青春


目が覚めた。8時だ。
目が覚めた。10時だ。
目を閉じて、これ以上時計の針を進ませてはいけないと思い、再び目を開ける。

13時。進んでる。めっちゃ進んでる。今日は無理だ。貞にLINEする。

「すまん寝坊した。」既読が付かない。普段スマホしか見てない癖に。
「飛んだ?」既読が付く。
「んん。どうせこないだろうと思ってバイトしてた。」

「2人で死のうって約束した日にバイト入れんなよ。明日にしろよ。」
「結局かっちゃんこなかったじゃん。毎回すっぽかすせいでさ、遺書の日付が斜線ばっかで恥ずかしくて、わざわざフリクションで1から書き直したんだよ。」

「遺書と言えばかっちゃんさ、私は、から始めた?俺は、からにした?」
「僕は、にした」
「ださくない?」
「ださくねぇよ、お前は?」
「君は、にした」
「語りかけんなよ」
「理由は何にした?死んだ理由」
「いじめだよ、お前は?」
「死にたくない!って書いた」
「匂わせんなよ事件を。人の手借りずに死ねよ。」

「そっちだって理由いじめじゃんか」
「俺のは本当だからいいんだよ」
「私はいじめられる側にも問題があると思います」
「よし、遺書にお前の名前も書こう」
「う、じゃあそれを僕の死んだ理由にしようっと」
「・・・どういうこと?」
「お前のせいで死ぬと書かれた遺書のせいで死にますって遺書書いて死ぬ」
「やめてそのI think that that that that that みたいなやつ」
「なにそれ」
「英語の読解でそういうのがあるんだよ」
「ふーん、かっちゃん英語得意だっけ?」
「へへ、最近勉強してんだよな」
「え、」
「将来さぁ、英語喋れたらかっけぇじゃん」
「死ぬのに?」
「あ、」
「え、うそ」
「いや、死ぬよ・・・」
「うわ、かっちゃんってそういうタイプだったんだ」
「なんだよそういうタイプって」
「やるやる詐欺」
「ちげぇって、そんなだせぇことしねぇよ。やるときゃやるよ」
「じゃあイタリアだ」
「は?」
「かっちゃんはテストノー勉でいこうって言うくせにちゃっかり勉強したり、一緒にマラソンゴールしようとか言うくせに最後本気で勝ちにいったり、直前で裏切るタイプだ、第二次世界大戦のときのイタリアのようにね!」
「え、なにその例え」
「僕は許さないぞ、このイタリア人め!」
「人の国籍勝手に変えんな」
「どうせ一緒に死のうって屋上から飛び降りる時も、今まで手抜いてたくせに地面に着く直前加速してじゃあお先にとか言って僕を置いて先にゴールするんだろ」
「落ちるのに手を抜くとかねぇよ、あと死ぬことをゴールって言うなよ」
「背中の翼のせいで僕が早く落ちれないのをいいことに」
「は?翼」
「そう、僕には翼が生えてるんだ」
「何が?どこに?」
「未来への希望という、大きな翼が生えてるのさ」
「普通それをもがれた奴が死ぬんだよ」
「君には、その翼がないのか・・・君は何で生きてるのかな?」
「どうせ死ぬからって何でも言っていいわけじゃねぇからな」
「飛べない鳥は、ただの人間だよ」
「ちげぇよ」
「明日富士急行かない?」
「話飛ばすなよ」
「俺ヤミ金に手出したんだ、遠くに行こうよ」
「飛ぼうとするな、それに逃亡先が富士急ってちょっとしたお楽しみを加えるな」
「何?僕はもう笑うことさえ許されないっていうの!?こんなに苦しんでるのに!?」
「めちゃくちゃ未来への翼もがれてるじゃねぇか、何にそんな金使ったんだよ」
「札束風呂」
「何してんだよ」
「一回やってみたくて」
「じゃあ実質使ってないんだからすぐ返せるだろ」
「え、使い捨てじゃないの?」
「お札はずっと回るもんなんだよ、使い捨てでたまるか」
「え、じゃあ僕が今持ってるお札は誰かのお札だったの?」
「そりゃそうだろお前が作ったわけないんだから」
「どうしよ、僕古着とかダメなタイプ」
「知らねぇよ」
「新品のお札持ってないの?」
「持ってねぇよそんなの」
「えぇ、僕やだな小汚い諭吉」
「バチ当たるぞ」
「もう、僕が作るしかないか」
「え?」
「僕、お札作るよ」
「え、お前お札作るの?」
「将来、お札作るから、かっちゃんモデルになってよ」
「あれモデルって言うのか?」
「だから有名になってね」
「総理大臣レベルだぞあれ」
「そんくらいどうにかしてよ」
「おまえ、ぶっ飛んでんなあ」
「ま、僕には翼があるからね」

俺たちが死のうと言い始めてからはやくも5年が経とうしていた。

俺たちは、夢を見つけた。



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