「馬肉の燻製」呼称のおぼえがき

昔、福岡で「馬肉の燻製」をみて、「あ、さいぼしがある」と言ったら売り子のおばさんに睨まれたことがある。

さいぼしというのは狭義には馬肉の燻製、ときには牛の燻製も含む食べ物で、屠畜文化のある被差別部落で食べられてきたものという知識*があったので、きょうの今日まで「さいぼし=被差別部落」のイメージがあるからそのように呼ぶな、という意味での睨みだったのだろうと思っていた。

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ふらっと 人権情報ネットワーク
部落の食文化 前編 うちのムラに食べにおいで

しかしながら、友人が送ってきてくれた写真、居酒屋メニューの中に「大阪羽曳野の名物」と書かれていたことで、はて、と思い「さいぼし」についてふるさと納税サイトで検索した。ふるさと納税の返礼品は「特産品」あるいは、少なくとも「関連がある」といえるものである必要があるのでこういったときにたいへん役に立つのだ。

まず、「さいぼし」と検索すると

大阪府羽曳野市
奈良県天理市(ここでは牛肉の燻製)

がヒットした。

羽曳野市はまさに、そのメニューに書いてあったとおりである。屠畜業がさかんで、様々な食肉やその加工品が名物となっている。
一方、天理においてさいぼしがそこまで「特産品」といえるのかは私にはわからないのだが、天理は奈良県食肉公社のある大和郡山市の隣であるからつくられていることは不自然ではない。

次に念の為「馬肉 燻製」と検索する。
すると、

熊本県湯前町
熊本県山鹿市
熊本県水俣市
熊本県高森市
熊本県八千代市
……
一気に熊本県で埋め尽くされるのである。
熊本のなかで、馬肉を燻製にしたものが広く親しまれているということだ。

その他にヒットするのが
大阪府羽曳野市
奈良県天理市
兵庫県豊前市
である。ここでは関西はむしろ少数派となる。

これを鑑みると話は変わってくる。

あのとき売り子のおばちゃんは、たとえば日本人が海外で「ニーハオ」と声をかけられたら怒るように、「こっちは九州で昔から馬肉の燻製食べてきたんだから、関西のほうの文化に丸めこまないで」という意味で睨みをきかせたのではないか?

推測でしかないが、そのような可能性も十分有り得そうな結果である。
たしかに、類似していたとしても己の文化と他の文化を同一視されることは気持ちの良いものではない。そうか、私は失礼なことをしたかもしれない、と改めて反省する夜である。

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