”カルチャード・パール”というカルチャーについて
(ヘッダー画像は、日本経済新聞2021年1月21日https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN20DPC0Q1A120C2000000?fbclid=IwAR2wWHgACSO0SmBlU7_0nPXb1rpQ5kKZQl4OZLpZFdc7pbIOJkx5LDSE_lo )
冒頭からダジャレですいません。
昨日、日本真珠振興会のパールエキスパート(シニアアドバイザー以上)のオンラインミーティングに参加してきました。
今回はそのリポートや考えたことを共有していきます。
【第1部 SA会員の実践報告】
「スタッフにプライドと自信を与えてくれた」
スピーカー:菅野 浩一さん
有限会社カンノ時計店
MCは、JCバールの嶋直樹さん(SP)です。
菅野さんのお店では、全従業員が真珠検定を取得したことで、真珠に関する説明を自信をもってできるようになったとのことです。
また、SAのイベントで現地視察をして、DMなどでお客様に伝えることができるようになったことや、はじめての真珠講座をスタッフが担当するためにプロ意識がでてきた、回数を重ねるとしゃべりも上手になってきたというお話がありました。
さらに、真珠検定のSA以上に合格すると、「はじめての真珠講座」パッケージを貸し出しをうけることができ、すぐにはじめて講座を自店で開催することができるという特典があるのですが、地域の街ゼミなどとコラボすることで、これまでの常連ではない新規のお客様とつながったというお話をされていました。
【第2部 グループセッション】
後半では、グループ別に分かれて、ディスカッションを行いました。
やはり真珠検定がオンラインで受講できるようになったことで、従業員が出張費を気にせず合間時間に勉強できるようになったことなど振興会検定委員会の取り組みに感謝する声も多く聞かれました。
また、これからどういって真珠を売っていくのがいいか?については、
・冠婚葬祭のイメージをどう崩していくか
・どうやって単価を上げていくか
などについて議論がなされました。
【私が最近考えたこと】
私は販売の現場に立っていないので、業界のことわかっていないということを最初に謝っておきながら、次のようなお話をさせていただきました。
よく、「若い人は真珠つけてくれない、アクリルパールや、ひどいときはコットンパールのアクセサリーなんかつけている」、という意見を真珠ジュエラーの方から聞くことがありますが、それって的外れじゃないかと思うんです。
だって、真珠の連のネックレスなんて高いもの日常使いできるほどふつうの20代30代はお金ないし、そもそも真珠を身に着けるというカルチャーがないのだから。
上の意見が根本的にまちがっているのは、本真珠VSアクリルパールやコットンパール、という競合対立の構造で考えているからです。単純にいうと、自分たちだけが儲かろうと考えているんです。
自社の売上げとか、どうやって単価を上げていくか、もちろん大切なのですが、そもそも身を飾るという装飾文化そのものを醸成していかなければいけないと思うのです。
いくら「二十歳の真珠キャンペーン」広告をうって、成人祝いに単価高い連が売れたって、そのあとタンスにしまわれて冠婚葬祭しか身に着けなかったら意味なくないですか?
そもそもジュエリーを着けていく場所がない、という声も聞きます。
一日中家にいるだけでも、朝起きてシャワーをして、香水をつけたら、最後にパールを身につけたら一日がはじまる。たとえずっと家にいるとしても。
そんなカルチャーを育むような努力をしなければならないと思うんです。
本真珠がアクリルパールにとってかわられたというわけではないのではないでしょうか。そもそもパールを身につけるという習慣やファッションがない、というのが原因なのです。
10代の頃にコットンパールのハンドメイドアクセサリーが好きだった人は、そのうち本当の貝の真珠層がきれいだなと思ってくれるし、ふだん淡水パールアクセサリーを使っている人は、いつかベストオブザベストのネックレスがほしいと思うのではないでしょうか。
【これからの真珠カルチャーをどう育むか】
その昔、かの御木本幸吉翁は、明治天皇に向かって、
「世界中の女性の首を真珠でしめてご覧にいれます」
と言ったという逸話があります。たしかに日本の養殖真珠の功績はすばらしいものがありますが、まだまだ「世界中の女性の首をしめて」いる状態とはいえないかなと思います。
これまで花珠鑑別だなんだって、素材価値と値段のことばかりではなく、もっと「みんなが真珠身に着けて一日幸せな気持ちですごせた」という体験をふやしていくようにしなければいけないと思うのです。
そして、興味深いトレンドもあったので、紹介したいと思うのです。
1つは、2021年1月20日に、カマラ・ハリス米副大統領の就任を祝うため、彼女のトレードマークである真珠を身に着けようというFacebook上のよびかけに、世界中で46万人以上の女性が参加した、というニュースです。
上のNYタイムズの記事中では、発起人である元海軍長官のホープアロアイさんの言葉が紹介されています。
「私は目を覚まし、カマラハリスを祝うだけでなく、私たち自身も女性として集まる必要があります。 」
現代のサフラジェット運動のアイコンという意見も聞かれそうですが、単純に、ロックダウンで家から出られない中でパールを身に着ける言い訳ができたとテンションがあがったとインタビューに答えている一般女性がいて、これでいいんだと思います。理由はなんでもいいから身に着けるきっかけがあればいいんです。
SAミーティングで、突然無茶ぶりで発言を求められたので、つい「このトレンドに自社SNSで乗っかった真珠ジュエラーの方はいますか?」と発言して場をピリつかせてしまいました。
たしかに政治的なことを会社SNSで発信するのはリスクも伴う場合もあるのですが、
女性初の副大統領の就任を祝福してパールを身に着けるということに世界中で46万人もの女性が参加するというのはすごいことだし、それに合わせたお仕事や日常生活でも身に着けやすいパールネックレスや、カマラ副大統領が愛用しているステーションネックレスに近いような商品を紹介するなど、せっかくならトレンドに乗っかる、というのもありだと思います。
この”Wear Pearls on Jan,20th,2021”(1月21日に真珠を身に着ける)は、”United By Pearls”(真珠で団結しよう)という名前を変えて存続するようですので、今後の動きに注目したいと思います。
もう1つ、コロナ中に、ファッションデザイナーのマークジェイコブスさんは毎日ミキモトのネックレスをつけてムービーに映っていました。
Harper's BAZAARインタビューでは、次のように述べています。
「いつもシルクの上に置いています。香水をつけて、メイクをして、最後につけます。それは祖母から学んだ儀式のようなもの。彼女はいつもどんな服でもパールネックレスを身につけていました。そして彼女の朝のルーティンはお風呂に入り、化粧、香水、そして最後にパールをつけることでした。」
「私の気持ちのどこかに、それはとても礼儀正しく、きちんとした、レディのような印象を持っています。レディのように、というのは、ある意味愛し、また嫌っていることでもあります。グレース・ケリーや、パールにふさわしい人のイメージを持っていて、それはとても控えめで礼儀正しく、本物のジュエリーのように感じるのです。」
「服を着たくない日でもこのパールをつけると、健康で、安全で、幸せだと感じる。このパールには幸運があると思うから、毎日身につけてしまいます。混乱と大惨事が起こっているこの時に、私はまるで、どういうわけか安全な気分になる。」
MARC JACOBSさんをメンズパールと呼ぶのはジェンダー的に正確ではないと思うのですが、これに触発され、ハリウッドスターや日本のファッション界でもメンズパールのコーディネートをよく見るようになりました。
ミキモトからも、近年コムデギャルソンとコラボしたメンズのラインもだされました。
私自身も、ここまではいきませんが、昨日のオンラインMTGにはセーターに1粒パールネックレスとグレー処理の淡水パールのブレス(ステンレスの時計にとても合います)を着けて臨んだのですが、真珠業者の経営者(主に中年男性)自身がパールを何も身に着けていないのはどこか違和感を感じました。
日本の業界も、二十歳の真珠キャンペーンなどがんばっていますが、一部の会社だけでやってもトレンドやファッションにはならないんです。
成人式の振り袖だって、バレンタインのチョコレートだって、その業界が一丸となってみんなで長年取り組んだからこそ「習慣」となっていき、みんながやっているから、という理由で必需品のようになっていくのだと思います。
真珠の日、と言われるものは、6月1日(真珠振興会が制定)と7月11日(御木本幸吉が真珠養殖に成功した記念)とがありますが、あまり大がかりなイベントは聞いたことがありません(真珠島で稚貝を放流するイベントは聞いたことがあります)。
老若男女、日本中がパールを身に着ける、そんな日にするにはどうしたらいいと思いますか?
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