Legends of Runeterraのカードデザイン方針を分析する

Riotの新作DCG、Legends of Runeterraの第2回プレビューが、11月15日から20日にかけて行われました。
この記事では、Legends of Runeterraのカードデザインの傾向をほかのカードゲームと比較し、デザイン方針を分析します。

システムとカードをつなぐ「データベース構造」

カードゲームや、ほかのゲームを設計するとき、まず重要になるのはゲームシステムだ。10月に行われた初回プレビューのときは、Legends of Runeterraのゲームシステムをまとめ、開発意図を分析する記事を書いた。

今回は、ゲームシステムの分析に続き、カードの分析を行っていきたい。

ゲームレビューとしてカードの分析を行うとき、見るべきは個々のカードではない。
なぜなら、開発者はカードを1枚ずつデザインするのではなく、システム上実現可能かつ、複数のカード群を形成できる要素を抽出し、それを各クラスや、拡張パックに割り振ることによって、クラスやパックの特徴を設計するためだ。

個々のカードは、割り振られた要素に基づいてデザインされることが多い。
この、システムと個々のカードをつなぐ「データベース構造」は明示されないため、あまり注目されないが、データベース構造の設計はゲームの品質に大きな影響を及ぼす。

この記事では、複数のDCG・TCGがどのような要素に基づいて、クラスやパックの特徴を設計しているか紹介し、Legends of Runeterraと比較することでLegends of Runeterraの「データベース構造」を明らかにしていきたい。

クラス特性のパターンその1:出力

まずは以下の図を見てほしい。

画像2

これは、TCG・DCGにおいて、クラス特性としてよく使われる要素を、3つのパターンに分類したものだ。

1つ目の「出力」は、実現する内容に着目したパターン。

Magic: The Gatheringはこのパターンを強く意識しており、ゲーム内で発生するあらゆる効果が、どの色(クラス)に属するか定義されている。

例として、クリーチャー(ユニット)を除去する方法を見てみよう。
赤はダメージを与えること、黒は破壊すること、青は手札に戻すことを得意としており、ショック殺害送還の3枚のカードとして表現されている。

また、青はダメージを与えること、破壊することを苦手としており、その効果を持つカードは、例外的にしか存在しない。

このように「出力」に着目したクラス特性は、効果をクラスに割り当てることで、クラスの得手不得手を定義する機能を持つ。

Magic: The Gatheringは上記のように、色(クラス)の得手不得手が厳格だが、デッキには複数の色を組み込むことができる。
組み込む色の数を増やすと、行動の幅が広がるが、デッキが機能不全に陥る「事故」の可能性も高くなる。

出力と色を紐づけ、色を増やすことによる行動幅の拡大と、安定性の低下のトレードオフを迫るのが、Magic: The Gatheringのクラスシステムと言えるだろう。

クラス特性のパターンその2:入力(システム)

「出力」に対して、効果を得る条件や、コストなどの「入力」に着目するパターンもある。

Hearthstoneのシールドスラム魂の炎致死毒は、どれもダメージを与えるカードだが、それぞれ効果を得る条件やコストが異なる。
シールドスラムは自身の「装甲」が必要で、魂の炎は追加コストが手札1枚、致死毒は武器を装備している必要がある。

出力側ではなく入力側に着目した特性はTCG・DCGでよく見られる。しかし、上記の例ではHearthstoneの固有システム「ヒーローパワー」に注目したい。

ヒーローパワーは手札に関わらず毎ターン使える能力で、その効果はクラスによって異なる。
ヒーローパワーには、装甲を増やすもの、カードを引くもの、武器を装備するものがあり、例に挙げたカードと対応している。

このように、システム側の「出力」でクラスの特徴を表現しつつ、カードの「入力」にそれを利用する手法は、ドラゴンクエストライバルズなども採用している。

このパターンの問題は、汎用性の低さだ。
システムでカードの入力を担保しているため、システムに組み込まれていない要素は利用できない。また、システム側の出力として十分な影響力があり、カード側の入力としても扱いやすい効果は、そういくつも作れるものではない。

クラス特性のパターンその3:入力(カード)

より幅広く利用されるパターンは、入力を別のカードに担わせるものだ。

Shadowverseのリノセウスはカードのプレイ枚数を、デスタイラントは墓場の枚数を要求するが、それぞれウォーターフェアリーフェアリーウィスパラースカルビーストスパルトイサージェントなどの要求を満たすためのカードが多数用意されている。

このパターンは、入力をクラス特性とし、それを満たすための出力もカード側に設置しているパターンと言える。HearthstoneやShadowverseなど多くのDCGが採用している、最も汎用性の高いパターンだろう。

このパターンでは、入力に紐づいて出力も影響を受ける。
出力自体をクラス特性とするパターンとの違いは、最終的に実現できること、つまりクラスの得手不得手が画一的になることが、許容されているか、許容されていないかの違いである。

クラスの得手不得手をどのくらい差別化すべきかは、ゲームの設計による。
Hearthstone型のDCGは場の主導権争いが激しく、許容される行動の幅がほかのカードゲームより狭い。

また、近年のオンラインゲームではプレイヤーキャラクターの得手不得手が画一化される傾向にある。(例としては、MMORPGやLeague of Legendsのサポートキャラクターの戦闘能力の向上がある)

そのため、入力に着目したパターンは、出力に着目したパターンよりも、DCG(特にHearthstone型)に向いたパターンと言えるだろう。

Legends of Runeterraのクラス特性

以上のように、TCG・DCGのクラス特性には、

・出力に着目するもの
・入力に着目し、システムで担保するもの
・入力に着目し、カードで担保するもの

の3パターンがある。

これを踏まえて、Legends of Runeterraのカードリストを見てみよう。
(ルールについては過去記事を参照)

画像2

この表は、Legends of Runeterraの各地域(クラス)に割り当てられている条件や効果を一覧にし、関連性のあるものに同じ色のマーカーを引いたものだ。

例えば、シャドウアイルのチャンピオン、カリスタは味方が力尽きることで、ヘカリムはエフェメラルの味方が攻撃することでレベルアップする。

シャドウアイルにはチャンピオン以外にもいたずら者の幻影シャークチャリオットなど類似の条件で能力を発動するユニットがおり、垣間見えた彼岸などの味方をキルするカードや、影の悪鬼(アイオニア)などのエフェメラルユニットが発動に利用できる。

Legends of Runeterraのデータベース構造

表を見ると、

・「出力」が地域によって違う
・チャンピオンの「入力」は、その地域の「出力」で担保されている
・カードの「入力」は、チャンピオンの「入力」と共通している

ことが分かる。
よってLegends of Runeterraは、

・チャンピオンの「入力」、あるいは地域の「出力」を起点とし、
・関連する「入力」「出力」を持つカードを同じ地域に配置
・HearthstoneやShadowverseと比べ、「出力」による定義が厳格
・Magic: The Gatheringと比べ、「入力」による定義を多用

といった特徴を持つゲームだと言えるだろう。

Riotが「チャンピオンの入力」と「地域の出力」のどちらを起点として優先してるかは、データベース構造からは判別できない。

しかし、チャンピオンが他のユニットと比べて強く調整されていることや、デッキ構築時に特別枠を与えられていることから、ゲーム全体としては、チャンピオンを起点としたデッキ構築をさせる意図があるのは間違いない。

また、複数のチャンピオンを起点としているため、1つの地域に割り当てられている入力の要素の数が、HearthstoneやShadowverseより多いのも特徴だ。
(出力による定義が厳格なことは、入力で多くの要素を要求するため、カードプールが圧迫され、多様な出力を設置することが難しいという事情があるのかもしれない)

Legends of Runeterraの拡張性

さて、このようなデータベース構造を持つLegends of Runeterraだが、このデータベースには今後どのような拡張が考えられるだろうか。

TCG・DCGで見られるデータベース拡張法としては主に、

a:ギミックを増やして既存の特性とかけ合わせる
b:全クラス共通の入力を増やして、各クラスに展開する
c:クラス固有の入力を増やす

がある。

Magic: The Gatheringはaを好み()、Hearthstone、Shadowverseはどのパターンも使う。bの例としてメカ、cの例としてクエストがある。

Legends of Runeterraは「出力」による定義が厳格なため、bの採用はHearthstoneよりも難しい。
全クラス共通の「入力」には、全クラス共通の「出力」も必要だ。そのうえ、全クラスで共有される「ニュートラルカード」も存在しない。

また、個々のチャンピオンに着目させる意図を考えると、新しいギミックに注目が集まるaもあまり向いていない。

そのため、当面は地域固有の入力を、「新規チャンピオン」という形で増やすのが、データベース拡張の戦略になる。ただし、入力には出力も必要になるので、まだ入力として活用されていない出力や、地域への割り振りが不明瞭な出力が重要になる。

また、デッキに2つの地域を組み込めるルールを利用して、ほかの地域に展開させるのも有効だ。
「エフェメラル」は入力・出力としてシャドウアイルが利用しているが、アイオニアは出力としてのみ利用している。

このとき、アイオニアが入力としてもエフェメラルを利用したり、エフェメラル以外の要素で多地域展開ができていないものを多地域展開するなど、地域の組み合わせを発達させることは重要な拡張領域になるだろう。

長期的には、出力定義の厳格さを緩め、より多くの地域で同じ出力が使えるようにしたり、まだ使用できる出力を集めて新地域を増やすことが考えられる。

Legends of Runeterraのデータベース構造はほかのTCG・DCGと比べて入り組んでいる。そのため、現状のカードプールがやや窮屈な印象も否めない。これは見方を変えれば、データベースに拡張の余地があるとも言える。
今後、何を緩和して、何を維持するのかが拡張戦略の中で重要になってくるだろう。

いずれにしても、Legends of Runeterraには将来、Magic: The Gatheringとも、Hearthstoneとも違う拡張戦略が必要になる可能性が高い。
そのときRiotがどのような答えを出すのか。2020年早春とされるクローズドベータや、それ以降の展開が今から楽しみだ。

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