秋田の再生へ③ 新たなビジネスモデルを求めて
(前回からつづく)秋田県米代川流域――豊富な森林資源を有し、全国有数の製材加工産地を形成している。だが、この“秋田スギのメッカ”も往時の活気を失ってきている。同流域の大館地区には、かつて40社近くの製材企業があったが、現在は森林組合を含めて30社に減少した。「天スギ」(天然秋田スギ)から「造スギ」(人工造林した秋田スギ)へという資源内容の変化に加え、住宅市場の変貌(品質・性能重視など)が林業・木材業界の土台を揺さぶっている。もう一度活況を取り戻すためには、何が必要なのか。新たなビジネスモデルを求めて、遠藤日雄・鹿児島大学教授が、大館地区に入った。
沓澤製材所「もう原木の優位性には頼れない」
遠藤教授は、まず秋田県を代表する名門企業・(株)沓澤製材所(秋田県大館市、沓澤一英・代表取締役)を訪ねた。同社は、昭和2年に桶樽製造業者として創業し、今では中目材製材のトップメーカーとして全国に名を馳せている。JAS(日本農林規格)製材品普及推進展示会で、農林水産大臣賞8回を含む3賞を19年連続受賞するなど、加工技術と品質管理能力の高さは折り紙付きだ。
同社の沓澤一英・代表取締役と沓澤俊和・常務取締役が、遠藤教授を出迎えた。
沓澤一英・(株)沓澤製材所代表取締役
遠藤教授
秋田県内の代表的な木材企業を回っているのだが、秋田スギ原木(丸太)の品質低下を指摘する声が多い。こちらではどう感じているか。
沓澤一英社長
確かに、山の手入れが遅れていることもあって、原木の質は落ちている。最近は、九州のスギ原木が非常によく見えることがある。北関東のスギもいい。もう秋田は、原木の優位性に頼ることはできなくなった。
遠藤
役物主体の「天スギ」の時代は過去の話か。
沓澤社長
そうだ。今は間伐主体で40年生から50年生のスギ原木が主流になっている。多節、死節、腐れ節などがあり、雪国に特有の根曲がりなどの欠点もある。県内の森林資源量は年間300m3程度増えていっているが、中身はB、C材が多く、合板用や集成材用にはいいが、一般製材にとっては有利性がない。これをカバーするには、乾燥や加工技術を高めて、新商品をつくっていかなければならない。
製材ラインを一般用に一新、国産羽柄材に商機
沓澤製材所は、平成19年に「新生産システム」(林野庁の大型補助事業)を活用して、製材ラインを一新した。「天スギ」時代の名残がある設備を、一般材製材用に全面的に切り替えた。現在は、年間約2万3000m3の原木(中目丸太)を消費、多品種少量生産の工場として稼働している。
沓澤俊和・(株)沓澤製材所常務取締役
遠藤
板材と割材に特化しているようだが、生産品目はどのくらいか。
沓澤俊和常務
200品目は超える。胴縁だけでも、10種類以上生産している。地域によって、1㎜単位でサイズが違うからだ。従業員は43人。労働集約型の工場であり、生産性をどうやって高めていくかが課題だ。
遠藤
生産品目が多い中で、これからどのような商品にウエイトを置いていくか。ロシア材の輸入減で、国産羽柄材へのニーズが高まっている。1つの商機と言えるのではないか。
沓澤社長
秋田の業界は、12尺(3・65m)の羽柄材をつくって首都圏の市売市場に出すというやり方でやってきた。だが、3mや4mの羽柄材需要への対応や、直販ルートなど販売方法の見直しが必要になっている。
沓澤常務
最近の住宅市場では、板材に対する要求が厳しい。材色や芯の入り具合、節の大きさなど、JAS以上の品質が求められることも珍しくない。こうした注文に応えながら、生産性と歩留まりの向上に挑戦していきたい。また、足場板の需要が復活してきているので、これにチャレンジすることも検討している。
素材生産とタイアップしてグリーンビジネスへ
遠藤
沓沢製材所のラインは、KD(人工乾燥)羽柄材生産の新しいビジネスモデルになると期待している。国産羽柄材のネックは、大量供給できないところにある。グリーン材(未乾燥材)は出せても、KD材になると難しい。ここに突破口を開いてほしい。
沓澤常務
弊社は昭和47年に人工乾燥機を導入し、乾燥技術の蓄積がある。従業員の教育にも力を入れており、製材JASや木材乾燥士の有資格者数は県内で一番多い。板材の乾燥については天然乾燥と人工乾燥との組み合わせが有効であり、ここに弊社の強味があると自負している。今後、木屑炊きボイラーの増設も計画している。
一新された製材ライン、KD材安定供給の心臓部になる
遠藤
改めて、秋田スギの品質低下対策について聞きたい。
沓澤常務
やはり、原木の善し悪しが製材工場の明暗を左右する。県内を中心に、北東北という広い集荷圏からいい原木を集めることが必要だ。ただし、原木だけを求めるのではなく、林地残材の有効利用など、製材企業として環境にいいことを展開していかなければならない。
沓澤社長
1社だけですべての問題を解決しようとしても難しい。弊社が素材生産業者と組んで、森林の整備にも関与していくというグループ力が必要になっている。我々自身が山に入っていくことで、森林の状況や手入れのやり方などがわかる。価値観の同じ企業が手を組んで、再生産可能なグリーンビジネスを立ち上げていきたい。
バイオタウンの大館市が乾燥ストックヤードを構想
沓澤製材所を後にした遠藤教授は、大館市役所に足を向けた。バイオマスタウン計画を策定している同市は、ペレットストーブの大量導入など、森林資源の徹底活用に向け、積極的な施策を打ち出している。小畑元・同市長は、建設省に勤めた後、青森大学教授となり、平成3年4月に初当選。以降、大館市のトップとして、林業再生に取り組んでいる。
小畑元・大館市長
遠藤
現状をどうみているか。
小畑市長
第1次産業が活性化すれば、すべてがうまくいく。そのために、エネルギー供給まで含めたエコタウンの実現を目指している。モデルとなる取り組みの1つがペレットストーブの普及であり、今年度だけで100台導入した。当地域は、年間9カ月はストーブを焚いているので稼働率が高い。
遠藤
森林の手入れが遅れているという懸念が出ている。
小畑市長
幸い当市周辺の民有林は、初回間伐がすべて終わっている。山は荒れていないし、死んでいない。50~60年生の良質の秋田スギを安定供給できる基盤がある。また、市内には、一般製材工場と大断面集成材工場、さらに再生木材(Mウッド)の工場、そしてペレット工場と加工施設が揃っている。林業が産業として成り立ち得るインフラが整備されており、今が勝負どころだ。
遠藤
県内に大型の乾燥施設がないことが問題視されている。
小畑
原木をストックして価格を安定させる仕組みがつくれないか。そういう要望が、私のところにも寄せられている。今までは原木市場頼りだったが、乾燥材の安定供給を可能にするストックヤードができないか検討をしている。乾燥センターでモルダーがけまで行い、付加価値を高めて出荷していきたい。北秋田型のビジネスモデルが提案できる、そう考えている。
(『林政ニュース』第379号(2009(平成21)年12月23日発行)より)
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