見出し画像

デジタルカードゲーム時代にデッキ構築を面白くする手法を考える

デッキ構築はTCGの中心的な要素でしたが、インターネットやSNSの普及、TCGのデジタル化によって存在感が薄れつつあります。

この記事では現代のデッキ構築が置かれている問題と、DCG開発会社が試みた対処法を分析し、新しい対処法を提案します。

対人ゲーム3要素の1つ「研究」

前回の記事では対人ゲームの3要素のうち「技術」と「意思決定」を取り上げた。

画像1

今回は「研究」、その中でもTCGの象徴である「デッキ構築」について掘り下げたい。

元来TCGはデッキ構築の「研究」と試合での「意思決定」が中核のゲームジャンルだったが、デジタルカードゲームHearthstoneの登場以降、意思決定ではなく「技術」を軸としたゲーム観を持つ派閥が台頭し、ゲームデザインに影響を与えている。

同じくTCGの中核だった研究もカードゲームのデジタル化によって大きな影響を受けている。強力なデッキが瞬時に広まり、他のデッキは強力なデッキに太刀打ちできない…コピーデッキがオリジナルデッキを駆逐し、デッキ構築の楽しみを損なう現象が発生しているのだ。

研究はトップ以外の価値が低い

もともと研究はコピーされやすい領域だ。技術や身体能力はコピーできないが、研究は成果を見聞きすれば容易に再現できる。再現性のない研究成果に価値はない。

そのため技術や身体能力と比較して、研究はトップ以外に価値が生まれにくい。これは現実世界を見ても明らかで、「普通の人より力が強い」ことには価値があるが「普通の人より詳しい」程度の詳しさは研究機関において価値がない。100m走に銀メダルはあるが、特許に銀メダルはない。

同様に、TCG・DCGの世界においても「普通の人より上手いが、世界で一番上手くはない」人は「上手い人」だが、「普通の人が一から組むより強いが、世界で一番強くはない」デッキは「弱いデッキ」である。

インターネットやSNSの普及に伴い、この傾向は一層強まっている。情報の伝播速度が上がりトップ層の研究成果を多くの人が知っている。このことはトップ以外の研究成果の価値が下がる、つまりオリジナルデッキが勝てなくなることを意味する。

研究はニッチが価値を持ちやすい

一方、ニッチなテーマでは研究は技術より価値がある。興味を持つ人が少なく役に立ちそうにないことでも、世界で誰も知らなければ論文として成立するが、実用性も人気もない技術に秀でていても誰も注目しない。

よって技術志向のプレイヤーはメジャーなゲームを好むのに対し、研究志向のプレイヤーはマイナーなゲームを好む傾向がある。もちろんメジャーなゲームにも研究志向のプレイヤーは生息しているが、それはトップの競争に参加する層が大半で、「カジュアル研究勢」はメジャーなゲームに息苦しさを感じることが多い。

メジャーなゲームにおける研究の息苦しさは、カードゲームのデジタル化によって強調されている。紙のTCGであればプレイの場を仲間内に限定できるのでオリジナルデッキを披露する機会がある。

しかし、DCGはランクマッチなど統一された場での無作為なマッチングを前提としているため、コピーデッキを避けてゲームをすることが難しい。メジャーなDCGにおける研究は「トップ争い」を意味し、競争の緩い逃げ場が存在しないのだ。

デジタル化による研究の加速

また、カードゲームのデジタル化および、インターネットやSNSの普及はトップ層の研究も変質させた。

紙のTCGにおいて研究成果を検証する場は希少だった。競技的な大会は稀にしか開かれないし、仲間内での検証はサンプルが少なくバイアスが強い。統計も不十分だ。

それに対し、DCGでは24時間ランクマッチがプレイ可能で、強力なデッキ情報がSNS上で絶えず公開される。拡散されたデッキ情報はすぐさまほかのプレイヤーに検証され、自然淘汰により本当に強いデッキが生き残っていく。

極め付きはトラッキングツールと戦績統計サイトの存在で、あらゆるデッキの勝率をリアルタイムに確認できる。TCGはおぼろげな勝率を開発会社が把握することすら大変だが、メジャーなDCGは一般のプレイヤーが詳細な勝率を即座に把握できる。

TCGでは研究・メタゲームが競技大会を軸に断続的に進むのに対し、DCGでは連続的に研究・メタゲームが進むと言えるだろう。カードゲームのデジタル化によってトップ層の研究速度は劇的に上がり、コンテンツが研究され尽くされるまでの賞味期限は短くなった。

研究の「相対的な速度差」と「絶対的な速度」

ここで注意すべきは「カードゲームのデジタル化によるデッキ構築の面白さ衰退」には2つの面があることだ。

・情報の伝播速度が上がり、プレイの場が統一されたことで、研究の「相対的な速度差」から逃れられなくなった
・プレイ機会、統計の充実、伝播速度の上昇によって研究の「絶対的な速度」が向上した

上記の「相対的な速度差」と「絶対的な速度」は異なる問題であり、デッキ構築を「多くの人」が「より長く」楽しむためには、どちらも解決する必要がある。

ケーススタディ:デッキ構築再興のための試み

以上を踏まえ、デッキ構築の面白さを再興させるためDCGの開発会社が試みた施策を見ていこう。

・カードの入手速度を減速させる
Riot GamesのLegends of Runeterraはカードパックの販売を行わず、カードの入手方法を制限することで、研究の減速を試みた。

よりよいカードゲームをつくる:カードの入手システム
「全カードをアンロックする」という選択肢があったとしましょう。カードをすべて取得できれば実験できることは山ほどありますが、新しいカードを発見することはもうありません(すでに全カードを入手しているので)。そして厄介なことに、「全カードをアンロックする」という選択肢があることによって、そうしない人の実験期間もまた短くなります。誰かが全カードをアンロックしてカードの組み合わせをすべて解明した時点で全員がメタの最終形態を知ることになり、新たなカードセットがリリースされるまでそのメタが続いてしまうからです。
https://playruneterra.com/ja-jp/news/yori-yoi-kado-gemu-o-tsukuru-kado-no-nyushu-shisutemu

この施策の問題は、カジュアル層や新規参入者に大きな影響を及ぼす反面、トップ層への効果が薄いことだ。

カードのアンロック方法が長時間のプレイならトップ層はすぐさま全カードをアンロックするが、カジュアル層はカードをアンロックできない。カジュアル層がデッキ構築を楽しめない状況は変わらないどころか悪化している。

また、カードの入手ペースに上限を設け、アンロックに一定以上の期間を必要にした場合、多くのプレイヤーが研究にカード資産を投資することを躊躇するようになる。トップ層の研究速度を鈍化させる効果はあるものの、デッキ構築を楽しむ本来の目的からは遠ざかっている。

このため、Riot Gamesはカードの入手制限を緩和し、お金によるカードの無制限なアンロックを解禁した。

・新規カードを頻繁に追加する
カードを頻繁に追加することで研究をリセットする施策は、多くのDCGが採用している。

Shadowverseのアディショナルカードや、Hearthstoneのアドベンチャーはカードを頻繁に追加する仕組みだし、Legends of Runeterraもカード追加のスケジュールを変更し、より頻繁にカードが追加されるようにした。

この施策はトップ層の絶対的な研究速度に対しては有効だが、カジュアル層とトップ層の研究速度の差には効果がない。
また、トップ層の絶対的な研究速度に対しても、3か月中2週間の研究が1か月になる程度の効果しかなく、デジタル化による研究速度の向上には釣り合っていない。

・カードを頻繁に変更する
カードの効果やパラメータをリリース後に変更できるDCGでは、たびたびカードの変更が行われる。この施策もカードの追加と同様に、絶対的な研究速度に対して若干の効果があるが、相対的な研究速度の差には効果がない。

この施策にはリスクがある。DCGのプレイヤーにはデッキ構築をしたくない層(コピーデッキだけを使う層)が少なからずおり、そのプレイヤーはデッキの組みなおしやカードの収集を負担に感じる。頻繁にカードが変更されるとゲームから離脱する恐れがあるのだ。

研究課題を提供するためだけにカード変更を行うのは得策ではない。カードの追加や変更はプレイの新鮮さの維持や、ゲームバランス改善のために運用するのが妥当だろう。

・デッキオリジナリティボーナス
最後にユニークな施策を紹介しよう。SEGAのCODE OF JOKER(サービス終了済)には、デッキオリジナリティボーナスというシステムがある。

これは、一定期間ごとにカードの人気度に応じてポイントが割り振られ、人気のない(使用率の低い)カードを使用するほど、ランクマッチで勝利時に得られるポイントが優遇されるシステムだ。

このシステムも、カード変更施策と同様にプレイヤーに負荷をかけてしまう。CODE OF JOKERは速い判断や操作が要求される「技術」面の負荷が強いゲームなので、研究面で強い負荷をかけるのはリスクが高い。
また、この影響でランクマッチのポイント増減が過剰にシビアになるなどの問題もある。サーバーのログを参照して機械的に何らかのパラメータを変更する点は独創的かつ興味深いが、仕様全体について筆者は高く評価していない。

ちなみにこのシステムはSEGAが特許を取得しており、他社の導入は難しい。

デッキ構築排除のトレンド

このように従来の施策は「トップ層の研究速度が上がり、コンテンツの賞味期限が短くなった」問題に焦点が絞られており、「相対的な速度の差から逃れられなくなった」問題の対処はされていない。

また、トップ層の研究速度向上に対しても効果は限定的で、DCG開発会社はいずれもデッキ構築の面白さを再興できてないと言える。

DCG開発会社が取り組んでいるのは、むしろデッキ構築を不要にする施策だ。デッキリストのインポート・エクスポート機能はどのDCGにも搭載されているし、Shadowverseでは大会上位のデッキをアプリ内のみでコピーできる。Hearthstoneも機械学習を用いたデッキ構築サポート機能を実装した。

このことは元来TCGに必須だった研究要素を求めていない層の拡大を示すもので、これらの施策によってコピーデッキの割合はさらに増加すると思われる。今後もTCG・DCGから研究要素が減少するトレンドは続くだろう。

必要なのはニッチの提供

それではデッキ構築の面白さを求めるプレイヤーに対し、メジャーなTCG・DCGがすべきことは何か。筆者はニッチな研究環境の提供だと考える。

特にDCGでは、デッキ構築の創意工夫は楽しみたいが激しい研究競争に加わるほどの熱意はない「カジュアルな研究」の需要は一貫してくみ取られてこなかった。マイナーなDCGが選好される理由も「xxxxはテンプレデッキばかりでつまらない」など、メジャーなDCGの研究環境への不満が少なくない。

紙のTCGであれば、仲間内ではコピーデッキを使わないなどカジュアルに遊ぶことが可能だし、Magic: The Gatheringの統率者戦などカジュアルなデッキ構築に特化したレギュレーションも存在している。
一方DCGでは、ランクマッチをいつでも遊べる反面コミュニティの形成が難しく、コミュニティに所属してるのは競技志向の強いプレイヤーが多い。カジュアル層が研究に取り組む場が存在しないのだ。

画像3

DCGの研究・デッキ構築に必要なのは、カジュアル層が研究に取り組めるニッチな、競争の緩い研究環境であり、ゲームシステムやコミュニティマネジメントを通じて創出する必要がある。

ニッチな研究環境を作る「パラレルワールド」

ニッチな研究環境を提供する施策を具体的に考えてみよう。筆者のアイデアは以下のシステムだ。

パラレルワールド
・カードプールや初期体力などを一定の範囲内でランダムに設定したレギュレーションを制定する(これを仮にシャードと呼ぶ)
・設定の異なるシャードを100個程度生成する
・プレイヤーはシャード#00からシャード#99まで好きなシャードでランクマッチ、ルームマッチをプレイすることができる
・シャードは最短1か月、最長新製品のリリースまで持続させる

メジャーなDCGの環境を小分けにしてマイナーにするシステムで、頻繁なカード追加や変更が時間という縦軸を分割する施策とすると、パラレルワールドは環境という横軸を分割する施策と言える。

画像2

ランダムなシャードのゲームバランスは通常のレギュレーションより悪いだろうが、ゲームバランスの悪さが研究面に及ぼす悪影響は賞味期限が短いことなので、十分な数のシャードがあれば悪影響は緩和される。
(研究志向のプレイヤーはゲームバランスの悪さを自ら証明することを好むので、ゲームバランスの悪さにも良い面はある)

パラレルワールドの課題

すぐに思いつくパラレルワールドの課題・問題点を列挙する。

・適切なシャードの数は?シャードが少なすぎると研究環境がニッチにならないが、多すぎると個々のシャードが過疎になりゲームがプレイできなくなる。「適切なシャードの数」は存在するのか。

・環境を分割してニッチにすることで、研究競争を緩和しカジュアル層の研究余地を残すことを想定しているが、本当に機能するか。トップ層がすぐに全てのシャードを制圧してしまわないか。

・カードプールの設定ルールは。使用率などサーバーログの何かを参照すべきか。どの程度の割合でカードを間引くのか。

・カードをランダムに間引いたときに、カードの間引きに耐性の低いデッキタイプ(例えばコンボデッキ)が一様に消滅し、多様性やゲームバランスに悪影響を与えないか。

これらは難題だが、興味深い調査対象でもある。

・マッチングの品質が許容範囲内に収まる最小限の人口は何人か
・プレイヤー数によって研究速度はどのような影響を受けるのか
・様々な「バランスの悪い」カードプールが、どのようなメタゲームを形成するか

また、過疎の問題はコミュニティ施策によって緩和できる。シャードを起点としたコミュニティ形成を促進することで特定のシャードの人口を増やせるし、コミュニティ形成の仕方によってはコア・カジュアルの棲み分けも可能かもしれない。

プレイヤーによるコミュニティ形成はゲームの運営上非常に重要なので、パラレルワールドをコミュニティ形成施策として捉えるのも面白い。(概してマイナーなゲームのプレイヤーは連帯意識が強い)

パラレルワールドによって分かること

前述の「適切なカードプールの設定ルール」の課題は、特に興味深い。

パラレルワールドでは多くのシャードが一斉にプレイ可能になるが、人気や研究の進み方はシャードによってまちまちだろう。つまり、シャードの人口やメタゲームの推移を見守ることで、どのようなカードプールが望ましいのか調査することができ、場合によっては定量化できる可能性がある。

また、ゲーム内でアンケートを実施しプレイログと対照することで、カードプール・得られた体験・実際の行動の3つを結び付けたサンプルを収集できる。この規模の調査はTCG・DCGの歴史上存在しない。

「カードプールの設定ルール」は調査によって得られた知見から洗練できる上、この知見は製品全体の開発にも大きな威力を持つ。実験としては1つのシャードをプレイヤーに強制的に割り当て、割り当てられたシャードのみをプレイ可能にする方が望ましいが、面白くない可能性が高いので避けるべきだろう。

まとめ

・TCGのデジタル化によってデッキ構築の存在感が薄れている

・存在感の低下には「トップ層の研究速度が上がり、コンテンツの賞味期限が短くなった」問題と「カジュアル層が相対的な速度の差から逃れられなくなった」問題がある

・DCG開発会社の対策は前者を焦点としており、後者の対策はされていない

・後者の対策にはゲームシステムやコミュニティを通じたニッチな研究環境の創出が必要

・ニッチな研究環境創出のアイデアとして、ランダムなカードプールを大量に並列に設置する「パラレルワールド」を提案

今回検討した「パラレルワールド」は、正直に言って面白いか分からないアイデアだ。しかし、カードゲームのデジタル化に伴うデッキ構築の衰退は、多くの開発会社が対処を試み十分に解決できていない課題のため、解決には突飛な方法が必要になると思われる。

筆者は「ニッチの創出」にDCGの未開拓領域があると考えている。ニッチを創出するアイデアがあれば是非、議論してもらえれば幸いだ。

-----------------------------------------------
(気に入っていただけたらSNSなどで拡散いただけると嬉しいです!)

(2021年1月19日追記:カードプール自動生成の発展形を書きました)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?