「関係の質」の甘いワナ -「組織の成功循環モデル」に足りないものとは?
こんにちは、こがねんです。メガベンチャー人事で「組織開発」をしています。
今日はこちらのおハガキをご紹介。TwitterアカウントはToshiさんからのご質問です。
Toshiさん、ありがとうございます。
「ダニエルキムの成功循環モデルの矛盾が知りたいです。関係性の質を高めるが成果を出すことと説いていますが、もし周りが意欲がなかったり、あまり優秀でない場合、成長曲線は鈍化します。」
ということで、知らない人が読んだら「なんのこっちゃ」と思う内容だと思います。笑
ここで語られてるのは「組織の成功循環モデル」という有名な理論で「組織開発」を語るうえで避けては通れない、いわば「箱根の関所」のような考え方のアプローチになります。
その名の通り組織運営を成功させるための理論ですがこの通りにやってもうまくいかないのはなんで?というのが趣旨ですので、まずはこの「成功循環モデルが何か」というところからご説明します。
「組織の成功循環モデル」とは
「組織の成功循環モデル」はこんなサイクル図で表されます。
「関係の質(組織内の関係の良さ)」「思考の質(良いアイデアが生まれる土壌)」「行動の質(挑戦や助け合い)」「結果の質(成果が出ている度合い)」の4つがぐるぐると回る絵(サイクル図)になっています。この4つの「質」の「どこから取り組むか?」というのが重要なポイントです。
組織が成果を上げるうえで、いきなり「結果」を求めにいってしまうと「関係」が悪化し「思考」が鈍り「行動」に表れて「結果」が出せなくなる悪循環(バッドサイクル)になってしまいます。
そこでまずはお互いをリスペクトする「関係」を構築することで、良いアイデアが生まれる「思考」を担保し、新しい挑戦に向かう「行動」に移すことで、「結果」がついてきて、「関係」がさらに強固なものになる好循環(グッドサイクル)に入っていけるということです。
つまりこのモデルは「成果を上げる組織」を作りたければ真っ先に「関係の質」を向上するべし、ということをいっています。
非常に納得感がありますよね。実際、関係が悪くなると何をやってもうまくいかないのが組織ですし、逆に関係が良いだけでたいていのことがうまくいくもまた組織だからです。
僕の勤務先企業でも「組織の成功循環モデル」を旗印に「組織開発」の浸透を図った結果、社内で「関係の質」という言葉が大流行し、現場マネージャーが「今期はまず『関係の質』を上げにいきたい」と日常的に使うまでになりました。
「関係の質」から始めてはいけない理由
では「関係の質」から始めれば組織は本当にうまくいくのか。思考・行動・結果がともなって「成果を上げる組織」になっていくのか。
答えは「NO」です。残念ながら「関係の質」から始めても、この理論通りに「成果を上げる組織」は生まれません。
いくら「何でも話せる関係性」を目指して「いい合宿」「いい研修」「いい飲み会」「いい表彰制度」「いいコミュニケーション」「いい上下関係」「いいキックオフ」を頑張っても「成果を上げる組織」は生まれません。
もちろん組織の中の人同士は仲よくなります。会話量が増えたり、無駄なコンフリクトが減ったり、お互いに新しい気づきが得られたりしますが「成果」は上がらないのです。
よくあるスポ根漫画の最初の状態みたいにいいヤツばかりで仲もいいけど試合には勝てない野球部(サッカー部でもいいですが)みたいになってしまうのです。
僕は「仲良しクラブ」と呼んでいますが勤務先企業でもこの「仲良しクラブ」的な組織は増えましたが「成果を上げる組織」が増えたかといえば「?」な状況が長らく続いていました。
「組織の成功循環モデル」に足りないもの
では何が足りないのか。
先ほどと矛盾しますが、この「組織の成功循環モデル」そのものは間違っていないのです。組織は「関係の質」を向上させると「思考」がそろい「行動」に表れて「結果」に繋がる確率が上がっていくのは間違いないのです。
では何がいけないのか。
実は問題はもっと前の段階、「組織」という言葉そのものに含まれる「最も重要な要件」を見落としているところから始まっているのです。
では、ここで「組織とは何か」を以前書いたこちらの記事で復習してみましょう。
「組織」とは「共通の目的に向かって協働するチーム」のことです。逆をいえば組織図に書かれたり、名前が付いたりしても「共通の目的に向かって協働」していなければ「組織」ではないということですね。
こちらですね。
・「組織」とは「共通の目的に向かって協働するチーム」のこと
・「共通の目的に向かって協働」していなければ「組織」ではない
つまり「組織の成功循環モデル」の「組織」とは「共通の目的に向かって協働するチーム」のことであり「共通の目的」やそこへの「協働」を目指して「関係の質」を高めていくことで初めて「意識」「行動」「結果」がともなっていくということです。
ここでいう「共通の目的」とは会社全体であれば「ミッション」「ビジョン」「バリュー」などであり、個別の部門単位であれば「組織目標」「KGI」「KPI」などになります。
これら「組織が向かうべきゴール」を明らかにせず、いきなり「関係の質」を上げにいっても「仲良しクラブ」ができるだけで「甲子園での優勝」は望めないということになります。
このミスリードを生んでしまったところが「組織の成功循環モデル」の罪深いところです。
本人は全く悪くないんですがとにかく誤解させてしまう。しかも見た目がチャーミングなだけに誤解する人がやたらと増えてしまう。いわば小悪魔的なモデルと言えます。
もう1つのモデル「GRPI(グリッピー)」
「共通のゴール」「共通の目的」の重要性はお伝えしたとおりですが具体的にどうやって整理していけばいいでしょうか。
ここでもう1つの理論モデル「GRPI(グリッピー)」をご紹介します。「GRPI」はこんな三角形の絵です。
上から「Goal(ゴール)」「Role(役割分担)」「Process(業務手順)」「Interpersonal Relationship(関係性)」と4つの要素でできている三角形で、それぞれの頭文字を取って「GRPI」と呼ばれています。
このモデルが教えてくれるのは組織とは「目指すゴール」があって「役割分担」が決まったうえで「業務手順・フロー・ルール」が合意されていて、そのうえで「人と人との関係性」が健全な状態になっていて初めてうまくいくということです。
いかがでしょうか?この絵を見て何か気づいたことはあるでしょうか?
そうです!一番上の「Goal(目指すゴール)」が先ほど話した「組織の共通の目的」のことで、一番下の「Interpersonal Relationship(人と人との関係性)」がまさに「関係の質」のことを言っているように見えませんか?見えますよね!うん、見える見える!(強引)
なので「組織の成功循環モデル」の「関係の質」のところに、この「GRPI」の「Interpersonal Relationship」が来るようにくっつけると・・・
ドン!っと。こんな感じの絵になります。「目指すゴール>役割分担>業務手順>関係性」と「GRPI」の三角形を降りてきて、そこから「関係の質>思考の質>行動の質>結果の質」と「組織の成功循環モデル」のぐるぐる図に入っていく。
この流れで要件を満たしていくことで初めて「成果をあげる組織」が生み出せると僕は考えています。
さらにこの前提には「一人ひとりの人材開発」がベースにあることを考えると・・・
ドン!!っと。こんな絵になります。僕は「おでんの絵」と呼んでますが「こんにゃくの三角形(GRPI)」「大根の丸(組織の成功循環モデル)」「ちくわの四角(一人ひとりのマインド・スキル)」が重なっていよいよ「おでん(成果を上げる組織)」の全貌が見えてくるというわけです。
「共通の目的がない組織」は「組織」じゃない
ごめんなさい。「おでんの絵」あたりからまるで悪ふざけしてるみたいになっちゃいましたが本人はいたって大真面目で書いてます。
今日お伝えしたかったのは「組織は変数がめちゃくちゃ多い」ということと、だからこそ「1つのモデルだけで組織をとらえてはいけない」ということです。
いくつかの理論・モデル・アプローチを掛け合わせて複眼で「組織」を眺め倒さなければ本当の意味で「組織の課題」は見えてきません。
そして本記事で一番お伝えしたかったこと。
それは「共通の目的がない組織」を「組織」とは言わないということです。優しくいえば「仲良しクラブ」、スパイシーにいえば「ただの集団」「烏合の衆」ということになります。
「組織開発」の本当の出発点は「関係の質」を上げることではなく、働きかける対象が「組織(共通の目的がある集団)であること」です。
当たり前のことを言っているようですが、ここが超大事なポイントです。
皆さんが働きかける組織もこの出発点に立っているかどうかのチェックから始めてはいかがでしょうか。「いま組織開発しようとしている対象は本当に『組織』なのか」と。
ふう、こんな話してたら、なんだか「おでん」が食べたくなってきちゃいましたね。笑
それでは、また。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?