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Magic: The Gathering vs Hearthstone ゲームデザインに潜む2つのゲーム観

TCG・DCGの世界にはMagic: The Gatheringを始祖とするギャンブラー的ゲーム観と、Hearthstoneを始祖とするアスリート的ゲーム観があり、両者の違いはゲームデザインのあらゆる部分に影響を与えています。

興味深いことに、この違いはTCG・DCGのプレイヤーやデザイナーの間でも十分に言語化されておらず、整合性のない設計によってプレイヤー体験が悪化する事例が見られます。

この記事では2つのゲーム観を比較し、実際のカードデザイン事例と照らし合わせることで、その特徴を紐解きます。

対人ゲームの3要素:技術、意思決定、研究

TCGがどのようなゲームか考えるにあたって、まずは対人ゲームに含まれる要素を整理しよう。

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この図は、対人ゲームで要求される能力を3つに分類したものである。

素早く正確な操作や、計算を行う「技術」、
未知の状況や不確定な情報に対する判断を求める「意思決定」、
事前の調査や分析によって正解を探す「研究」、

あらゆるジャンルの対人ゲームは主にこの3つの能力を要求される。
しかし、どの能力が強く要求されるかはジャンルによってまちまちだ。

FPSは射撃する「技術」が第一に求められるし、格闘ゲームは対戦相手とのかけ引きでの「意思決定」の要素も強い。アクションとストラテジーが融合したMOBAは、3種全てがバランスよく要求されるジャンルと言えるだろう。

TCGは意思決定と研究のゲーム

Magic: The Gatheringを始祖とするTCGは、意思決定と研究を重視するジャンルとして生まれた。
試合中に発生する対戦相手とのかけ引きは意思決定の領域だし、事前に行うデッキ構築は典型的な研究行為だ。この記事ではTCGの主要素「意思決定」「研究」のうち「意思決定」に着目したい。

意思決定は未知の、不確定な状況への対応力を問う領域だ。既知の状況が繰り返されたとき、そこに考えるべき問題は残っていない。そのため、発生する状況は毎回変化するのが理想である。これは「ゲーム展開に多様性が必要」と言い換えることもできる。

対戦相手の行動や心理は常に未知であり、幅広い多様な展開を提供してくれる。非公開情報の推測など対戦相手との心理戦は、カードゲームやボードゲームの醍醐味だ。

意思決定は相互干渉を求める

このとき、対戦相手との心理戦を楽しむには、対戦相手の行動や手札が自分の行動に影響を与えうる必要がある。対戦相手が何をしようと関係ないなら対戦相手のことを考える必要はない。プレイヤー同士が相互に干渉し合えることがやり取りを生み、心理戦を生む。

Magic: The Gatheringのゲームシステムに目を向けると、ユニット同士の戦闘について決定権があるのは攻撃側ではなく攻撃された側で、スペルに対しても別のスペルを割り込ませて対応することが可能だ。
Magic: The Gatheringは受動的な行動が可能なシステムになっており、プレイヤー同士の相互干渉を奨励していると言えるだろう。

受動的な行動の重視はシステムだけでなく、ゲームバランスにも当てはまる。能動的な勝利手段であるユニットと、ユニットを排除するため受動的に使われるスペルを見たとき、Magic: The GatheringはHearthstoneより効率的にユニットを排除できる(受動側が能動側より有利になっている)。
また、手札破壊や打消しなど相手の行動を直接妨害する手段はHearthstoneにはほぼ存在しない。

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意思決定はランダムを求める

Magic: The Gatheringはプレイヤーに意思決定を要求するため、受動的なシステム・バランスを持っている。この受動・能動のバランスはゲームのランダム性の強さにも影響を与える。

ランダム性は意思決定に必要な「未知の状況」「多様な展開」をつくる強力な要素だが、プレイヤーはランダム性を感じすぎるとゲームに対する意欲を失う(運ゲーだと感じる)。
ここで対戦相手との相互干渉(受動的な要素)が役に立つ。相互干渉はそれ自体が未知の状況を生み出すだけでなく、ランダム性の悪影響を緩和し、強いランダム要素を搭載することを可能にするのだ。

受動側が有利であればあるほど、プレイヤーが許容するランダム性は強くなる。ランダム性によって発生した有利を、受動側の有利によって相殺できるからだ。受動側の有利にはゲームを均衡させる力があり、ランダム性だけによってゲームが決着することを防止する。

多くのボードゲームにサイコロなどのランダム要素が搭載されているように、ランダム性は相互干渉と共に意思決定ゲームの中核だ。TCGには強いランダム要素である「山札」があり、受動的なゲームシステムと一体となって、意思決定ゲームとしてのTCGの根幹をなしていると言えるだろう。

Hearthstoneの革命:相互干渉の削減

このように、従来のTCGは相互干渉とランダム性を軸とする意思決定のゲームという側面が強い。ところがこの構造を大きく変え、TCGの世界に革命を起こすゲームが現れた。デジタルカードゲームHearthstoneである。

Hearthstoneの特徴は相互干渉の余地を大幅に縮小したことだ。Magic: The Gatheringと違い、対戦相手のターン中はいかなる行動もできない。そのため、ユニット同士の戦闘は攻撃側が全ての決定権を持ち、スペルに対して割り込むこともできない。
ゲームバランスも前述のとおり能動側が有利なバランスになっている。

相互干渉の減少は以下のようなメリットをもたらした。

・UI / UXの改善。デジタル端末では煩雑な行動権のやり取りが撤廃された。
・ゲーム時間の短縮。能動的な行動が強くなり、ゲームの決着が早くなった。
・ゲームの簡略化。抽象的な思考を要求する読み合いがなくなり、ゲームの敷居が下がった。

Hearthstoneの革命:ランダムの削減

また、HearthstoneをMagic: The Gatheringと比較したときの、もう1つの特徴がランダム性の低さだ。

Magic: The Gatheringのマナシステムは手札からマナ生成用のカード(土地)をプレイすることでマナを増やしていく。山札から土地を引けなければマナを増やすことはできない。一方、Hearthstoneは何もしなくても毎ターン1つマナが増えていく。

マナはどのくらい強力な行動をとれるか決める値なので、この差は非常に大きい。

多くのTCGは使用できるマナをターンの経過に応じて増やすことで、強力な行動をゲームの進行に応じて解禁していく。このターンと行動の強さの結びつきが一定かつ強固なのがHearthstoneで、ランダム性によって変化するのがMagic: The Gatheringなのだ。

このランダム性はMagic: The Gatheringの受動的なバランスがあって搭載可能になるもので、能動的なHearthstoneで採用されなかったのも必然だろう。

Hearthstoneにもランダム性のあるカード(効果に「ランダム」と書かれたカード)は多く存在するが、支払ったマナに対する効果の大きさが変動するカードは稀で、ランダムなカードを手札に加えたり、同じコストのカードからランダムで1枚を場に出すなど、マナと行動の強さのバランスが崩れないものがほとんどだ。

DCGは「技術」のゲームへ

Hearthstoneは相互干渉とランダム性を削減し、意思決定を簡単にした。それでは、Hearthstone以降のDCGがシンプルな反面底の浅いゲームかというと、そうではない。

意思決定ゲームは未知の状況に対峙する力を問うゲームで、繰り返される既知の状況は力の差の出ない簡単な選択と見なされる。しかし、単体で見たときに簡単な選択であったとしても、多くの選択が短時間に現れるとすればどうだろうか。

これはまさに「技術」の領域だ。FPSにおいて「クリック」という誰でもできる簡単な動作を速く正確に実行することが価値を持つように、時間をかければ簡単な選択であっても、短時間のうちに多く正確に処理することは容易ではない。

例として、以下のTweetに添付されている動画を見ていただきたい。

Hearthstone以降のDCGは1ターンの時間制限内に多くの選択や行動を要求することで、プレイヤーに頭脳的な技術を要求する傾向がある。
相互干渉とランダム性の削減によって失われるゲーム展開の多様性を、時間制限の厳しさと選択の物量で補っているのだ。

ケーススタディ:DCGの技術要求カードたち

それでは実際のカードとともに、技術を要求する方法を分類していこう。

・モードを選択させる
Hearthstoneの選択、Shadowverseのチョイス、エンハンス、アクセラレートなど複数の効果やコストから1つを選ぶカードは、使用モードの選択を発生させる。

また、デッキ内の同じコストのカード数を増やすことができるのでランダム性の軽減効果もあり、同じコストのカードのうちどれを使用するかの選択も生み出すことができる。

・山札から多くのカードを引く
大量のカードにアクセスすることによって選択が増える。この方法にも試行回数の増加によってランダム性を低下させる効果がある。

また、ターン途中のドローは選択肢をターン途中に変化させるため、時間制限を強調することができる。

・カードを生成する
山札からカードを引くのと同様に、トークンカードを生成して手札に加えるカードにも選択を増やす効果がある。

このとき、加わるカードが固定されているものと、ランダムなものがある。加わるカードが固定されているタイプは、加わるカードのコストを軽くすることによって選択が発生する機会を増やすことができる。

ランダムなカードを加える場合、山札からカードを引くときと同様にターン中に選択肢を変化させる効果がある。

・四則演算をさせる
選択を増やすだけでなく、ダメージが変化するカードを複数回使用させるなど単純計算によってプレイヤーに負荷をかけ、時間制限を強調することも効果的だ。

・システムで選択を提供する
Hearthstoneのヒーローパワー、ドラゴンクエストライバルズのテンションスキルなどプレイヤーキャラクターのスキルは、常に使用できる選択肢を提供し、ランダム性の軽減効果もある。

また、コイン、まほうのせいすいなど後攻側に与えられるマナを一時的に増やすカードにも、選択を増やしランダム性を軽減する効果がある。

2つのゲーマー像「ギャンブラー」と「アスリート」

以上のように、現代のTCG・DCG観には「相互干渉」「ランダム性」を軸とした意思決定ゲーム観と、「時間制限」「選択の量」を軸とした技術ゲーム観が存在している。どちらのゲーム観に共感するかは人によってまちまちで、異なるゲーム観がTCG・DCG界の中で入り混じっていると言えるだろう。

ここで意思決定派閥に「ギャンブラー」、技術派閥に「アスリート」という2つの人物像を設定し、両者を比較してみよう。

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不確かな状況と対峙することを好む「ギャンブラー」と、フェアな状況での再現性に価値を見出す「アスリート」の対比がお分かりいただけただろうか。

ゲームの行方を左右する重要な選択(分岐点)が、明示されているべきか、他の選択に紛れて分かりにくくなっているべきかもゲーム観に左右される。意思決定は自覚的に行うものなので、ギャンブラーは意思決定のタイミングが分かりにくいことを嫌う傾向がある。(そのためCivilizationなど近年のストラテジーゲームは「秘書官」が選択を迫るなど、選択タイミングを強調する演出がある)

一方、アスリートは重要な選択に気づく能力は練習によって向上可能と考えるので、重要な選択が分かりにくくなっていることを不親切ではなく、向上余地と考えるのだ。

また、反復練習を好むのもアスリートの特徴で、デジタルカードゲームにつきものの「ランクマッチ」を好むかどうかもゲーム観に影響される。多くの時間が必要なランクマッチを「時間の無駄」と嫌う人は、ギャンブラーの多いアナログカードゲーム出身者に多いと思われる。

意思決定 or 技術とランダム性の多寡を整合させよう

ここまで見てきたように、TCG・DCGのゲームデザイン方針において、

・受動的か / 能動的か
・ランダム性を増やすか / 減らすか
・選択の質か / 量か

のバランスは互いに結び付いており、正しく組み合わせる必要がある。

整合性のない組み合わせがされるとプレイヤーから「つまらない」という反応が返ってくる。このときは変化させた箇所を個別に見るだけでなく、ゲーム全体が「ギャンブラー」側か、「アスリート」側か、プレイヤーはどのちらの視点から発言しているかなど、いくつかの要素を複合的に見ることで問題点をより正しく理解することができるだろう。

ケーススタディ:整合性のない事例

最後にケーススタディとして、整合性のない組み合わせによってプレイヤー体験が悪化したと思われる事例を見ていこう。

・相棒
Magic: The Gatheringは能動的かつ複数の選択肢を持つプレインズウォーカーの登場や、除去スペルの段階的な弱体化、2015年、2019年のマリガンルールの変更によるランダム性の低下など徐々にギャンブラー型からアスリート型へのシフトを行っていたが、2020年にランダム性を大きく下げるシステムが登場した。

「相棒」はデッキ構築時に一定の条件を満たすと、山札から引かなくてもプレイすることができる能力だ。

この能力はTCGの礎である山札のランダム性を大幅に軽減するシステムだが、あまりに作用が大きすぎた上、選択の量を増やすなどゲームの多様性を確保する手段が伴っていなかったため「ゲームが単調になる」などの批判が相次ぎ、能力自体が変更されることになった。
(バランス調整目的での能力の変更はMagic: The Gathering史上初めてだ)

デジタル版のMagic: The Gathering Arenaがリリースされ、デジタルゲームと相性の良いアスリート型へのシフトを進める意図は理解できるが、このような大幅なシフトは関連する多くのカードやルールを動員して行うもので、単一のシステムによって一部だけを変更することは危険だ。

・タスカーのトーテム師
Hearthstoneのランダム性のあるカードはマナと行動の強さのバランスが崩れないものが多いが、この法則に当てはまらない「強いランダム性」を持つカードは不快な体験を引き起こしがちだ。

タスカーのトーテム師は3コストで、2コスト相当のユニットとランダムなユニットを場に出すカードだが、場に出るランダムなユニットは1コスト相当のものから3コスト相当のものまであり、どのユニットが出るかが勝敗を大きく左右していた。

Hearthstoneのような能動的なゲームでは、序盤の強いランダム性を跳ね返すことが難しく、運ゲーだとプレイヤーに感じさせやすい。結果、このカードは1コスト相当のユニットしか出ないよう変更された。

・フラウロス
ShadowverseもHearthstoneと同様に、ターンと行動の強さの結びつきが固いゲームのため、強いランダム性は不快感を引き起こしやすい。

フラウロスは運が良ければ1ターン目に場に出る3コスト相当以上のカードだった。このカードは「3ターン目以降にしか場に出ない」というターンと行動の強さを直接結び付ける変更がされた。

・地底の大洞窟
Hearthstoneの「クエスト」は必ず初手に来るカードで、ゲーム中に一定の条件を満たすと強力な効果を発動する。低いランダム性はアスリート型のゲームの特性に合致しているが、「相棒」と同様に必ず使用できる能力は影響力が強く、導入には慎重を期す必要がある。

特にクエストの達成条件が対戦相手の妨害を受け付けず、効果がゲームの勝敗を決めるほど強力なとき、対戦相手とのやり取りがほぼなくなってしまう。このような高すぎる能動性(少なすぎる相互干渉)は対戦相手の選択の量を減らしてしまうため、アスリート型のゲームにとっても望ましくない。

地底の大洞窟はまさにその特徴を持ったカードで、プレイヤーからの評判が悪く、2回の変更がされることになった。

「相互干渉がほとんどない」状態は能動性が著しく高く、その分多くの選択を双方のプレイヤーに提供する必要がある。またHearthstoneの「クエスト」、Shadowverseの「直接召喚」など確実に使用できるカードはランダム性が著しく低く、この場合も多くの選択を提供する必要がある。
この2つの特性が合わさったとき、釣り合うほど選択の量を増やすことは困難だ。

相互干渉やランダム性の少なさはアスリート型のゲームの特徴だが、地底の大洞窟は相互干渉やランダム性が「存在しない」状態には問題があることを示す事例と言えるだろう。

まとめ

・対人ゲームには「技術」「意思決定」「研究」の3要素がある

・従来のTCGは「意思決定」と「研究」のゲームで、意思決定は「ランダム性」と「相互干渉」を軸としていた

・Hearthstone以降のDCGはランダム性と相互干渉を削減し、「時間制限」と「選択の量」によって「技術」を要求した

・ランダム性、相互干渉、選択の量は互いに結び付いており、整合性のある設計が必要

以上のようにTCG・DCGの世界には「ギャンブラー」と「アスリート」2つのゲーム観が混在している。この考え方はローグライク、オートチェス、格闘ゲームなど意思決定が問われるとされる多くのジャンルでも有用だと思われる。

このほか「研究」要素のトレンドや、「技術」などの各要素をどのように要求するのが面白いかなど今回触れなかったテーマもあるので、そちらについては記事を改めてまとめていきたい。

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(関連記事)
アスリート型のゲームの特徴である「行動回数の多さ」「ランダム性の低さ」がデジタルと相性が良いことを書いてます。

今回は取り上げなかった「研究」や「複雑さのコスパ」について触れています。今回の記事は、この記事と「ランダム性」を組み合わせて考察したものです。

(2021年1月1日追記:「研究」要素と、ほかの要素について書きました)

(2021年5月3日追記:ランダム性とバランス調整の関係を書きました)


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