『クリエイティブスクール』~サラリーマン量産型教育からの脱却~
下村瑞希
特定非営利活動法人自治経営 理事
仙台市 健康福祉局 心理職
都市経営プロフェッショナルスクール1期修了
私は、NPO法人自治経営の中で、日本に進化型(ティール)学校をつくるプロジェクト『クリエイティブスクール』を進めています。
NPO法人自治経営では、自分たちのアタマで考え、地域経営をするという本来の自治を目指しています。教育においても、今ある教育モデルが時代遅れになるような新しいモデルを自分たちで作っていきたいと考えています。その考えに至った背景をご紹介します。
1)ひきこもりの背景
私は、心理職という職務から、ひきこもりで困っている方のご家族に会う機会が多く、ご家族からよくよく話を伺うと、学校時代に不登校経験があり、そのままひきこもりになったという場合に遭遇することが多くあります。
平成27年度の内閣府による「若者と生活に関する調査」では、ひきこもりの方(「広義のひきこもり群」「ひきこもり親和群」を含む。定義について上記URLを参照のこと)のうち、「小中学校時代に不登校経験があった」と答えた人の割合は、48.6%と高い割合を示しており、私の現場で感じている感覚と合っている結果が示されていると思います。一度、ひきこもりになると長期化しやすく、問題も複雑化し、本人や家族が生き生きと生活を送ることができるようになるまでに時間がかかってしまいます。そのため、小中学校時代のときに何か手を打つことが必要だと考えます。
では、現状はどうでしょうか。不登校に対して、あまりにもネガティブな見方が強く、不登校になると「学校に行けなくなり、将来へと続くレールを踏み外した」と多くの人、そして不登校になった子を持つ親は最初に思うでしょう。しかし、学校に行かなくなったという事実は、ただ単に、現在、公的に提供されている教育サービスが合わなかったというだけに他ならないと考えます。逆に言うと、画一的な集団教育に異を唱えられるクリエイティブな存在とも言えるのではないでしょうか。そんなクリエイティブ思考を持つ、将来有望な人材に対して、そのクリエイティブ思考を伸ばす教育サービスがないことは、社会的にも機会損失していると言えます。
2)サラリーマン量産型の教育?!
今の日本の教育はどうか?!私が卒業した中学が発行している記念誌を目にする機会がありました。
「誰にでも優しくなれる人」
「何事にも一生懸命に取り組める人」
「何事にも熱心に努力できる人」
これは、その記念誌の中にあった「将来どんな大人になりたいか?」という質問に、子どもたちが一人ひとり答えているものです。ほとんどの子どもたちが口を揃えて、同じような内容を書いていることに正直驚いてしまいました。示し合わせたかのではないか?と思うほどです。「誰にでも優しく」「どんなことにも努力できる」・・・これは学級目標や学校の目標として掲げている学校も目にしますが、実際にそんなことができる大人になることはかなり至難の業ではないでしょうか。小学校一年生のときには、色々な夢を描いていたはずの子どもたちが、中学校を卒業する頃には、上記のように変わってしまうのです。
なぜ「誰にでも優しく何事にも一生懸命になれる人材」が学校では尊ばれるのでしょうか。それは、社会構造の変化も大きく影響していると考えます。
かつて農業や漁業などの第一次産業が盛んな時代は、社交性や人間関係よりも特殊なスキルがあれば、仕事をして稼いでいくことができました。しかし、第一次産業が衰退し、サービス産業を中心とした第三次産業の台頭によって、仕事の多くは社交性や人間関係、コミュニケーション能力が重視されるようになりました。
そのため、学校においても、他者とのコミュニケーションをスムーズに行える能力、しかもサラリーマン組織のピラミッド構造においてはみ出さないようなコミュニケーション能力が重視されていると考えます。集団の中で、できるだけたくさんの指示をこなす能力を身につけることができる教育が、現代の教育となっているのではないかと考えます。
多くの子どもたちは、言われたことをきちんとこなし、学校、部活、塾に通い、一律の課題をこなしていますが、こうした教育の中で育つ子どもたちは、自分自身のアタマを使って葛藤する場面も少なくなります。
自ら選択する機会も少なければ、何が大事なことなのかを考えることもなく周囲の大人がやってくれます。
そのため、自分で考え、自分で決めて、自分で決めたことに責任を持つという経験も極端に少なくなってしまいます。
ここで、ドイツのある学校の例について取り上げたいと思います。進化型(ティール)学校として、取り上げられている学校であり、自主経営力(セルフマネジメント力)を重視する学校です。
3)ドイツの進化型(ティール)学校:ESBZ
2018年に発行されたフレデリック・ラルー著作の「ティール組織」は、階層的なピラミッド型組織ではなく、新たな組織モデルである「進化型(ティール)」組織について、説明している名著です。この本の中で、ドイツのティール学校として「ESBZ」という学校が事例として取り上げられています。
フレデリック・ラルー「ティール組織-マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現-」(以下、「ティール組織」より参照)
「ESBZ」はベルリン市にある、7年生~12年生の学校である。同校は、2007年に開校し、開校当初は、ほとんどの子どもたちが、ほかの学校の入学を断られたか退学になった問題児ばかりであった。しかし、ある元理科教師の急進的な改革によって、開校からまだ数年しか経っていないにもかかわらず、生徒数は500名を超えて、「ESBZ」モデルを学ぼうと全国から専門家が殺到するほどの学校に生まれ変わった。「ESBZ」の教育理念は「子どもは一人一人が個性的な存在で、だれもがほかの人に貢献できる才能を持ち、全員が人として価値があり、評価され、必要とされている」というものである。この教育理念は、学校生活でどのように取り入れられているか。第一に、子どもたちは自分の学習について全責任を負い、何事も自分で学ぶか、互いに教え合っている。大人はたいてい助言者兼コーチであって、子どもたちを励まし、相談に乗る存在であり、学びの最終責任は間違いなく生徒側にある。また、生徒だけでなく、教師も保護者も自主経営(セルフマネジメント)の原則に基づいて行動しており、学校に修繕が必要な教室があるときは、保護者同士で校舎のリノベーションチームを組んで、自分たちで機能的な施設を作り上げている。
以上のように、自分で自分の学びたいことを考え、学びを追求することができる、そして教師はあくまで助言者という立場で子どもたちと対等にコミュニケーションと取る。子ども自身の人権も尊重された教育システムだと思います。
4)日本に進化型(ティール)学校をつくる:『クリエイティブスクール』
NPO法人自治経営では、自分たちのアタマで考え、地域経営をするという本来の自治を目指しています。
教育においても、今ある教育モデルが時代遅れになるような新しいモデルを自分たちで作り上げたいと考えています。
2019年9月に一日限りのスクールとして『クリエイティブスクール』を開催しました。これは、『セルフマネジメント力』と『稼ぐ力』を身につけることに主眼を置いて、仙台市内の花屋を経営するフローリストが先生となり、「お花×稼ぐ」という体験的な授業を実施しました。
スクールの詳しい内容については、「公民連携事業ケーススタディブック2019」にまとめているので、そちらをご覧いただきたいと思います。簡単にプログラム内容を説明すると、第一部は花の生産から、市場での取引、店での販売、花の原価、付加価値をつけて売ることなどについての授業を受けます。第二部は、ブーケ作りワークショップと販売体験です。
(「公民連携事業ケーススタディブック2019」ご購入はこちら)
今回お伝えしたいのは、このスクールに参加してくれたあるお子さんのことです。自閉症と診断されたそのお子さんは、自身の所属する中学校には通えず、不登校状態にありました。その子は、花や植物、薬草に興味があり、今回のクリエイティブスクールのチラシを見て、参加を決めてくれたようでした。クリエイティブスクールの授業中は、その子が自閉症かどうかは全く問題がなく、その子自身の個性や能力を発揮して、活躍し生き生きと参加している表情が印象的でした。
自分で興味のあることを積極的に先生に質問し、自分の作ったブーケを販売する際には、自ら販売隊長として率先して売っていたのです。なかなか作ったブーケが売れないときには、会議をしてどうすれば売れるかを考え、値下げに踏み切り、どのくらいまで値下げをすれば原価割れしないか、みんなで話し合いました。その日の売り上げは、参加した子どもたちで山分けし、一人3,000円ずつ手にすることができました。
自分自身が考え、それに基づいて行動する、それによって、認められ対価が得られる。また、失敗して、さらに自分で考えリカバリーする。その経験は子どもの自己肯定感を育むだけではなく、これからの人口縮退社会を生きる力になると考えます。
今後は、『クリエイティブスクール』の長期プログラムを企画しており、近々、第一期生募集を行う予定です。今ある学校モデルではない、新たな学校モデルを生み出していくために、今後も活動を続けていきます。
NPO法人自治経営HPはこちらです。ぜひご覧ください。
【プロフィール】
下村瑞希
特定非営利活動法人自治経営 理事
仙台市 健康福祉局 心理職
都市経営プロフェッショナルスクール1期修了
1986年青森県八戸市生まれ。福島大学人間発達文化学類修了。2010年仙台市役所に心理職として入庁。発達相談支援センター、宮城野区役所障害高齢課等を経て現職。 日々、うつ病や統合失調症など精神障害のあるご本人やご家族の生活支援に携わる。
2017年に仙台にて、清水義次氏の講演を聞いて、公民連携という手法やこれからの都市経営に必要な知識を知り、都市経営に大きなインパクトを与える福祉分野こそ、公民連携の手法を使った事業を展開していく必要があると感じ、仙台市の公民連携職員ネットワークである「公務員タスクフォース」に加入。2018年には都市経営プロフェッショナルスクールを修了。
プロスクールで学んだことを生かし、2019年9月には、公民連携事業の始めの一歩として、教育プログラム「Creative School」を開催。「花×稼ぐ」というコンテンツで、これからの時代に必要な力を学ぶ教育プログラムを実施した。
2019年12月、「公務員タスクフォース」の代表に就任。