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「当社だけ」等の優位性を意味する広告表現(No.1表示)の注意点ー景品表示法と消費者契約法ー


1 No.1表示とは

宝石やジュエリー業界でも、時折、広告のなかに、

「当社だけ」「最古」「どこよりも」「世界初」「極上」「最高級」

などの表現が用いられる場合が散見されます。

今回はこのNo.1表示の注意点と法的な問題点を一般的に整理しておきます。

これらの表示は、競合事業者の提供する商品に比較して優位性があるという趣旨であり、客観的な事実に係る表示といえますから、客観的な裏付けを必要とするものに該当します(末尾参考文献(1)参照)。

万が一、それに必要な裏付けがなく、かつ、著しく優良または有利であると一般消費者が誤認するような表示であれば、景品表示法上の不当表示や、消費者契約法上の不実告知に該当するおそれがあります。

まずは公正取引委員会の行政指導の基本方針(公的基準)を紹介したあと、景品表示法と消費者契約法上の制度やリスクを解説します。


2 行政指導の基本方針(公的基準)

公正取引委員会が平成20年に発表した「No.1表示に関する実態調査報告書」(後掲参考文献(2))には、次のような考え方が示されています。

① No.1表示の根拠となる調査結果に即して,一般消費者が理解することができるようにNo.1表示の対象となる商品等の範囲を明りょうに表示すること。
② No.1表示の根拠となる調査結果に即して,調査対象となった地域を,都道府県,市町村等の行政区画に基づいて明りょうに表示すること。
③ No.1表示は,直近の調査結果に基づいて表示するとともに,No.1表示の根拠となる調査の対象となった期間・時点を明りょうに表示すること。
④ No.1表示の根拠となる調査の出典を具体的かつ明りょうに表示すること。

つまり、本当に「ナンバーワン」かどうかは、利用者が商品の購入などの契約をするかどうかの判断の前提になる事情なので、利用者に誤解を与えないよう、その裏付けとなる客観的な数値または根拠を示すことを求めているということになります。

また、No.1表示は、常に順位が入れ替わる、唯一性が失われるなど状況が変化する可能性があるので、最新の調査に基づくなど特に慎重な対応が必要です。


3 景品表示法の不当表示(優良誤認と有利誤認)

もしかりに、優位性について必要な裏付けがなく、かつ、著しく優良または有利であると一般消費者が誤認するような表示は、景品表示法5条の不当表示に該当するおそれがあります。

① 優良誤認とは(景表法5条1号)

事業者が、自己の供給する商品・サービスの取引において、その品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、

(1)実際のものよりも著しく優良であると示すもの
(2)事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示すもの
であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を禁止しています(優良誤認表示の禁止)。(後掲参考文献(3))

② 有利誤認とは(景表法5条2号)

事業者が、自己の供給する商品・サービスの取引において、価格その他の取引条件について、一般消費者に対し、

(1)実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるもの
(2)競争事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるもの
であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を禁止しています(有利誤認表示の禁止)。(後掲参考文献(4))

③ 違反した場合の法的責任

景品表示法に違反する不当な表示や、過大な景品類の提供が行われている疑いがある場合、消費者庁は、関連資料の収集、事業者への事情聴取などの調査を実施します。調査は職権探知のほか、外部からの情報提供などからはじまります。

調査の結果、違反行為が認められた場合(なお、定められた期間内に根拠資料を提出できなかったとき、または提出した資料が合理的根拠と認められなかった場合は不当表示とみなされることがあります)は、消費者庁は、当該行為を行っている事業者に対し、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる「措置命令」を行います。違反の事実が認められない場合であっても、違反のおそれのある行為がみられた場合は指導の措置が採られます。

また、事業者が不当表示をする行為をした場合、景品表示法第5条第3号に係るものを除き、消費者庁は、その他の要件を満たす限り、当該事業者に対し、課徴金の納付を命じます(課徴金納付命令)。(以上について後掲参考文献(5))


4 誤認による取消し(消費者契約法4条1項、2項)

また、そのNo.1表示が実は虚偽だった、または合理的裏付けがないものだったという場合には、消費者契約法の「不実告知」(消費者契約法4条1項1号)にあたる可能性があります。

つまり、それを見たことで購入した消費者から「その店が唯一の国内取扱店だと思っていたから高かったけどそちらで買ったのに、違ったなら返品したい」という取消権の請求を受ける可能性があります。

法律要件としては、「重要事項について事実と異なることを告げること」により、消費者が、「その告げられた内容が事実であるとの誤認」をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたことが要件です。

なお、「日本ではうちでしか手に入らない」などのNo.1表示も、重要事項に該当する可能性はあります。

なぜなら、「その業者でしか国内では売っていない」という表示を信じたから、「他にもっと安い店がないかを吟味する機会を失った」、「他の業者でも取扱があると知っていたらそんな高値では買わなかった」ということも十分ありうるからです。

ちなみに条文上は、「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」(4条5項2号)という要件になってります。

なお、ダイヤモンドリングについて取消をみとめた裁判例として、

大阪高裁平成16年4月22日判決があります。

簡単にいうと、店員が「他店の一般価格に比べてお買い得ですよ」と嘘の勧誘をした(と認定された)事案です。

大阪高裁は、「事業者が、他の事業者が同種商品をいかなる価格で販売しているかについて、消費者にことさら誤認させるような行為をすることは、消費者の合理的な意思形成を妨げるものであって相当ではない。」として、「消費者が当該契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものであるから、同法1条1号の重要事項というべきである」として、売買契約を取り消すことを認めました。

(これについては宝飾店法務マニュアルでも解説しています。お持ちの方は102頁以下を合わせてごらんください。)


5 まとめ

今回は、いわゆる「No.1表示」について、景品表示法と消費者契約法にてらして解説ました。他にも個別事情によっては、不正競争防止法上の品質等誤認惹起行為(不競法2条1項20号)や、民法上の錯誤(民法95条)や詐欺(民法96条)も検討の余地があります。

以上まとめたように、競合排除のために安易に「No.1表示」をすることはさまざまなリスクがありますので、出す前に慎重に検討することが必要です。

広告担当者と法務担当が連携すべき分野の1つといえるでしょう。

なお、当然ですが、この記事はあくまで一般論を紹介しているものであり、個別の事案にたいする言及や法的見解を述べるものではありません。


<参考文献>

(1)結城哲彦編著『広告表示の法的規制と実務対応Q&A』(中央経済社2019年)109-111頁https://www.amazon.co.jp/dp/4502307912/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_jkkWEbWQ3PFGQ 

(2)公正取引委員会『No.1表示に関する実態調査について』(平成20年6月13日)

(3) 優良誤認とは(消費者庁)

https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/misleading_representation/

(4) 有利誤認とは(消費者庁)

https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/advantageous_misidentification/

(5) 景品表示法違反被疑事件の調査の手順(消費者庁)

https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/violation/?fbclid=IwAR0pD-3rrmj27CsK_0_pnU2R3mb2ygKGFTf9U1vo3bSNtekBmrSwtU51ALc

(6) 消費者契約法(消費者庁)

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/

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