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【法改正】タネを取り巻く状況について

農業はタネや苗がないと始まりません。
ということで今回はタネを取り巻く状況についてまとめました。

先にまとめです。

【まとめ】
日本の種苗業界には1000を超える企業が存在しますが、そのほとんどは種苗の卸や小売のみを行っており、自社で他品目の品種開発を行える企業は数社しかありません。
そういった企業は日本だけでなく世界でも活躍し、日本のタネは高品質というのが世界的な評価のようです。
また、種苗業界については「種苗法改正」が数年前に大きなニュースとなりました。
この法改正はタネの育成者の保護を強めるものですが、既にタネの自家増殖というのはかなりマイナーな方法となっているため対象となる品目は限定的で、あくまでタネの海外などへの無断持ち出しがないように監視の目を光らせるのが種苗法改正の目的です。
また、民間会社が管理するF1品種とは別に、在来種にも近年注目が集まっていますが、これについては国の研究機関の下部組織であるシードバンクが管理を行い、将来の品種開発ニーズに応えられるよう多様なタネを保管しています。

種苗業界の概要

タネをつくる会社はわずか数社

日本種苗協会には約1100社が加入していますが、そのうち自社品種を開発するメーカーはわずか約50社、なおかつ多品目の品種開発を行うのは数社のみです。
つまり、いわゆる「種屋さん」のほとんどは卸売業や小売業を行なってい流のです。

品種開発というのは時間とコストがとてもかかるため、大手の企業だけしかそれだけの負担を背負うことができないのです。

日本のタネは世界でも活躍

世界の種苗会社の種苗売上高を見ると、日本の種苗会社も上位にランクインしています。
サカタのタネとタキイ種苗は世界的にも多くのシェアを占める品種の開発も行なっています。
日本のタネはその品質の高さが高く評価されており、種苗会社自体も市場拡大が見込めない日本よりも海外市場を意識した展開を行なっています。

また日本の企業であっても下記の理由により品種の交配はほとんどを海外で行なっています。

【海外で品種の交配を行う理由】
・多様な品目の種子を安定的に生産する必要性がある
・原産地の気候に近い方が良質な種子ができる

※種苗業界を含めた農業業界のトップ企業についてはこちらにまとめています。

在来種にも注目が集まっている

品種開発によって誕生する新たな品種とは違い、そういった品種の元となる在来種などと言われるタネについても、現在では広く注目が集まっています。

そもそも品種改良は下記のような目的で行なわれます。

【生命維持のための開発】
生産性向上:耐寒性向上、早晩性調整、耐病性向上、果実肥大、収量向上など
輸送効率向上:大きさや品質の均一化、輸送に耐えられるようにするなど
品目例:コメ、レタスなどの葉菜類

【嗜好性の追求した開発】
食感・風味向上:糖度向上、苦味をなくす、タネをなくす、皮を薄くするなど
特定の栄養素の調整:栄養素の増減調整 
品目例:果樹、トマト

カテゴライズは勝手に行いました

品種改良により、農作物は基本的により大衆的なものになります。
しかし、その過程で農作物の持っている特徴的な味わいなどをなくすことがありますので、そういった「農作物の本来持っている特徴」を好む方々に在来種は選ばれています。

在来種ばかりでは消費地の大型量販店で毎日同じ品質の農産物を買うことはできませんが、逆に在来種があることで地域の食文化や種の多様性を保持することができます。

ただ、在来種の作物は基本的にタネとりによって次の世代にタネを残します。
しかし、これは本当に本当に大変なことなので、基本的には多くの農家さんがF1と呼ばれる種苗会社が開発したタネを使っています。
※全国で流通している野菜の90%以上はF1品種です

種苗法改正とは

もともとタネの育成者の権利を守るためにできた

種苗法はもともと植物の新品種を育成する権利(育成者権)を守るためにできた法律です。
ここでいう育成者とは種苗会社や各都道府県の農業試験場、農研機構などのことを指します。
そういったところで長い時間をかけて新たに開発された「タネ」は育成者にとって著作物のようなものです。
そのため一部の品種において農家さんがそのタネを自家増殖して育てた作物を販売することを違法としたのが今回の法改正です。

新品種の勝手な持ち出しを防ぐことが一番の目的

そんな種苗法改正がニュースになったのは2020年のことで2022年4月1日には完全施行が完了しています。

もちろん、このタイミングで改正が行われたことにはしっかり理由があります。

種苗法改正の一番の目的は、新品種の勝手な持ち出しを防ぐためです。

実際に都道府県だけでなく国をも超えてタネが盗難され、海外で産地化されてしまっているケースが報告されています。
例えばシャインマスカットは中国に苗が流出したことにより、安価な海賊版が第三国に輸出まで行われ、日本にとっては毎年100億円の損失が出ていると言われています。
他にもイチゴやさつまいもなど日本の品質の高さを誇る食味の良い品種が持ち出される傾向にあるようです。

こうした事態に対抗するために行われたのが種苗法の改正です。
そもそも日本のブランド品種の海外への持ち出しを禁止にすればいいのでは?という意見もありますが、そうなると闇ルートでの取引が行われることは目に見えているので、手数料制のような形を取り、流通させること自体は合法とすることでタネの流通の透明性を向上することができます。
(透明性の向上という意味では各国の大麻合法化と近いかもしれません)

改正により影響を受ける品種は限定的

種苗法改正の内容はざっくり書くと「育成者の権利を強化するために自家増殖を許諾制にすること」となりますが、詳細に見てみると下記のようになります。

【種苗法改正で影響を受ける品種】
・登録品種という全国に販売される種苗の1割程度の品種
・許諾制ではあるが許諾料が無料のものも多い
・海外流出が多い品種がメイン
・紅はるか(さつまいも)、あまおう(イチゴ)、シャインマスカットなど

【種苗法改正で影響を受けない品種】
・一般品種というほとんどの品種
 - 例:米は84%、野菜は91%、りんごは91%が一般品種
・在来種、品種登録期間が切れた品種も一般品種
・そもそも自家増殖されないF1品種
・商業目的ではない自家増殖は登録品種であっても問題ない

こうして両者を見比べると、種苗法改正の影響を受ける品種は意外と少ないことが分かります。
また、許諾制となる品種であっても、都道府県が許諾料を取らないケースも多いのです。
都道府県としては、産地としてブランド品種を育成していきたいという考えもあり、農家さんの負担をあえて増やすようなことは行いたくないのです。

種苗法改正に対しては、「法改正により海外の企業に種苗を奪われてしまう」という意見を目にしますが、
そもそもほとんどの品種はF1のため、既に自家増殖などできません。
そのため既に一定数のタネは企業のものであるという前提がありますが、だからと言って法改正により海外の企業が参入しやすくなるという根拠は全くありません。

あくまでタネの無断持ち出しがないように監視の目を光らせるのが種苗法改正なのです。

※ちなみに国際条約であるUPOV条約では加盟国の育成者から登録された品種の育成者権を保証しています。しかし、この条約にも罰則規定はないため、あくまで品種と育成者の管理が目的(有事の時に素早く対応する)のようです。

種子法廃止との関連性

種苗法改正とセットで語られることも多いのが種子法廃止です。
種子法は1952年、敗戦後の食糧不足を解消するために制定され、当時は公的機関が稲・麦・大豆の品種開発を行うことで日本全体の穀物の収量を上げ、なおかつ安価でタネが全国に流通できる仕組みを作ることに貢献しました。

しかし、それは同時に企業参入のハードルを上げていることにもなります。

種子法廃止により都道府県に代わって民間企業が品種開発に参入できるようになりました。
しかし、懸念点としては、その地域ならではの独自品種がなくなってしまったり、少数の企業がタネを独占することでタネの価格がむしろ高騰することなどが挙げられます。

しかし、各道府県はそれに対抗して「種子条例」という条例を作ることで、従来通り公費での種子生産体制を維持するという動きも見られています。

在来種のタネを保管する「シードバンク」

企業が管理するF1品種とは違い、在来種は明確に管理者が決められていないことが少なくありません。
そのため、全国にシードバンク(種子銀行)というタネの保管施設が存在しています。

シードバンクの役割は以下にまとめられます。

【シードバンクの役割】
・あるタネが絶滅の危機に瀕した時でも後世に受け継げるようにする
・多様な特徴のタネを残し、将来の新品種開発時の材料とする

そもそも私たちの嗜好や栽培環境の変化で大きく変わる未来のタネに対するニーズを予測することは困難です。
そんな時にどんなタネが求められようとも対応するべく存在するのがシードバンクなのです。

日本では1985年に全国規模で同事業が始められ、2022年時点で述べ23万点以上の植物遺伝資源が登録されています。

もちろん世界各国にもシードバンクは存在します。
2022年5月、世界で10番目に大きいとされるウクライナ国立種子銀行の一部がロシアによる侵攻時に破壊されたというニュースがありましたが、シードバンクはその地の人々の命に直結することもある大切な施設なのです。

最後に

今回はタネを取り巻く状況についてまとめました。

日本の種苗業界には1000を超える企業が存在しますが、そのほとんどは種苗の卸や小売のみを行っており、自社で他品目の品種開発を行える企業は数社しかありません。
そういった企業は日本だけでなく世界でも活躍し、日本のタネは高品質というのが世界的な評価のようです。
また、種苗業界については「種苗法改正」が数年前に大きなニュースとなりました。
この法改正はタネの育成者の保護を強めるものですが、既にタネの自家増殖というのはかなりマイナーな方法となっているため対象となる品目は限定的で、あくまでタネの海外などへの無断持ち出しがないように監視の目を光らせるのが種苗法改正の目的です。
また、民間会社が管理するF1品種とは別に、在来種にも近年注目が集まっていますが、これについては国の研究機関の下部組織であるシードバンクが管理を行い、将来の品種開発ニーズに応えられるよう多様なタネを保管しています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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