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公民連携的な取組へのお誘い

大東公民連携まちづくり事業株式会社 代表取締役 入江智子

大阪府大東市のまちづくり会社、コーミンの入江です。市役所を辞めて大きな開発をしていますが、それだけが自治経営でも公民連携でも無いと思っています。もっと身近なところから、これちょっと待てよと自分で考え、決めるところからはじめてみませんか。

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市民、民間と一緒に公共サービスをつくる

公民連携で「公共サービスの質的充足を図る」とは、図の尖った部分をつくるイメージである。自治体はこれまで、各種団体要望などから集約した標準的な市民ニーズに合わせ、そこからさらに公正・公平のふるいにかけた「行政サービス」を提供して来た。平均的ではあるが、図のように個々のニーズに刺さるところまでいってはおらず、国の補助制度が無くなった途端、やめになるものも多かった。市民ニーズが多様化する(今までも多様ではあったのだが)現代〜未来は、人口規模に見合った基礎的なインフラやセーフティネットの部分は行政が整備し、個々のニーズに対しては、日頃からターゲットを絞りサービスを提供している民間企業や、そもそも市域に広く介在している市民自体と連携することでそれぞれに刺さる「公共サービス」をつくるのが良い。

人口減少時代に対応しているか

民間企業との連携は、プール授業の民営化で見てみると分かりやすい。小学校の屋外型プールの建設費用は1校あたり約1億5千万円、水道代など年数百万円の維持費もかかる。プールの授業が行われるのは夏の2カ月ほどであり、その間も雨天時や猛暑で水温が上がり過ぎた時は使用出来ず、災害時に避難所として活用出来る体育館などと違い多用途でもない。プールが老朽化した時点で建替えをせず、地域にあるスイミングスクールへの送迎を選択した場合はどうだろう。委託費用は内容や周辺マーケットにより変動する。命の危険を伴う水中での水泳指導は教師からプロの手に委ねられる。水泳が通年授業となることで子ども達の泳力も向上し、寒い冬もマラソンや縄跳びばかりさせられずに済む。プール整備という行政サービスを縮小した分、公民が連携することにより、質の高いプール授業という公共サービスを提供する、というこの試みは千葉県佐倉市で実際に行われている。とは言え、これまでの児童数では移送に労力がかかり過ぎ、無理であったに違いない。少子化でITの技術が進んでいる今だからこそ導入できる教育手法は他にもあるはずだ。授業がオンラインでも配信され発表も画面共有でとなれば、登校のハードルが高い子も授業に参加出来、録画されていることがいじめの減少や授業の質向上につながるのではないか。人口拡大時代のやり方から変わっていないものが学校現場に限らず周囲に溢れていることに気付いて欲しい。

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継続性のあるものになっているか

市民との連携が最も適しているのは福祉の分野である。近所の高齢者同士が週に1回主体的に集まり、適切な負荷がかかる体操を行うことは、介護予防や見守り合いにつながる。こういう時に自治体は、活動自体ではなくその「継続」を支援することが重要である。そのためには、まず始め方が肝心で、一緒にやりましょう!などと声かけをしてはいけない。何かあれば、役所に言われてやったのにと恨み言を言われ活動休止となるのがオチだ。その代わり、体操をしなかったらどうなるのかという情報などはきちんと伝え、「やりたい」の声が上がるのを待つ。始まれば、参加者達が「これは自分達の体操だ」と思えるように、定期的に行う体力測定や交流会で効果を一緒に喜んだり、グループ運営の困りごとを聞いたりする。人口12万人の大阪府大東市では、15年前から始め今では市域に125箇所あるこの体操の場を市の総合事業に組み込むことで、年3億円以上の介護給付費が削減されている。

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コーミン主催の大東ズンチャッチャ夜市も、毎月最終水曜日に開催して4年目になり、少しずつまちの風景を変えて来れた。毎月決まった日に行うことで開催告知の手間が省け、3000人級のイベントだが設営・撤収も効率化されている。毎週や毎月継続して行うことの最大のメリットは、すぐに次の回がやってくるのでメジャーチェンジは難しいが、逆にマイナーチェンジを重ねられることにある。小さな努力や改善の積み重ねが何でも強くするのである。年1回のイベントは、メジャーチェンジや追加盛り込みが出来るが故にやってしまう、もしくは前年度の完全コピーのどちらかになりがちである。これらの場合、何が良くて何が悪かったのかの検証がし難いだけでなく、数年繰り返すともはや目的が何だったのかまであやしくなる恐れがあるので注意が必要だ。

自治体の枠を超えて考えているか

自治体が自らをブランディングし発信することが多くなっているが、内容は等しく給付事業や名所、特産品のアピールである。給付事業などは予算さえあれば他自治体でもすぐに真似が出来てしまうので、簡単に真似できない事業を持っていると強い。宮崎県新富町の地域商社「こゆ財団」のHPを一度見て欲しい。クリエイティブディレクターである齋藤潤一氏をはじめ町職員も含む個性豊かなメンバーが、起業家育成を精力的に行なっている様子が次々とアップされている。一粒1000円のライチがアイキャッチとなり、「スマート農業」への取組み自体が若者を惹きつけているのだ。そして、こゆ財団が町名ではなく児湯郡という郡の名を冠していることも注目に値する。町を含む経済都市圏が豊かになることを目指し、その中心に新富町があるという発信の仕方なのである。前出のズンチャッチャ夜市は、既にまちに存在し、将来もっと来て欲しいターゲット層である「すっぴん女子」を対象としている。すっぴん女子とは化粧をしていない女性ではなく、心がすっぴんな人(男性も含む)のアイコンである。ブランド物に興味はなくとも良いものは求める、平日の夜でも地元の美味い料理と良き人との交流があれば、飛び込んで乾杯するような人達だ。そんな人達に向け、駅前の公共空間で毎月開催してきたナイトマーケットは、市内外から多くの老若男女が訪れるイベントとなり、大東市を知ってもらうという一つの目的を果たしている。公民連携で行っている事業はそのまちの良いプロモーションとなり得る。○○市が主語ではなく、事業の対象も自治体の圏域に限っておらず、経済都市圏や価値観を共有する人の括りで捉えているから、見聞きする側もすんなりと受け取れるのだろう。