値を加えるためには、新しいプレイヤー、若いプレイヤーがどんどん入り、新陳代謝を活発にしていくことが大切です。そのために、人々が集う結節点(サードプレイス)として、「CAFE RoCA」をオープン。なかなか成果が表れない日々が続きましたが、様々な仕掛けを根気強く継続していくと、ビジョンに共鳴した新たなプレイヤーによって、熱海銀座でビジネスをスタートさせる動きが相次いで生まれていきました。

現在は「CAFE RoCA」の後継としてシェア店舗「RoCA」が営業中
地元素材にこだわったジェラート店「LaDOPPIETTA」が入居しています


その後も、ゲストハウスの「MARUYA」コワーキングスペースの「naedoco」など、次々とエリアに新しい価値を加え、変化を促進していくために様々な事業が行われています。

ゲストハウスの「MARUYA」
コワーキングスペースの「naedoco」

・熱海銀座という風景


市来さんのお話の後、さっそく熱海銀座の通りに繰り出します。

ジェラート店のすぐ隣は老舗干物店


街の風景を眺めていて特に印象的だったのが、若者のグループや若い家族連れが訪れている客層の大きな割合を占めていたことです。温泉地の繫華街といえば、「浴衣を着た夫婦が2人でゆっくり歩いている」イメージだったので、これにはびっくりしました。さらに、行列のできるジェラート店の隣には、江戸時代から続く老舗干物店が営業していたり、少し裏路地に入るとレトロな喫茶店や劇場が現役で営業していたり・・・。新旧ごちゃまぜのはずなのに、不思議と違和感の感じない、ここでしか味わうことのできない「熱海銀座の空気」を味わうことができました。

90代のマスターが営む喫茶店「ボンネット」
50年以上の歴史を誇る「銀座劇場」

・未来を変えるのは「ちょっとしたはずみ」


次に、市来さんたちとともに、リノベーションまちづくりや創業支援に取り組んできた熱海市役所の長谷川さんより、「地域との接続・共創」をテーマにレクチャーいただきました。

熱海市役所の長谷川さんからレクチャーいただきます


市役所の産業振興室時代、「ATAMI2030会議」や「99℃ Startup Program for Atami 2030」などを通じて志ある多彩なプレイヤーの存在を知った長谷川さん。2030年ごろに世の中を牽引していくであろう今の子供たちへ街を引き継いでいくため、長谷川さんも行政の立場から行動を始めます。

とはいえ、役所の中で新しいことや斬新なアイデアを形にすることは、一筋縄ではいきません。そこで、市役所内外を問わず、まちの課題を解決したいと思っている仲間を見つけ、やりたいことを妄想し、自分たちで実行に移すこととしました。同時に、志ある民間のプレイヤーから何度も話を聴き、また、役所側の困りごともオープンにして、「机上の空論」でない、現実に即した計画や事業をつくるために奔走されます。

レクチャーの中で特に印象に残ったのは、「ちょっとしたはずみで、未来はどんどん変わる」という言葉。はじめは熱い想いを抱いていても、時の流れとともに熱が冷めたり、挫折したり、壁にぶつかったり・・・。想いをやり通すのは、簡単なことではないと思います。

「ちょっとしたはずみで、未来はどんどん変わる」


そんなとき、どんな未来をつくりたいのか、そのために何をするか、一旦立ち止まって考える。そして、一人では無力だとしても、同じ志を有する仲間とつながることで、少しずつ輪が広がり、未来を変える力を生み出せる。一歩踏み出そうか悩んでいる、特に、役所の中で悶々としている公務員にとって、背中を押してもらえる言葉ではないでしょうか。

・産声を上げた「あじろ家守舎」


レクチャーの最後に、「あじろ家守舎」の山﨑さんより、南熱海・網代地区でのまちづくりについてレクチャーいただきました。

「あじろ家守舎」の山﨑さんよりレクチャーいただきます


網代地区は、熱海市の中心部から南に10㎞ほど南に位置し、海や山がすぐ近くに広がり、豊富な湯量を誇る温泉も楽しまる自然豊かなエリアです。また、「網代」という名の通り、天然の良港として、古くから水産業も盛んでした。その一方で、少子高齢化が市内の他地域と比べても急速に進行しており、地区内にあった小学校も昨年3月に廃校となっています。

こうした状況を受け、あじろ家守舎では、①産業・事業の創出、②定住人口の増加、③関係人口の増加をミッションに据え、廃校となった小学校を活用して事業を展開できないか検討を進めています。

事業のフィールドとなる予定の旧網代小学校


まさに、今、これから産声を上げようとしているあじろ家守舎の事業。今回のツアー参加者には、すでにそれぞれの現場でまちづくりに参画し、実践している人も多く、事業へのアドバイスやエールを交えながら、密度の濃いディスカッションが展開されました。

・おわりに


今回のツアーでは、「変化し続けるまち・熱海」の一端を垣間見ることができました。様々なプレイヤーが、それぞれの立場で実践し、街に変化を与え、互いにつながって大きなうねりとなっていく。はじめの一歩は小さくても、「街の課題を見つめ、行動を起こす」ことこそ、まちづくりの醍醐味であるのだと再認識しました。

熱海は、これからもますます変化し続けることでしょう。熱海のまちづくりに少しでも興味があれば、ぜひ熱海を訪れて、自分の五感をフル活用しながら、変化の過程を目の当たりにしてみてはいかがでしょうか。

最後はお待ちかねの懇親会
熱海の豊かな幸をいただきました

最後に、今回のツアーをアテンドいただいた皆さまに、心からの感謝を込めてレポートの結びといたします。

Writer 川津光由
NPO法人自治経営関東甲信越アライアンス 会員
栃木県出身
栃木県県民生活部広報課 所属

NPO法人自治経営
〜ヒトづくりと地域事業から日本の自治を変える〜
https://www.jichikeiei.com/