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秋田の再生へ②「造スギ」は集成材に使えるか?

前回からつづく)かつてスギ製材日本一だった秋田は、すっかり様変わりした。現在では、合板と構造用集成材の一大産地と化している。構造用集成材生産量では、前号で取り上げた(株)宮盛と菱秋木材(株)、そして今号で紹介する二ツ井パネル(株)の3社で、全国の3割弱のシェアを占める。しかも、この3社が外材から国産材へのシフトを加速させており、秋田の業界地図は一変しそうな雲行きだ。ただし、一口に国産材シフトといっても、有名ブランド材である秋田スギを集成材用ラミナとして利用するには課題が横たわっている。周知のように、秋田スギの資源内容は、「天スギ」(天然秋田スギ)が減少し、「造スギ」(人工造林した秋田スギ)が主体になっている。「天スギ」に比べて目が粗く、樹齢も若い「造スギ」は、木材として利用するには未成熟なところがある。前号で、秋元秀樹・菱秋木材社長が「秋田スギは、性能・品質面で問題がある」と指摘したのは、このような事情を踏まえてのことだ。

「どうしても曲がる」、未成熟な材料への懸念

遠藤教授
「造スギ」を集成材用ラミナに利用する上で、ネックとなるのは何か。

秋元社長
どうしても曲がりが出る。弊社は秋田スギ銘木の製材業者として創業し、私も幼少の頃からスギに親しんできた。だから、「天スギ」と「造スギ」の違いは熟知しているつもりだ。

「天スギ」の場合は、製品化しても曲がらない。しかし、今の「造スギ」は、乾燥しても曲がる。もっと樹齢を重ねていけば解消されていくのかもしれないが、現段階では不安がある。品質・性能面の要求が益々厳しくなっている住宅用部材に、「造スギ」でつくった構造用集成柱を供給することには躊躇せざるを得ない。

遠藤
もう、秋田スギというブランド力に頼ることはできないということか。

秋元
今あるスギという資源の特性を、冷静に分析する必要がある。実は弊社は、今から35年くらい前に「天スギ」を使った構造用集成材をつくっていたことがある。コア(中芯)をスギにし、表面にはスギのツキ板を張った。当時、月産1000本くらいはつくっていた記録がある。強度(曲げヤング係数)もE95はあり、マーケットの反応はよかった。普通の集成材と変わらないという受け止め方だった。

ラミナよりもエンドレスLVLの方が有望

遠藤
菱秋木材では、かつて「天スギ」の構造用集成材もつくったが、その後、輸入ラミナがメインとなり、ここにきて北海道のカラマツを調達する段階に至ったということか。原料の選択と転換は、難しい経営決断だと改めて感じる。

秋元
道産カラマツならば、E95レベルの強度は確実にあり、場所によってはE105がとれる。KD(人工乾燥)をきちんと施せば、全く問題はない。

海外からのラミナ調達もそうだが、原料転換にあたっては、商社に頼るのではなく、自らが現地に足を運んで直接買い付けることが重要だ。いずれにせよ、これからの集成材メーカーは外材に頼っているだけではダメだ。いろいろな原料に目配りをしていかなければならない。

遠藤
「造スギ」の最も有効な活用方法をどう考えるか。

秋元
集成材用ラミナよりも、LVL(単板積層材)にする方がいいのではないか。曲がりなどの欠点を解決しやすい。とくに、柱と平角にはスギLVLが向いている。

秋田県内には、すでに合板メーカーがあるので、市場での競合関係などに配慮する必要があるが、弊社としてもスギLVLの生産は取り組んでみたい分野だ。

それもできれば、FJ(フィンガー・ジョイント)でつないだエンドレスのスギLVLを生産したい。まだJAS(日本農林規格)では認められていないが、海外ではエンドレスLVLが普及してきている。スギという資源をムダなく利用し、しかもさまざまな用途で使えるようにするには、エンドレスLVLにすることが有効だ。そうしないと、需要は伸びていかないだろう。

集成管柱月産5万本の二ツ井パネルも減産が続く

宮盛と菱秋木材における国産材シフトの現状を確認した遠藤教授は、もう1つの有力集成材メーカー・二ツ井パネル(株)(北秋田市、鈴木稔・代表取締役)に足を向けた。同社も、ラミナ原料をスギに切り替えているとの情報が入ったからだが……。

遠藤教授
秋田が構造用集成材の一大産地になった背景は何か。

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スギ集成管柱の可能性について語る鈴木稔・二ツ井パネル社長

鈴木社長
もともと秋田は化粧貼り構造用集成材(集成材の表面に薄い化粧板を貼り付けた集成材)の産地だった。弊社もロジポールパインでJASを取得し、月産1500本の芯材(集成材)を生産していた。

遠藤
それがなぜ集成管柱に?

鈴木
和室真壁工法の住宅が減少して需要が少なくなり、大壁工法に適した集成管柱に転換する必要が生じたからだ。

遠藤
当初は、米材で集成管柱をつくろうと考えたのか。

鈴木
1980年代末から90年代にかけて、日本の木材市場ではKDの必要性が叫ばれ始めたが、北米、とくにカナダはKDにまったく関心を寄せなかった。そこで1990年に単独でスウェーデンへ行き、構造用集成材のラミナを探したが相手にしてもらえなかった。

遠藤
1990年代後半からホワイトウッドが本格的に日本に入るから、かなり早い時期に北欧に目をつけていたことになる。すごい先見の明だ。

鈴木
現在、そのホワイトウッドで集成管柱を月産5万本、レッドウッド集成平角を300m3生産している。しかし、ユーロの為替相場変動が日本の集成材メーカーを直撃している。弊社も3年前は66人体制で構造用集成材を月産4000m3、化粧貼り構造用集成材を同じく60m3つくっていたが、現在は33人体制でそれぞれ2000m3、40m3に減産を余儀なくされた。

スギにトライしたが止めた、横たわる4つの課題

遠藤
北欧産ラミナの輸入リスクが高まってきたため、原料の一部をスギに切り替えているという話だが。

鈴木
5年前から何度かスギにトライしたが止めたという経緯がある。

遠藤
どうして?

鈴木
スギの難点が災いするからだ。第1は、ラミナの強度が担保できない。第2は、ホワイトウッドに比べて節が多いうえに死節が多い。第3は、ラミナを集荷する場合、秋田の製材業者は小規模でコストが高くつく。第4は、秋田には人工乾燥機そのものが少なく、一定量の乾燥ラミナを調達できない。

しかし、なんとか一部をスギに代えたいので、何社かからスギラミナを仕入れて試作品をつくっている。

遠藤
今後、スギ集成管柱がコマーシャルベースに乗った場合の販売戦略は?

鈴木
ホワイトウッド集成管柱の流通チャンネルに乗せても売れないと思う。別のルートを開発する必要がある。そのためにもスギ集成管柱生産の前にスギFJ(フィンガー・ジョイント)の生産・販売で地ならしをすることも考えている。

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二ツ井パネルのスギ集成管柱試作品

◇  ◇

外材輸入を巡る状況が急変し、集成材メーカーが国産材に熱視線を送り始めているのは、従来になかった新しい動きだ。だが、肝心の秋田スギ(造スギ)の評価が思いのほか低い。どうすればいいのか。その答えを求めて、遠藤教授は旧知の優良製材業者を訪ねることにした。
(次号につづく)

(『林政ニュース』第378号(2009(平成21)年12月9日発行)より)

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