If the font of a name determines your life, spelling a name is useless.

2023.10.31



電車の中から山の様子などを見ていて、それからiPhoneの画面に視線を落とすと、小さくてお洒落な刺青の写真が流れてきた。それを見て、自分だったら何をいれるかなぁ、と思った。

写真の刺青の柄は、卵一個分くらいの大きさで、天使の後ろ姿だった。

羽っていうモチーフは良いなぁ。羽根というか、翼。でも、ちょっとバランスを間違えたらちょっとダサい気がする。そんなことを考えていて、絵を肌に刻むこと自体が難しく感じた。40,50代、いや、もっと歳上のお婆ちゃんになってから、後悔したくない。


やっぱり文字がいいかな。

それなら、犬の名前がいい。


そう考えているうちに、電車の速さがゆっくりになって自分の降りる駅に着いた。電車の扉から出ると、青空の下でベンチの影が傾いていた。歩きながらホームの薄茶色のタイルを眺めて、その映像と共に、名前を並べた感じの字面をイメージしていた。

J IRO
FUKO

犬の名前。今うちにいる犬の名前と、その前にいた犬の名前。どちらの名前もアルファベットで四文字に収めて、横文字で縦に並べる。字体も考えた。ゴシックじゃないやつ。二の腕にさり気なくいれる。二匹の名前は絶対忘れたくないから。


でも、ふと思った。二匹の名前、本当の名前は何だったか。英語じゃない。二匹とも和名だ。それなら、どちらも漢字で二文字だから、横文字で縦に並べて一目では分かりづらいような四角い配置にしよう。


そんなたわいもないことを考えていたら、職場の建物のすぐ近くの横断歩道までやってきた。



次郎
風子


もし肌に刺青をいれるなら、
二匹の名前をいれるなら、今うちにいる犬が生きているうちにしようかどうしようか。

いや、二匹以外にも生き物は飼ってた。
一番思い入れがある子は、ハムスターのハムちゃんだ。


hamuchan  

...?


建物の入り口をくぐるところで、ちょうど考えが行き詰まった。こんな突拍子もないことは本格的に考えたことがなかったけど、ここまで一通り考えてみると現実味が出てくる。大して深く考えていなかった事柄は何かをきっかけにすんなり実行してしまったりして、そのきっかけは意外と、偶然目にしたものだったりするのかもしれない。




歳を取るっていう事実について考えることは普段無いけれど、こういう時に、ふと気付く。
自分は、これから歳を取るんだって。

タトゥーをいれたお婆ちゃんになった自分。




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帰りに、たべる牧場ミルクを食べた。たぶん初めて食べた。おいしかった。

小学生の時に牛乳をコップに入れて冷凍庫で冷やして、何度も作って失敗し続けた、あの頃に作りたかった味は、こんなだと思う。





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