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山元の新たなイノベーター・久恒森林(株)

大分県中津市に本拠を置く久恒森林(株)が事業量を伸ばしている。自社有林を750haに拡大し、自前の素材生産部隊による丸太生産量も増加。山元主導のイノベーション(技術・経営革新)を仕掛けるのは、久恒雄一郎・専務取締役。その経営ポリシーを探るべく、遠藤日雄・鹿児島大学教授が本耶馬渓町の作業現場に入った。

丸太生産が年6000m3に増加、基本は列状間伐

久恒森林のルーツは、筑豊地域で炭鉱を経営していた久恒家。明治から昭和初期にかけて、坑木確保を目的に山林・原野を取得、その後スギ・ヒノキを中心とした人工林経営にシフトした。だが、平成3年の台風災害で所有林が大きな被害を受け、翌4年に法人化(株式会社化)したものの、材価低迷などで苦境は続き、経営面で大きな岐路に立たされた。
そうした中、8年前に、雄一郎氏(52歳)が会社勤めを辞め、専務取締役として経営を引き継いだ。持続可能な林業経営を目指し、列状間伐の導入や高密路網の整備、機械化の推進、若年作業員の確保などに着手。14年には大分県の認定事業体になり、18年度からは「新生産システム」(大分圏域)にも参画している。

遠藤教授
急速に丸太生産量を増やしているようだが。

久恒専務
昨年の2月から3月にかけて作業システムを全面的に見直し、今は年間約6000m3のレベルになっている。以前は、年間2000〜2500m3だったので、2・5倍になった計算だ。

遠藤
2・5倍とはすごい。どのような作業システムなのか。

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列状間伐の施業地を背に意見を交わす久恒専務(左)と遠藤教授

久恒
列状間伐、高密路網、機械化による低コスト生産が基本だ。作業道は毎年約1000mのペースで開設している。
列状間伐は、1伐3残による長期育成循環施業を目指している。35年生までで1列伐採し、10年程度経過を見ながら残り3列の中心列を伐る(1伐2残)。伐採列を利用して、スギ70年生やヒノキ80年生までに抜き伐りを繰り返し、中間収入を得るのが目標だ。この施業法は7年前にスタートし、今年で間伐は2巡目に入った。ただ、この地域は台風被害が大きく、スギは50年生以上になると被災率が上がる。そこで1伐3残のほかに、中・短期の伐期施業を意識した2伐3残や、帯状あるいは群状択伐などの間伐法も試している。

スイングヤーダ+ハーベスタヘッドの複合機を導入

遠藤
伐採以降の作業システムはどうなっているのか。

久恒
集材はスイングヤーダ(架線120m以内)とミニグラップル(地引き50m以内)、造材はプロセッサとハーベスタ、運材はフォワーダと10tトラックで行っている。昨年度、スイングヤーダにハーベスタヘッド(ケスラー560SH)を装着したハイブリッドマシンを導入し、丸太生産量が月間500m3にアップした。

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スイングヤーダにハーベスタヘッドを装着したハイブリッドマシン

遠藤
現場作業員は何人いるのか。

久恒
伐採班が3人、道づくりのオペレーターが1人、機械作業班が4人という構成だ。機械作業班は、マシン1人と先山1人のセットが2チーム。平均年齢は、機械作業班が24〜26歳、伐採・道づくり班は60歳が1名で他は40歳前後。技術士の資格を持っている職員もいるので、GISを使った森林管理や作業道の設計などもこなしている。給与待遇は、日給月給制と月給制が半々で、出来高制はとっていない。とくに若い作業員は定額支給で日曜日を休みにするなど、林業に定着しやすい環境をつくるようにしている。

遠藤
これだけの体制を短期間でつくりあげたとは驚きだ。

久恒
これで、ようやく採算ベースにのるかという段階。工程管理や効率化は日々改善していかなければならない。単純に高性能機械を入れるだけでは、生産性は上がらない。作業道開設の計画や機械の配置、次の事業地の確保など、作業員がベストのパフォーマンスで動けるように、全体をマネジメントすることが重要だ。

再造林費削減へ植栽密度試験、飫肥スギに高評価

久恒森林の経営革新は、まだ緒に就いたばかりだという。列状間伐による作業システムで実績が上がってきたことをステップに、新しい技術開発にチャレンジしている。それは、再造林の省力化だ。

遠藤
再造林費の削減で新しい取り組みをしていると聞いたが。

久恒
今年から、試験地を設定して植栽密度の検証を始めている。成長のいい飫肥スギやヤマグチなどを、円形に4か所で植栽し、成長の度合いや下草の影響などを調べている。円の中心は密植(5000本以上)になり、周辺にいくほど粗植(700本程度)になるという仕組みだ。

遠藤
弁甲材(造船用材)として使われてきた飫肥スギは、粗植に向いており、間伐の必要がない。ただ、成長がいい反面、目が荒く強度が十分でないという見方もある。

久恒
「新生産システム」に参画している大型製材工場の間では、飫肥スギの評判がいい。真円で密度が均一、色もよく、乾燥もしやすいという評価がこの2〜3年で定着し、飫肥スギの苗が足りないほどだ。これから、どの程度の密度で植栽するのがベストかを研究していきたい。

道端に集積するC・D材に新たなマーケットを

久恒専務は、遠藤教授を30年生のスギ人工林に案内した。植栽時に林地肥培をしたため、40年生以上と見間違えるほどの成長ぶりとなっている。木質バイオマスの生産量としては抜きん出た林だが、道端には短材や根株などのC材・D材が転がっていた。

遠藤
これで30年生とはすごい。ただ、初期成長がいい分、材の中心部は目荒なようだが。

久恒
これだと「新生産システム」の製材工場には、なかなか引き取ってもらえない。一口にA材といっても、かなりの良材でないと、取引量の拡大にはつながらないのが現実だ。また、かりにA材の大量受注を受けると、それをはるかに上回るB材・C材が出る。

遠藤
ここにある長さ1〜2mの短材は、パルプ・チップ用(C材)になると思うが。

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作業道脇に集積されたC・D材

久恒
そうだが、m3当たり1500〜2000円程度にしかならない。それでも、道端に揃えておけば持っていってくれる業者がいるからまだいい。これ以外の端材や根株などのD材は、誰も集荷してくれない。

遠藤
木質ボード用ならば十分に使える。むしろ喉から手が出るほどほしい原料だ。徳島県のエヌ・アンド・イー(株)(第63回参照)は、移動式粉砕機を山土場までもっていき、チップ化して集荷するシステムを検討している。久恒森林は、10tトラックが通行できる基幹作業道が整備されているので、D材を有効活用する可能性は大いにある。

久恒
列状間伐をすると、作業道脇に林地残材などが自動的に集積される。これはメリットだと思っている。山林所有者としては、こういうD材を何とか価値のあるものとして出荷したい。
現在のチップマーケットは、主としてパルプ向けとして系列化されている。それも重要だが、山林所得を増やすためには、山元が直接D材を販売できる、新しいニーズに基づいたマーケットが必要だ。

遠藤
そのために、山元は何をするべきか。

久恒
まず安定供給だろう。林地残材を引き取りやすい状態に造材・集積すること。そして、そこまでのアクセスを考えた山づくりをすることだ。また、山林所有者だけでなく、森林組合なども含めた連携体制の構築が不可欠だ。移動式チッパーを導入するには、高額な投資が必要になる。稼働率を確保するためには、それなりのロットをまとめなければならない。流域単位の取り組みが求められる。

遠藤
従来の木材のカスケード(多段階)利用は、川下のニーズに基づいていた。しかしこれからは、山元からカスケード利用を提案してもいい。そのリーダーシップを久恒森林にとってもらいたい。

(『林政ニュース』第355号(2008(平成20)年12月17日発行)より)

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