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「お守り」として

 闇夜に忍び寄る大草原の魔物。音もたてず、野原の隙間から集団で我々を襲いにくる。鋭い牙や爪の前に、また一人また一人と私たちの仲間が倒れていく。
「私たちにもあの獣のような力があれば…」


 我々人類の祖は、約400万年前に出現した猿人アウストラロピテクスです。当時、私たちの先人は、木登りにたけた大型肉食獣、豹の祖先サーベルタイガーに毎夜追い詰められ、餌食にされていました。そこで先人たちは岩山に逃れ、追い迫るサーベルタイガーに「投石」、まさに“一石を投じる”ことによって撃退することに成功しました。大地の石は先人に生きる力を与えてくれた、それはまさに「 宝の石」、宝石の原点です。   
 大型肉食獣との死闘は400万年間続きました。彼らは最大の武器であるキバ、爪で先人たちの首を狙います。しかし先人たちは大地の石・投石から次々に石刃、石斧と武器を発明し400万年後、長年の宿敵に完全勝利しました。
 勝利の証として彼らの最大の武器である牙や爪を、襲われ続けた、“首”に着けました。ご存じのネックレスの原点です。ライオンやトラなど肉食獣は野生の強いパワーを持っています。その野生の奥にはさらに魔力、霊的なものが秘められていると先人たちは感じていました。その力の象徴、牙や爪を身に着けること! それは我が身に、野生の力強い霊的パワーを憑依させ、力強く生きるお守りとする、それがアニミズム(精霊崇拝)の源流です。
 先人たちが素手では絶対にかなわない大型肉食獣に完全勝利をもたらせてくれたのは、先に述べた大地の石でした。それが磨き磨かれ400万年の時を経て美しい瑪瑙(メノウ)の矢じりまで進化していました。素手では弱い人類は同時に弱い心の持ち主です。命を守り続けてくれた美しく進化を果たした大地の石が400万年後、弱い人の心を癒し、心のお守りとなっていました。

人類の宝物、宝の石・宝石は、身を守り身を飾る宝飾品・ジュエリーとして、心のお守りとなりました。

それは今から1万年前、ジュエリー文化の始まりです。            

一般社団法人ジュエリー学協会タイ支部長 門馬哲史

参考文献/資料
ジュエリーに心が宿る瞬間…(畠 健一著作)
Photo by Keyur Nandaniya on Unsplash

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