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人生をかけた実験の真っ最中

人生のリセットボタンを押したことが、わたしにはある。

きっかけは、それまで目指していた「ふつう」の人生が、心身の不調により、急にゲームオーバーになったこと。

思うようにいかない心と体。なんとか保っていた「自分」がすり減り、ついには、ぱたりと動かなくなってしまった。今までどおり「ふつう」を生きることが、難しくなってしまったのだ。

ひとしきり絶望して、もう落ち込むことにも飽きた頃、こう思った。

「そうだ、もういっそのこと、一度すべてリセットしてしまおう」

この生き方も、今ある関係性も、背負っているものも、すべて一度、まっさらに。

そう思えた瞬間に、気持ちがとても楽になった。なぜなら、リセットは終わりではないから。また始めるための一押しなのだ。

もう一度、もっと楽しい自分を生きることを、始めればいい。

そこからの行動は早かった。

休職させてもらっていた会社を辞め、LINEやSNSのアカウントを消して、友達と連絡をとることもやめ、家族ともすこし距離をとり、「これまで」を一度するりと脱ぎ捨てたのは、24歳のときのこと。

ひたすらに、自由になりたかった。人間関係によるしがらみも、自分自身の雁字搦がんじがらめになった思考からも。

そうしてリセットした直後は、自由で孤独な日々だった。近くの河川敷でぼーっと川を見つめる毎日。ただ暖かい太陽の光が、風に揺れる植物が、きらきら輝く水面が、そこにあるだけで嬉しかった。生きてるんだなって、心が思い出していた。

一方で、じりじりと減っていく預金残高。そろそろ動き出さねばと思ったのは、会社に行かなくなってから1ヶ月ぐらいのことだ。

さて。そろそろ、社会に戻らねば。

でも、もはや前と同じ場所に戻る必要はない。わたしの人生はリセットされ、一度終わったのだから。

であれば……

もうここから先の人生は、「実験」にしちゃおうかな。

どこまでわがままに生きられるのか、試してみよう。自分の人生を使った、壮大な実験。だとしたら、まずは「ひとつめのわがまま」を考えてみようか。

そうして出てきたひとつめのわがままが「好きなことだけ、好きなときに、好きな場所で、やりたい」ということだった。

「こんな自分になりたい」
「こんな生き方をしたい」

そうやって多くを望むことを、以前のわたしは "わがまま" だと感じていたのだ。

好きなことだけしたい。
無理して働きたくない。
好きな人とだけ関わりたい。
好きな場所に住みたい。

あれから10年近く経った今、33歳のわたしは、こつこつと実験を積み重ねた結果、これらの "わがまま" を叶えてしまった。

ある程度、実験は成功していると言えるような気もする。

ただ、まだまだ改善の余地、というか、わがまま実現の余地は十分にあるのだけど。

ちなみに、「こんな生き方をしたい」という "わがまま" を叶えるのには、ポイントがある。

それは、より大きな "わがまま" を描くこと。

もうちょっと具体的に言うと、手段じゃなくて「目的」を "わがまま" に据えることだ。

例えば「ライターになりたい」と思った場合。「ライターになること」は、何かの目的に対する手段だ。だから「その目的はなんだろう」と考える。書くことが好きで一日中書いていたいとか、新しい情報を世の中に伝えたいとか。

わたしは「好きなことしかやりたくない」という目的に対して、好きなことのひとつである「書くこと」を仕事にする、という手段をとった。その選択肢のひとつがライターだった、という感じ。

ふつう、目標はより具体的に設定したほうが叶いやすいと言われるけれど、「こんな自分になりたい」とか「こんな生き方をしたい」は、もっと大きな次元で考えた方が叶いやすいと思う。

「デザイナーになりたい」は何のためなのか。「結婚したい」はどういう状態が心地よいからか。「海外に住みたい」はどんな日々を過ごしたいからか。

そうして、もっと大きな視点で自分の "わがまま" に気づいていくこと。

人生を一度リセットしてから、もうすぐ10年になる。

二度目の人生は試行錯誤の連続で、上手くいかないことも多々あるけれど、それでも十分に心地よい。

「わたしなら大丈夫」と思える安心感もある。

なぜなら、人生はいつだって立て直せると知っているから。

当時は気づけなかったけれど、一度目の人生だって「実験」だったのだ。

どうやって生きると、どんな日々が待っているのか。それを、わたし達は自分の人生をかけて、実験しているのだ。

だからこれからも、わたしは、どこまで心地よく自分を生きられるか、わがままを叶えるための試行錯誤を繰り返しながら、二度目の人生を生きてみようと思ってる。


おわり


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