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生成AIとゲームデザインについて思ってること

AIに関する専門知識があるわけではありませんが、自分が2023年2月時点で考えていたことを後から振り返るために思ってることをまとめてみます。

ちなみに2021、22年の1月はこんなことを考えていたようです。

上記の記事でも話題になっているように、ゲーム開発にAIが進出してくる(している)ことは数年前から明らかでしたが、現状起こってることは1年前の自分の想像とは大きく違いました。

個別のタスクに特化したAIの実用化が進んでおり、汎用的なAIの実用化は少し先の話だろうというのが去年までの自分の認識です。
例えばTCGの開発で言えば、(狭義の)バランス調整などの具体的なタスクがAIによって解決され、カードデザインなどのやや抽象的なタスクが重要になり、AIによる解決が試みられる…このような流れの中、極めて抽象的なタスク(「なんかいい感じにしといて」)を解決できるAIとして汎用的なAIが存在するというものです。

しかし実際には、TCG・ボードゲーム開発における「デベロップメント(≒ バランス調整)」は進展せず、「デザイン」への活用が急速に進展しています。AIの能力は汎用的であるものの、具体的なタスクに目を向かせるのに人間の手間がかかったり、あるいは専門的なタスクの解決能力がまだあまり高くない状況と言えるでしょう。

今年起こるであろう出来事は、個別タスクの解決に特化したサービスの爆発的な普及です。現状の大規模言語モデルは推論能力らしきものを持っているように見えるため、特定の用途に向けてチューニングしたり、UIを改善することで、具体的なタスクの解決はより高度に、簡単にできるようになるのではないでしょうか。仕事は速いが「ちょっと間の抜けたところがある」現状の汎用的な対話型AIが、具体的・専門的な領域に「下りてくる」だろうと思っています(ここに書いていることが妥当かは全く分かりません。素人なので)。

Unity・Unreal Engineなどのゲームエンジンや、Visual StudioなどのIDEには生成AIが組み込まれるでしょうし、Robloxは既に実装計画を発表しています。
既存の開発環境にAIが組み込まれることで、今でいうAAAくらいのクオリティのタイトルが、ハイパーカジュアルのようなノリで量産される世の中が3年後くらいにやってきている可能性すらあると思っています。

ここで望まれるブレイクスルーは、AIが複数の種類の情報を横断的に理解・出力できるようになることでしょう。

ゲームは様々な要素が組み合わさってできていますが、AIに対して何が必要かを要素ごとに切り分けて文章で説明するのは、端的に言って面倒ですし、難しい作業です。対話型AIはこれまでの会話の文脈を理解し、出力内容を変化させてくれますが、同様にゲームエンジンのプロジェクトを読み込んで文脈として理解して欲しいものです。

現状からはかなり飛躍があるかもしれませんが、こうなるとAIの利用は爆発的に広がるでしょう。いまの延長線上には「ゲームの作り方」を理解している人が、必要な作業を要素ごとにAIに発注し、開発を効率化するという、言わば「ディレクターの能力のエンハンス」があります。
一方、様々なゲームの構造全体を何らかの方法で学習したAIが、必要な要素の切り分けをしていない指示に対応できるようになれば、「ゲームの作り方」の重要性が薄れます。タスクレベルの切り分けを十分行わなくてもいいという点では、「プロデューサーの能力のエンハンス」と言えるかもしれません。

このようにAIが発展するほど、多くの人がゲームを作れるようになるゲーム開発の「民主化」が進みますが、さらにAIが発展するとAIがリアルタイムにゲームを自動生成できる可能性があります。

人間の抽象的な指示によってAIがゲームを出力可能になることで、開発が「民主化」するわけですが、AIとしては人間の指示をもとにゲームを出力するのではなく、人間の行動を指示として解釈することも可能です。
あらかじめゲーム内のコンテンツを作っておかなくても、プレイするたびに新たなレベルを生成する。オープンワールドのゲームであればプレイヤーが近づいた空間に建物を生成し、入った部屋に宝箱を生成し、中身を見たときに中身を詳しく描写することが、AIの生成速度が十分早くなったとき可能なります。こうすることで、コンテンツの量も解像度も無限に高められます。

TikTokは、各動画を視聴している時間などユーザーの行動履歴から、ユーザーに適した動画を自動的に再生しますし、YouTubeも行動履歴から動画をレコメンドします。動画プラットフォームがユーザーにコンテンツを提供する際に参照する物は、ユーザーの指示からユーザーの行動にシフトしており、コンテンツの自動生成が可能になることで、あらゆるエンターテイメントでこのシフト再現されると予想しています。

自動生成ゲームが「面白く」なるためには、どのようなゲームが「面白い」のか、AIが何らかの学習を行う必要があります。単にプレイヤーの滞在時間が最大になるようなコンテンツを生成し続けてもよいですし、カメラやスマートウォッチなどから生体情報を入手することも可能かもしれません。

もし仮にこうなってくると、果たして人間がゲームを作る意味はあるのか?という疑問が生じます。AIが人間の快やプレイ時間を最大化する装置になったとき、人間が作ったゲームをわざわざプレイする人が居るでしょうか?

一つの答えとして、人間にはほかの人間と一緒に遊びたい、共通の話題で盛り上がりたいという欲求があり、その欲求はパーソナライズされた自動生成ゲームでは満たせないという点があります。「いまの時代は配信者がプレイしないと売れない」と言ってる人がたまに居ますが(これが正しいかは別として)、ゲーム実況がこの世に生まれる前から、友達と同じゲームをやりたい人は多かったはずです。

もちろん「友達と同じゲーム」をAIが作っていても問題はないのですが、ゲームの最大の差別化要因が「誰と一緒にやるか」だと仮定すると、ゲームデザイナーの役割は「一緒に遊ぼう」と呼びかける中心になることで、ゲームの提供者のインフルエンサーやコミュニティリーダーとしての側面が重要になる可能性があります。

ほかにも「一緒に遊ぼう」の求心力となるものには、競技環境や歴史だったりキャラクター・世界観IPだったりはあると思いますが、いずれにせよ生成AIによって「優れた」コンテンツを制作するコストが暴落することで、プレイヤーの存在自体の重要さが増し、「歴史」や「共感」の価値が高まるのではないかなと思います。

去年の1月に書いた記事と結論としては変わっていませんが、将来のゲームは「完全にパーソナライズされた自動生成ゲーム」と「(広義の意味で)人と一緒に遊ぶゲーム」に二極化すると思っており、後者の領域はクリエイター・インフルエンサー・アイドルの境界が曖昧になっていると予想しています。

話は逸れますが、昨今話題のAI VTuberは面白い試みだと思いつつ、VTuberやアイドルの世界も「完全なパーソナライズ」と「人と一緒に楽しむ」に二極化する気がしています。VTuberやアイドルの世界にも「人と同じものを楽しみたい」という強者をより強くするネットワーク効果があるためです。「人と一緒に楽しむ」には求心力の中心となる人間が必要なので、メジャー配信者路線では、現行のVTuberやリアルアイドルがAI VTuberに代替されるわけではないと予想しています。

ところで、「人と一緒に遊ぶ」ための他者の存在すらAIが代替可能になったらどうなるでしょうか?(現時点では)肉体を持たないAIにそんなことが果たして可能なのかは分かりませんが、そういう世の中はAIがあらゆる知的活動を代替する世の中になっている可能性が高いので、今から何を考えても無駄だと思っています。あらゆる他者をAIが代替可能な世の中は、いまの世の中と連続した世界ではないでしょう。

人間を上回る汎用人工知能(特に自らを改良することのできるAI)の誕生は世界に危害を及ぼす恐れがあるため慎重に開発すべきと、Chat GPTをリリースしたOpenAIは主張していますが、AIの進歩の速度をコントロールできるということ自体が個人的には疑わしく思っています。なぜなら、汎用人工知能が危険であるということは、軍事目的の汎用人工知能を開発するインセンティブに直結するため、結局は誰かが引き金を引いてしまうからです(これは縁起でもないことですが、AIの研究を抑止したとしても、中台間で有事が発生したときに中国が引き金を引かないとは到底思えません)。

そんなわけで、2030年代はどういう時代になるかまったく分からないと思っているのですが、どうなるか分からない時代を心配してもあまり意味はないので、とりあえず2024年や2025年にこの記事の答え合わせをするのを楽しみに過ごしていこうと思っています。(当たるか当たらないは別として、未来予測をブログやTwitterに書くと、現実のニュースをギャンブルとして楽しめるようになるのでオススメです。)

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