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【映画雑記】観音様とシンボルちゃん。1970年代アメリカンハードコアポルノ。

 ここ数日、ダラダラと1970年代のアメリカの初期ハードコアポルノを海外のアダルト動画サイトで色々と眺めていた。みんなが大好きなPornhubやXvideosの検索窓にvintage pornと入れると、1970〜80年代に制作されたハードコアポルノがヒットするのだ。
 
 いわゆる洋ピンって女優も男優もやたらと「ア〜ッ!イェ〜ッ!カモーンッ!カモーン、ンーッフ!ンーッフ!」ってとにかくうるさい印象がありません?しかし、初期のハードコアポルノは少ない照明、16mmフィルムによる「死霊のはらわた」ライクなルックのザラついた映像。画面が暗く、一応、映画としての体裁を保とうとはしているので、やっつけ仕事感がすごいベッドルームで喘ぎはするが淡々と営んでいる様子が映し出される。芝居なんて全くしない男優はどこか野暮ったいし、女優さんは下の毛の処理という発想がない時代だったのかおしなべてボーボーだ。

 また、洋ピンといえば画面に全く合わない謎の音楽センスだ。外人がまぐわっている様子を想像すると頭の中にディスコビートが流れてきたりしないだろうか。それくらいあの妙に陽気なチャカポコした雰囲気は強烈に印象に残る。デヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」が流れてるものもあったって話も聞いたことがある。アメリカ西海岸で人気だったレネ・ボンドの映画では、いかにも60年代を抜けきっていない、間抜けなアソシエイションと言うべきソフトロックが延々と流れていた…。そしてよく聞いたら男優がずっと騎乗位の腰のグラインドに合わせて「オゥベイベ…オゥベイベ…」って囁いてて大変にウザかった。
 
 観音様とシンボルちゃんが見えればいいだろという投げやりな製作姿勢、低予算、低賃金のブラック労働に支えられた画面から漏れ出すそこはかとないマフィア臭…。う〜ん…(…マンダム)。
 
 そうだ、こんな話があった。俺の大好きな映画「悪魔のいけにえ」はその異様さ故に大手の配給会社がつかず、塩漬けになりかけた。世界初の大ヒットハードコアポルノ「ディープスロート」をヒットさせた配給会社が名乗りを上げ、渡りに船と飛びついてようやく公開された。しかし、そこは「神戸芸能社」的な完全なマフィア企業だった。映画はドライブインシアターや深夜上映で大当たりしたが、製作者側にはまっとうな配当が入らず、のちのち権利関係でも大いにもめてその禍根は21世紀にまで持ち越された。日本においては2000年代初頭には「悪魔のいけにえ」のソフトが市場から消える事態にまでなった。映画にからむマフィア企業の悪辣さは、「ディープスロート」の主演女優、リンダ・ラヴレースがのちのちポルノ業界に闘いを挑んだことからも容易に察せられる。彼女が夫に銃で脅されて映画に出演するハメになったのは有名な話。
 
 その「ディープスロート」も見ることができた。ディープスロートとは男性のシンボルちゃんを喉の奥まで完全に飲み込む荒業のことである。いざ見てみると、映画の目的が目的なだけに、ストーリーなんて全くない(不感症に悩む女性が医者に相談するとなんと彼女のクリトリスは喉の奥にあった!、というフェラチオを見事に正当化する設定は存在する)のだが、伝説のポルノ男優ハリー・リームズが出ててたり、途中挟み込まれる志村けん的なチンマンコント(映画の性質上、観音様とシンボルちゃんを『直』にいじる)なんかも妙に牧歌的だったり、見どころはある。言い方は失礼だけど、妙に映画っぽいのである。映画なんだけど。ここが昨今のネット上に溢れるエロ動画と一線も百線も画してるところだ。ただ、やはりなんだか勘に障るどうでもいい音楽がズーッと流れている。アーカイブ音源かどうかは不明だが、スーパーのBGMのようなソフトロックからソウルっぽいものまでバラエティに富む。クライマックスの営みのシーンでは、プレイが盛り上がるに連れ、フランク・ザッパの「ダイナモ・ハム」を1000倍安っぽくしたような演奏が一緒に盛り上がっていく。イライラする。そもそも「ダイナモ・ハム」もそういう曲だったなぁ。

 エロの向こう側の人間の業、というと言い過ぎかな…。人間の中でも「性欲」という、特に男性が一方的に求めがちな欲求を、一方的にフィルムに焼き付けたような爛れた情熱が刻まれている。観ていてなんだか息苦しい。夫に強要されて出演したと後に告発したリンダ・ラヴレースをはじめ、のちにアンチポルノに転じる人々も多かったわけだし、「ディープスロート」の撮影現場は楽しいものだったという証言もあるが、どの立場に立つかで印象も変わるからそう簡単に信じるわけにもいかない。ほとんどは尊厳もクソもない現場だったんだろう。そこにいた人間のアタマがアルコールやドラッグでメタメタになっていたことも想像に難くない。そしてこれらのフィルムが目指したのはとにかく「儲け」である。人間の欲を見事に可視化した標本のようだ。

 オススメしたいけど、なんかどれもこれも観た後に胸焼けがするし、そもそもこれは国内では通報案件な映像なのでそもそもオススメしてはいけないのであった。


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