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虎のぬいぐるみに話しかける虎ばぁばと少女が出会う、その時母はビーダッシュで駆け抜けた


大阪は新世界にある、コンビニのイートインでワンカップを片手に、老婆は二頭の虎のぬいぐるみに、突然大きな声でこう言った。



「そんなんゆうたかて、私にもいろいろあるねん!」



先日、大阪は新世界(アホーニューワールド)のコンビニ内にあるイートインで、一際、目を引くお婆さんが、ワンカップを片手に立ち飲みをしていた。



(立ち飲み、立ち食いスタイル。コンビニまでもが新世界らしい。ここは下界から切り取られた街。アホーニューワールド。コンビニにもぞろぞろと、ワンカップやストロング缶を片手に、おっさん、おばはんが集う。)



ふとスタンドの机に目をやると、
机の上には無造作にリュックが置かれていた。



そのリュックからひょっこり、いやリュックの上に腰を下ろすように、二頭の虎のぬいぐるみが鎮座している。



かなり薄汚れた、茶色い二頭の虎のぬいぐるみだ。



たまねぎ頭ではない。湯ばぁばのような姿をしたお婆さんは、二頭の虎のぬいぐるみにひたすら熱心に話しかけている。片手にもつワンカップは、結構な勢いでブルブルと震えていた。


その虎達はもう何十年と虎ばぁばと過ごし、虎ばぁばに可愛がられているであろう事が、くたくたや薄汚れから見て取れる。


薄汚れたくたくたの二頭の虎、けれど眼光は何やら鋭い。


なぜか100年ほど生きてきたような貫禄を、感じずにはいられない。



この虎に話しかける老婆、虎ばぁばに日々熱心に話しかけられ続けているのだろう。



今にも虎達が話し出しそうな気がしてならない。


 

お茶を買うために少し寄ったはずのコンビニだったが、何やら私はその虎二頭と虎ばぁばの事が気になったので、茶を片手に立ち飲みに参加する事にした。



虎ばぁばは、聞き取れるか聞き取れないかぐらいの声量で、ひたすら虎達に話しかけている。



それをお茶片手に見つめる私と、みてみぬふりを極める、新世界のおっさん達。(皆片手には酒)



そこに一人の少女が現れた。





少女は真っ白な白い虎のぬいぐるみを抱っこしている。




そして、この怒涛の物語りはここから始まる。





先に動いたのは少女だった。





自分と同じ、白(だったであろう。ほとんど茶色)の虎のぬいぐるみを持っているおばあちゃんがいる…!!!(千と千尋の千尋だったらば、縛り的にはよかったんやけどな)トトロのめいちゃんのような格好で、顔立ちのはっきりとした美少女(推定5歳)は虎ばぁばと虎を交互に見つめ、


まだ汚れを知らない黒目がちな目を、キラキラと輝かせている。




これは!何かが起こりそうな、予感がする。




「なんやて?工藤?」


「バァーロォよく見ろ!あの純真無垢な少女がこっちにくるぞ!」



右虎の工藤と左虎の服部もそわそわしている。




虎に睨まれたカエルがごとく、私と、新世界のおっさん達がもつワンカップに緊張が走る。



それでも虎ばぁばは一人、そんな状況にも気がつかず、後ろにいる少女にも気づかず、熱心に虎に話しかけている。




少女がさらに近く。




「危ない!」




薄汚れた二頭の虎の右の虎、


少女が、右虎の工藤に手を伸ばそうとした。



その時だった。



少女の母親が鬼瓦権蔵のような表情で、スーパービーダッシュで駆け寄り(BBBBBBBBBBB)少女を鷲掴み抱きかかえて、走り去っていった。(その速度体感0・2秒)




チャラチャチャチャチャン♪
チャラランラン♪




コンビニの扉が閉まる。



扉のチャイムは陽気に鳴り響き、少女とその母親を外の世界へと逃したのだった。



「「「「「はぁぁぁぁ。」」」」」




私と新世界のおっさん達は、深い息をつき冷や汗を拭った。




「そんなんゆうたかて、私にもいろいろあるねん!」




虎ばぁばは突然、大きな声でこう言った。



ええ、今の数秒でいろいろありましたね。




私と、新世界のおっさん達からすると、虎ぬいぐるみの人生こそいろいろ大変やな、である。




虎の工藤と服部もじっと黙り、ただ老婆を見つめていた。



虎ばぁばはリュックから2本目のワンカップを取り出し、その後もひたすら虎に話しかけ続けていたのだった。




ところで、日本には
「苛政は虎よりも猛し」ということわざがある。



「悪政は、人を食い殺す虎よりも恐ろしい」ということのたとえだ。




「虎ばぁばは、人を食い殺す虎よりもよっぽど恐ろしい」




「新・世界ことわざ大辞典」に追記しておこうと思う。


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