犬の散歩ではなく散歩について行く犬
家までの帰り道、たまには歩くかと一駅手前で降りた。信号を待っていると老夫婦が穏やかに会話をしていた。おじいちゃんは腕を後ろに組み、その手に握られたリードの先には子犬が信号を見つめていた。
なんとなく子犬を見ていると、信号が青になったので、老夫婦の後ろをゆっくり歩き出した。するとなんとなく違和感があって、これはなんだろうとしばらく子犬を見て、気づいた。
犬がずっと老夫婦の後ろを歩いている。
自分の中で犬の散歩といえば、率先して犬が前を歩いているイメージだった。なんなら犬の速さについて行くべく飼い主が少し小走りになったり、基本犬に合わせて歩くものだと思っていた。
しかし、この犬は老夫婦の少し後ろをぼんやり歩いていた。歩くこと自体には楽しみを感じていないような。特に尻尾も振っていない。
英語を勉強してる人に「英語ってただのツールだから、学んで何をしたいのか、目的を考えよう」みたいな余裕さを感じる。
そして、老夫婦も全く犬の様子を気にかけたりしない。振り返ることもなく、ただ二人で談笑しながら、目に入ったお店のことを話したりしている。
これは犬の散歩ではないのだなと思った。散歩について来た犬なんだなと。
ちょっと新年だから親戚の挨拶に行くよと言われて、別に行きたいわけでもないけどなんとなく親の少し後ろを歩いてる気だるげな思春期、のような懐かしさを感じた。
誰もが散歩で喜ぶと思うなよ。俺は普通とは違うんだよ。そう言ってるような気がした。
しかし、この犬何歳なんだろうか。ルックスでなんとなく子犬扱いしてたけど、意外と歳いってるのかも。思春期じゃなくて、単純にお年寄りで歩くことにモチベーションないだけかもしれない。
勝手にシンパシー感じてたけど、見た目で判断するもんじゃないな。そう思って、さっさと犬を追い越して家路を急いだ。
まだまだ冬は寒い。しばらく歩くのはやめよう。運動は室内でもできる。
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